灰色だった俺と悲焔の少女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「ごめん、そうじろう」
ふるふるとシエロは首を振る。
「もし助けと呼べるなら、それは《煉獄の輪》から引っ張り上げてあげること、次は万物に生まれ変われるように鎮魂歌を歌ってあげる事だけなんだよ」
「……何か方法はないのか、アトラ」
『異世界のデータが足りません。現状では道具に術式を刻み込んだ魔術、グロウスの青い焔というデータのみが蓄積されております。更に魔術に関する情報が集まれば、あるいは』
「万事休すか……」
対異世界探索能力強化型パワードスーツ、アトラスならばと思ったが、確かにそうだ。まだ来たばかりの俺たちでは、魔術の何たるかすら分からない。何たるかを知らんないものに特効薬はない。
「シエロ、《鎮魂歌》は完了までどのくらいかかるんだ」
「一説から十三節まであるけど、今回は第三節が有効だから、三分くらいだよ。三分間、そうじろうが抑えてくれてるだけで大丈夫だよ」
「三分か」
それを能力未知数の親父さんと、宝石を投げまくる娘を抑えつつ、右腕だけでやらなければいけない。
「俺に出来るのか……?」
シエロを守りながら、アトラスの右腕の力に振り回されず、グロウスとマリアベルを殺さない程度に戦うことが。
ぶんぶんと頭を振る。
考えろ、考えるんだ。どんなに追い込まれても必ず道はある。恐怖や緊張なんかに飲まれるな。冷静に状況を判断しろ。
もし俺が死んだらシエロが殺される。それだけは絶対に避けなければいけない。
俺の家族でもなんでもないが、一人で世界と戦おうってやつを俺は守っていきたい。自分が心に任せて選んだ道だ。
シエロの旅に着いて行こうとしたとき、灰色だった心に色が生まれた気がした。真っ白な地図のような可能性をシエロは俺に与えてくれた。
だから俺は、全員が不幸にならない道を探す。探したいんだ。
『マスター、後方距離二〇〇、今回のエネミーは便宜上、ラプチャーと呼称します』
「シエロ、俺から離れるなよ」
「うん、無理しないでね、そうじろう」
「ああ」
俺が先に小屋を出る。シエロは隙を見て鎮魂歌を発動する。
あちらから薄緑の光は認識できているだろう。
俺からも見える。父親と並んで歩く下唇を噛んだ少女の姿が。
終幕 灰色だった俺と悲焔の少女
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




