無色の俺と魔女の心変わり
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「白い衣装なら着るか?」
「……うーん、一億歩譲ってなら良いんだよ」
「そんなに他の衣装はイヤなのかよ」
「これは極彩色の白魔女としてのプライドだよ」
「この村は織物が名産らしいぜ。白い服なら何かあるかもよ?」
「べ、別に興味ないの。今まで出たことなかったから、他の服なんて外では着たことないし」
少しばかり口をとがらせてシエロは言う。腹をなでられていた猫は、するりとシエロの手を抜けて駆け出していった。
「なら今がチャンスじゃないか。俺は似合うと思うぜ、シエロの他の服も。むしろ見てみたいよ」
「み、みたい? お世辞じゃないのかな」
「ちげーよ。本当の感想だ。普通の女の子みたいな恰好もシエロなら似合うと思うぜ。髪もサラサラできれいだし、将来は美人さんになるさ」
多分。
「さ、サラサラかな?」
自分の髪を手ですくって、何本か離すと白髪の髪は太陽光に艶やかに反射する。
「馬車で思ったが、シエロは外の旅は初めてだ。初めてだからこそ、ちゃんとした服を着せて楽しく旅をさせてやりたいのさ。シエロは可愛い方なんだから、整えると結構すごいと思うぜ」
「そ、そうかな。まあ、そうじろうが、そこまでいうなら、まあ、うん。か、かんがえとくの」
シエロは珍しく魔女の帽子を両手で思いっきり深く被り、馬車から小物を運び出すのを手伝い始めた。
シエロも大人になったんだなあ。何も言わずとも俺の仕事を手伝ってくれる——まるで娘を持った父親の気持ちが分かるようだ。
とんとんと軽く肩を小突かれて俺が振り向くと、真面目そうな顔を頑張って保とうとしつつもにやけそうなミセリアがいた。
「総司郎、シエロは本当に娘なんですよね」
「ああ、まあ、そうね、そんな感じ」
「そうですか、ならばいいのですが——もし違うなら罪な言葉だと思いましたから」
「はあ?」
「あのシエロの表情、そして動き——女子の勘ですから雑談程度だと思って流してください」
「……はあ」
何のことだ。
「さて積み荷は全て下ろしました。いかがしましょう総司郎」
「まずは商人に話をつけてくるか。時間がかかるだろうから、シエロと散策でもしててくれ」
「ええ、そうしましょう。何かあればすぐに呼んでください」
「頼れる言葉だ」
俺はシエロとミセリアから離れ、商人と話をつけに言った。俺と村の商人は荷物の前で個数や価格を確認し、何の問題もなく取引を終える。
雑貨に関しては内容物を確認してもらい、広場で臨時販売して良い許可を得た。
「さてここからが勝負どころか」
俺はミセリアとシエロを店先に立たせて、村人に向けて商売を開始した。初めは物珍しそうに遠巻きに見ていた村人たちだったが、徐々に品物を買い始める。しかし価格をやや釣り上げていたせいで商品の動きが悪い。
そこで俺は訪問販売で学んだ話術を駆使しつつ、別の職場で習得した目の前での商品の公開説明を実施した。
その結果、ほぼ八割の商品を売り切り、行商人ギルドへ納金する金も稼げた。もちろんミセリアの剣は彼女に返せる。
行商人としてのスキルは、悲しいかなブラック企業を転々として鍛えられてきていた。
これまでの人生は全て無駄で、無駄な時間を過ごしていたと思ったが、俺は少しばかり自分を褒めてもいいのかもな、なんて頭の片隅で考えていた。
終幕 無色の俺と魔女の心変わり
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro