灰色だった俺と宝石の魔導士
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「アトラはマリアベルを押さえ込め!」
『承知しました、マスター』
承諾の後、俺の腕からアトラはバラバラに分かれて、立ち上がろうとしているマリアベルの右太ももに取りつき、そのまま地面に押し倒す。
「な、なにこれ、ま、魔術?」
『地面との同化完了いたしました。それとそちらの方も、すぐに』
俺はラプチャーから目が離せないので、後方を見ることはできないが、きっとマリアベルはアトラによって地面に貼りつけ状態だろう。
「ああ、予定通りだ」
生身となった俺は一心不乱にナイフを振り回す。
ラプチャーは高速で魔術を紡ぎ、火球の他にも風の塊や水の竜を呼び出すが、アドレナリンが全開で出ている俺に当たるわけがない。当たるわけがない、当たるわけがないんだ。
水流の首を切り落とし、かまいたちをナイフで切り上げ、上空の火球へコンバットナイフを投げつけて消滅させる。奇跡だ、奇跡過ぎる動き。
そして俺はラプチャーに、一発の拳を見舞うため、腰を大きく捻り、
「な、なまみで、グロウスををなぐって、も、自分が痛い目見るだけ、」
マリアベルの叫びは無視して、全身の体重を拳に乗せる。
「ううううぁぁぁあ!」
俺の気合の声と共に、体の中央から生命力の塊のような焔が拳に集まっていく。
白い焔が右腕を包んだ。
「おらああ!」
ゴキッと音がしたのはどちらの骨か。殴った衝撃は俺の肩までもろに伝わり、俺自身が悲鳴を上げる。
ラプチャーの右頬にクリーンヒットした拳の力は、直接ラプチャーに伝わり、白い焔がラプチャーの頬に付着したまま、彼は大きく吹っ飛んだ。
「今だ、アトラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!」
『承知しました。一度覚えた道ほど、楽なものはないですね。マスター』
軽快な口調と共にアトラスの残りのパーツが全て、倒れたラプチャーの上に集まっていく。細かすぎてまるで虫が集まっているようだ。
『異世界未確認生物確認モード起動、及び保存を開始します』
俺の耳元だけに響くアトラの説明は、要するに異世界の生物のデータとるから保存しますよ、ということだ。対異世界探索強化型パワードスーツなのだから、素材を確かめる術があるはずだとは思っていた。
「悪いなマリアベル、シエロも警戒していたようだが、シエロは一人じゃ何もできない」
俺が倒れているマリアベルに語り掛けている間も、アトラスは形を変化させバラバラになった部品がラプチャーを取り囲む黒い半休体として変化していく。
「アトラ、マリアベルも解放していいぞ」
『承知しました。右腕も確認作業へ加わってよろしいでしょうか』
「ああ、頼む」
体をやっと起こしたマリアベルは、フードを深く被ったまま、力なく歩き、拳を強く握ったかと思うと、俺の右頬を強く殴った。
指に宝石は挟まれておらず、俺はなんとか口内を切っただけで済んだ。
終幕 灰色だった俺と宝石の魔導士
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




