灰色だった俺と山吹色が照らす道筋
初めての方はこちらから
『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
https://ncode.syosetu.com/n6321fs/
「うちが魔導士ギルドを作る」
「魔導士……ギルド……魔術師じゃないのか?」
「うちは魔術の才能がないからね。でもその代わり、魔術道具は使える。だからここに新しいジョブを作った。今はまだ魔術研究ギルドくらいしか、魔術関係はないからね。うちは魔術師じゃなくて魔術道具を扱うもの魔導士。グロウス化する謎を突き止め、道具を利用して人間に戻すスキルを探す集団。悪くないでしょ?」
魔の道具を極め、人間に戻す願いを持つ者を導く者たち——魔導士。
「悪くない。良い名前じゃないか。いつか旅の途中で魔導士たちと出会えることを楽しみにしてる」
「へへ」
照れくさそうにマリアベルは笑う。
しかしなんだ、出会った頃より打ち解けてくれたのかなかなか可愛く笑うようになったな。
「——ん? 今ギルドって言った? それもしかして仕事貰えたりするとこなんじゃ?」
映画とか子供の頃やってたゲームで聞いたことがある。イメージとしてはキャラクターの職業毎に組合があって、組合の仕事を分け与えてくれる組織だ。
「貰えるんじゃないかな。でも総司郎何ができるの? 見たところ剣がないから剣士でもないし、アサシンでもない。格闘家って感じでもないよね、細いし」
「細いは余計だ」
「あ、もしかして獣使いのテイマー? なんか黒いの呼んでたし。あれ獣か何かなの?」
「少なくとも獣ではないな……」
アトラは何でも焼け野原にしたがる危険思考の人工知能だが。
「じゃあ仕事貰う以前に、ギルド加入試験も合格できなさそうだね」
「ま、マジか……正社員から異世界にきて無職とは……」
「なんとかなるよ、総司郎なら! まあ、もしだめなら、う、うちが、まあ、シエロちゃんと面倒見ても——ってばか!」
「何一人で激しいノリ突っ込みしてるんだよ。現代人か」
「べ、別に何でもないし、これは気の迷い、うん、吊り橋効果で気の迷いだ、うん」
掌で自分を仰ぎ、頬の熱を冷ましている人は無視して、
「とりあえず街に戻ろう、生活費の事はその後考えるか」
宿代と服の代金どうすかなあ……。
「ねえねえ、シエロはどんなギルドには入れるの? シエロは魔術師? バーサーカー?」
「いや、お前は魔女そのものだろ」
極彩色の魔女なんだから。
「むむ、シエロもカッコいいジョブについてみたいんだよ」
「これまで魔術開発されてなったから、肉弾戦に強いギルドしかないから、シエロちゃんにはまだ早いかなあ」
「むむむ、鍛えるしかないんだよ」
そういうとシエロは俺の右手を引っ張って走り出した。金も仕事もないが、シエロが笑顔でいてくれるだけでなんかそんな不安は全て片付いた気持ちになってしまうのだ。
まったく、駄目な中年だろうか。
余談だが、街に戻った後のグロウスオークションでは圧倒的にマリアベルの圧勝だった。金だけはあるようだ。想像はしていたが、このあたりの鉱山を買い占めていた商人の家柄だったとか後で知ることになる。
グロウスの亡骸はシエロが鎮魂歌を歌うと、空気に溶け込むようにさらさらと消えていった。
母親はもう罰の焔に身を焼くことはないだろう。次生まれてくるときは、グロウスではない。
その話をしたときマリアベルはその場で泣き崩れた。
亡骸へ最後に言えなかった言葉をつぶやいた——マリアベルの屋敷のベッドで、何もない天井を見つめながら思い出す。シエロはもう夢の中だ。小さな寝息を立てている。
若い時に好きかってやってるうちは、言うタイミングないんだよな。この言葉。
生んでくれてありがとう、なんて照れくさいじゃん?。
終幕: 灰色だった俺と山吹色が照らす道筋
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro