無色の俺と極彩色の魔女の休息
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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アトラの小型人工衛星からの情報では、次の村までは丸一日かかる。このテストでは必ず何処かで一晩を過ごすことが前提になっているらしい。行商に適性があるか見るのだから、一晩くらいは当たり前なのかもしれない。
先はまだ長いが俺とシエロは二人で馬車に揺られながら珍しく無言で過ごした。
居心地のいい無言だった。誰かといて話題に悩まなくていいのは気軽だ。
鳥のさえずり、草木の音色。花の香。そのどれもは子供の頃に当たり前に感じていたものだとふと思い出す。大人になるとどれも感じることはない。
きっと毎日思考で頭の中がぐちゃぐちゃだったのだろう。それとも何も考えることができないほど思考が弱っていたかのどちらかだ。
子供の頃には戻れない。もう三五歳。異世界に来てもやっぱり子供のように自由には振舞えない。だが現実世界のように空気を読み過ぎて生きる必要もない。
シエロの魔術をなくすという旅についていくのも結構悪くない人生だ。こいつ一人じゃ危なっかしいし、シエロの楽しそうな姿を見ていると心が鷲掴みになるような気持ちになる。
リズム感のある馬の足音を耳に入れながら、シエロの横顔を盗み見ると、柔らかな瞳で自然の風や日向を全身で感じ取っているようだった。日向にいる猫みたいだ。
「なあ、シエロ。お前はあの館でずっと生きてたのか?」
なんとなく思ったことをシエロに聞く。あんな深い森の中で一人で住んでいたのならば、物凄い悲しいことだ。上空から見たときは街の光が全くなかったし。
「うん、生まれてから、ずっといたよ」
「両親もいたのか?」
「見たことない。でもシエロには姉さんが三人いたから寂しくなかったよ」
「そうか」
極彩色の魔女の役割はよく分からないが、人里から離れて隠れて住む必要がるのだろう。
「でも姉さんたちも、みんな捕まっちゃって、今はこの世界のどこかで魔術装置にされてるんだって、姉さんが最後に飛ばした伝言が言ってた」
魔術装置、それは俺が初めて会った聖剣使いの黄金甲冑の話にも出たやつだ。なんでも極彩色の魔女を魔術の動力源にするとか。そのやり方は人には言えないほどエグイ括り付け方だと言っていた。
「シエロは姉さんたちも助けたい。でも連れて行った奴らはきっと魔術を武器として使う。姉さんたちも極彩色の魔女だから、無尽蔵に魔力は生成されるの。だからせめて魔術の元を減らすにはグロウスを全て狩れば、致命的なレベルの魔術は行使できないってシエロは考えたの。それなら姉さんの魔術にだけ対抗する力があればいいの」
悲しそうにではなく、淡々と事実を語っているようだった。
俺には逆にその決意の固さが悲しそうに見える。
「世界中に極彩色の魔女は沢山いるの。太古の昔に魔術が存在していた時代から知識を受け継いだ血族たち。でも魔術を消せるのはシエロだけ。シエロは極彩色の魔女の中でも、唯一魔力に関するものを消し去る——鎮魂を司る《極彩色の白魔女》。世界を元の白に戻せる唯一の存在なの」
「お前、そんなにすごかったのかよ」
「本当は姉さんの誰かが正式に継ぐはずだったんだけど——シエロしかいなくなっちゃったから。姉さんたちを助けるのもあるけど、魔術で世界が壊れていくのもイヤなの。グロウスの鳴き声も可哀想なの」
「そうか、がんばったな」
こいつは姉の代わりに白魔女としての役割を背負い、魔術で世界の均衡が崩れないように大本となる力を消し去ろうと一人で背負い込んでいたのだろう。
「うん、シエロ、がんばってる」
「ああ、がんばってる」
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro