灰色だった俺と宝石の魔導士
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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少女はロングコートを羽織り、ロングコートに付いているフードを深く被っている。金髪の髪とピンクフレームの眼鏡がほんの少し見える。表情は硬く、俺は小学校の思い出が脳裏をよぎった。喧嘩の中の友達と翌日、学校であったとき、そいつも同じようにバツの悪そうな顔をしていた。
マリアベルの一歩後ろには青白い焔をまとった父親のグロウス——ラプチャーが、ぬぼうと突っ立っている。
「総司郎一人、シエロちゃんは逃がしたのかな?」
「逃がした、と言いたいところだが、マリアベルは気が付いているんだろう」
マリアベルは子供の頃からこの鉱山に出入りしていたといっていた。ならば地下二階層の小屋を知らないわけはない。
「ふーん、下手な芝居は打たないわけだ。でもそんな丸腰で、うちとどうやり合うの?」
確かに俺はマリアベルから見れば丸腰の男だろう。右腕が薄緑に光っているのはもう認識されているだろうから、アトラスの右腕は警戒されるはずだ。
「俺たちを逃がしてくれる選択肢はあるのか?」
「父さんのことを一言一句言わなければ、ね」
「約束はできるが、俺たちはいずれまたここに現れる。全てのグロウスを鎮魂するために」
それに逃がす気もないだろう。グロウス化した父親を見つかったときの咄嗟の行動、あまりにも判断が早すぎる。ここにグロウスがいることが知られた以上、世間には絶対に知らせたくないのだろう。この魔術革命の時代だからこそ。
「鎮魂、それは殺すってことでしょ。ならうちは引けない。父さんを助けたいわけじゃないけど、私の感情が、まだ話したいって言ってるんだ!」
マリアベルは内ポケットから緑色の宝石を取り出して、指の間に三つ挟んで拳を握る。
「グロウス狩りに知られた以上、引くに引けないんだ!」
背を軽く屈めてボクサーのようなスイングで一歩前に出る。あまりに早い。次は二歩。三歩。俺はすぐさま両腕を構える。接近戦に持ち込んでくるなら、飛び道具がない俺にとっては好都合だ。
マリアベルは何処で覚えたのか、まるっきり現代のボクサーのように身軽にジャブやストレートを瞬時に連続で繰り出す。足捌きは完成されていてとても素人とは思えない。
「総司郎には悪いけど総司郎は殺して、シエロちゃんはうちに引き取る」
「それは願い下げたいな、殺されるのは痛そうだ」
五月雨のように放たれる拳を一つ一つ確認しながら正確に避ける。流石俺、ブラック会社で上司に毎回殴られていたから、顔だけは殴られないようにと、死ぬ気で回避技術スウェーを自宅トレーニングしてて良かった。
『感動しているところ水を差すようですが、アトラスの補助効果です。アトラスを使用できるということはその行動についてこれる動体視力が必要なので、神経をバーストさせていただいてます』
バーストってなんか怖いこと言っているが、さすがに突っ込みを入れるほどの余裕もない。
「フッ!」
気合を込めて拳を振り抜いたマリアベルは、地面から延びていた岩の塊を一撃粉砕する。
「当たらなきゃ意味ないね」
色を失った宝石を地面に投げ捨て、次の緑石の宝石を指に同じようにセットする。
「次は避けられるかな?」
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