無色の俺と極彩色の魔女の休息
初めての方はこちらから
『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
https://ncode.syosetu.com/n6321fs/
「そういえば、そうじろうはなんであそこにいたの? 聖剣達の仲間だったの?」
そういえばシエロには事情も何も話していなかったな。シエロには話してもいいだろうと思い、俺は現実世界からこの異世界に来た経緯を話した。質問の中にはアトラスや独り言の理由も聞かれ、現代でも見たことがない特殊な鎧みたいなものだと説明する。その鎧にはお化けみたいなやつがいて、話すんだとも。
「へえ、現代ってところは科学が発展してるんだね。お化けも扱えるなんてすごいんだよ」
正確にはお化けではないが、分かりやすいからそれでいいだろう。
「じゃあそうじろうは、何の目的もないの?」
「ん、ああ、まあ、そうだな」
現実に帰りたいと切望しているわけでもないし、アトラスを使って異世界で困っている人を次々救ってヒーローになるでもない。逆に破壊の限りを尽くすわけでもない。
俺が俺として何者かになるために、俺は異世界に来たんだろうなあとは思う。その結果シエロを守っていくのが一番俺らしく生きている気がするなとここ最近は思っていた。
生きる目的ができたというか。誰かのために生きることを知ったというか。具体的に説明するのが難しい。毎日仕事の事ばかりや、過去や未来に悩むだけだったのに、他人のために生きるのが楽しいだなんて、なんか不思議な気持ちだ。
今はシエロの手伝いが目的かな。
と言おうとしたが、さすがに恥ずかしいのでやめた。
危ない危ない、のんびりした気候で二人でゆったりしてると気が抜けて妙な事を言ってしまいそうだ。
「シエロは外、楽しいか、初めてなんだろ?」
「楽しい。こんなにも広い空があるなんて知らなかったの。森はずっと暗かったし、こんなに綺麗な空は初めて」
折れたとシエロは空を眺めながら、のんびりと街道を走り、たまにすれ違う馬車にシエロが手を振ると御者は手を振り返してくれた。
腹が減ったら行商人ギルドが与えてくれた行商費で買ったハムを挟んだサンドイッチを二人で食べた。
「もしかして、行商人も悪くないかもな」
前衛で危険な獣やグロウスと戦うこともなく、戦いに巻き込まれることも少ない。こんなにのんびりしたのは何年ぶりだろうか。大学生以来じゃなかろうか。
「よし、日も暮れてきたし今日はこの辺で野宿にしよう」
「やった、のじゅくだのじゅくー!」
長旅の疲れもなくシエロは元気よく馬車から飛び降りた。俺も開けた場所で火を起こして、寝る場所は馬車の中だな、なんて考えて馬車の中に顔を突っ込んだ時、積み荷を積んだ時にはいなかったものがそこにはいた。
積み荷の一つの、布にぐるぐる巻きにされた長細い棒に抱き着いたまま、寝息を立てる少女の姿があった。
終幕 無色の俺と極彩色の魔女の休息
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro