灰色だった俺と山吹色が照らす道筋
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「何やってるんだ……父さんまで、いなくなっちゃうじゃない」
二回目の拳にはもう力が無かった。
ぽすぽすっと何度も俺の胸をマリアベルは叩く。
「よく見てみろ」
そういってフードを脱がしてやと、マリアベルは目に涙をためたまま半休体となったアトラスを見つめた。
「あれは、なに……?」
「まあ、なんだ、偶然の相棒というかなんというか」
無理やり異世界に連れてこられただけなので、どう表現したものやら。
『マスター。良いお知らせと悲しいお知らせがあります。どちらが宜しいでしょうか』
「良い方から頼む」
先に悪い方を聞いたら、悪い方を打開する思考に入ってしまう。なら良い方を先に聞くのが俺の流儀だ。
『想像以上に品質管理モードは効果がありそうです。特殊な種族の為、他の同種族に使用できるのかは怪しいところですが』
「それは良かった。親父さんに効果があると分かっただけで大成功だ」
『悪い報告ですが、アトラスの燃料切れが深刻です。自己活動動力を残し、空になってしまうのも時間の問題でしょう』
「この作戦を考えたときから、そこは多分クリアしてるぜ」
俺はそう言って右腕を天高く差す。
「この鉱山そのものは魔力の塊なんじゃないのか?」
アトラスは異世界へ移動した事で常に燃料不足だが、生物や植物などを取り込むことで微々たる燃料を確保してきた。けど初めてシエロを助けたあの日、シエロは俺にパスカルを移し、アトラスを再起動させた。
パスカルはグロウスだ。グロウスが持つ魔力そのものをアトラスは取り込めるはずだ。
『仰る通り、この鉱山内部にこちらで収集した魔術が放つ波形に似たデータを観測できます。ですが、これらを吸収するにはパスカルを取り込んでいるマスターがいなければアトラスは魔力喰いが行えません』
「なんだその面倒なものは」
『アトラスは人の意志の方向性が必要ですから』
「しかたねえ、向かうか」
いくらマリアベルの攻撃を避けていたとしても、ぎりぎりで避けた傷や細々としたイシツブテでついた切り傷など、地味に痛くて、本当は地面に座り込みたい三五歳の中年なのだ。
「そ、総司郎なにをするの?」
マリアベルは膨らみかけた胸に手を当て、心配そうに俺を見つめている。
「親父さんを氷漬けにして、グロウスのまま封印する。今は魔術革命時代だ、もしかしたら人間に戻す魔術が開発されるかもしれないだろ? シエロに歌ってもらうのはそれからでも遅くないさ」
『マスター、若い子の前でかっこつけていないで早くしてください。十、九、八、七——』
「お、おい、突然数えんなよ! 意味わからんよ! 数えられるとなんか急ぐしかねーじゃんん! シエロ、マリアベルのそばにいてやってくれ!」
俺は小屋に叫んで、急いで半休体に向かった。
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