無色の俺と仕事探しギルドの輪舞
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「宜しくお願いします」
挨拶をして席に座ると、目の前には六十代くらいの厳しい顔したおじさんが座っていた。
「はい、宜しくね。あー、貧相だねえ、鍛えてる?」
「はあ、まあ」
「じゃ、名前良いかな」
「義贋総司郎です」
「ギガン、ソウジロウね。変わった名前だ、国は何処」
「日本です、東北の方」
「はあ、聞いたことないねえ、俺はここから出たことがないからねえ」
なんで聞いたよ、と思いつつもハハハと笑う。
「それでどんな仕事に就きたいの。歳はいくつ?」
「三五です。仕事の方はまだあんまり分からなくて」
「はあ、三五? だめだめ、三五で無職なんて。仕事の事もしっかり考えなきゃだめだよお」
「ええ、仰る通りです」
「義贋さんだっけ? これまでは何してきたの」
「これまでは大学を卒業後、大手広告代理店に勤務しておりましたが、一身上の都合により一年で退職。その後、中小企業を転々としながら、最近までは訪問販売員をやっていました」
「訪問販売ねえ……義贋さん、全然ダメだね。それじゃやってけないよお? その細身じゃ剣を持ったこともないだろ? 嫁さんはいるの?」
「いえ、いませんが、食わせていかなきゃいけない奴は——阿保みたいに食べるやつらが二人います」
「奥さんに逃げられた上によく食べる小さい子供二人もいるのか、そりゃ可哀そうだ。義贋さん、あんたもっとしっかりしなきゃダメだろ、子供たちの為に!」
「ええ、仰る通りで」
なんで俺は異世界に来てまでおっさんに説教食らっているんだ……鹿も嫁さん逃げられたと思われてるのが悲しい。
「あーでもねえ、そのなりじゃ、まっとうなのは紹介できねえかなあ」
おじさんは指に唾を付けてから、手元の束を何枚かめくる。
「なんか特技はないの、特技でもないとハローワークギルドから紹介できないよ」
「特技ですか、特技——習字?」
首をひねって出てきたのは小学三年生の時だけ通っていた習字教室の名残だった。
「字を書けるのか、書けないよりはいいが最近じゃ普通じゃねえか。じゃあ得意なことはないのか、走るとか狩りが得意とか」
「特異な事……エクセルは出来る方でしたかね。グラフ作成とか、基本的な事は一通り。あとパワーポイントで資料作成」
「表計算? 資料作成? ほお、そいつは凄いな」
俺を完全に何もできない中年だと認識していたのか、エクセルとパワーポイントと聞いた途端に感嘆の声を上げる。おいアトラ、変な翻訳してないだろうな。なんかおっちゃん、生き生きとしてきやがったぞ。
「よし、んじゃ最後だ。好きなことはあるか?」
「そうですね——」
好きな事、好きな事。毎日朝から晩まで働いて、家に帰れば数時間だけ寝る日々。食べ物を作る気力もなく、毎日コンビニ食。そんな俺に好きな事なんてあったのだろうか。
その時の俺にはなかったのだろう。でも今は好きなことかもしれない、これが。
シエロの笑顔が脳裏をよぎった。
「人の笑顔ですね」
「おっし、そうこなくっちゃ!」
おじさんは指をパチンと鳴らし、俺に一枚の紙を押し付けた。
「ここに行きな、ぎがんさんにぴったりのぎるどを紹介してやる。そこで話を聞いて、試験を受けて、しっかりと子供二人を食わせてくんだ。俺も子供がいるが、子供ってのは頑張る原動力にだな——」
「あ、ありがとうございます」
話がとても長そうだったので、感謝の気持ちを述べて、紙を受け取りすぐさまその場を走り抜ける。
ひとしきり離れたところで抱きかかえた紙をしっかりと見つめた。
さて、相談員のおじさんは俺にどんなジョブを進めてくれたのか。
剣士か、格闘士か、はたまた弓使いか。マリアベルが口にしていた魔獣使いなんて言うのもファンタジーぽくて楽しそうだ。
高鳴る胸の鼓動を聞きながら、目に入った言葉は。
「行商人ギルドへのご案内……だと?」
戦闘職ですらなかった。
終幕 無色の俺と仕事探しギルドの輪舞
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro