灰色だった俺と悲焔の少女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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シエロは最後の本を抱きかかえて、俺の元ですぐに開く。
「これ、人がグロウス化した場合の対処法が書かれてるよ!」
「え、グロウスって人に戻せるのか? だったら鎮魂歌も必要もないんじゃ」
「無理なんだよ、魔術は人間には過ぎた力。人の『きもち』が次の領域に届いていないのに、高等過ぎる力を持った罰。だから魔術に汚染された人間はグロウス化して、死んで何度もグロウスをやり直すんだよ。人には戻れない、魔術はそれほど人に早すぎた禁忌なの」
ページを高速でめくりながら、目は瞬きをしない。シエロは内容を脳内に叩きこんでいるようだった。いつもはボケっとしてるのに、魔術のこととなると頼りになる。さすが極彩色の魔女様だ。
「魔術汚染は神への信仰が足りない者から起きる。神から与えられた魔術という力を疑う者は汚染されやすい——グロウス化が始まる前兆は日に日に体を蝕んでいくので誰が見ても明らかである——グロウス化を止める唯一の方法は、高純度なグロウスを使用した高位治癒魔術が効果的で——」
そこでシエロは頭を左右に振り本をゆっくりと閉じた。
「どれも違う……。元々人間には生まれつき魔術抵抗があるの。それは筋力のようなもの。生まれつきの差があって、歳を取るにつれて衰えが始まり、魔術にどれほど触れてきたかでグロウス化する速度は変化するの。子供でも生まれつき魔術抵抗が弱ければ、グロウス化してしまうの」
「そうなのか、シエロたちは大丈夫だったのか?」
「シエロたちは生まれながらにして魔術抵抗が強い血族なの。だからグロウスになる事はない。だからこそ唯一グロウスを鎮魂する手段を研究し、有しているの」
「そうだったのか……」
「あとこの本に書かれている高位治癒魔術だけど、魔術に治癒は存在しないの。もし治癒が出来る生き物がいたら、それは人間よりも高次元の存在だって姉さまたちは教えてくれたの」
「そうか、だんだん話が見えてきた」
俺の想像だがマリアベルは黒甲冑に魔術を教わり、両親はそれをよくは思わなかった。
マリアベルは熱心に自宅で魔術を研究していたのだろう。黒甲冑のようになりたかったのだから。
だがよく思わない両親もいたせいか、子供の頃に使っていた隠れ家に研究所を移した。父親は研究所を移したマリアベルを説得するために何度もここに通った。
そしてマリアベルが留守中か、もしかしたら目の前でかもしれないが、父親は魔術に汚染されてグロウス化してしまった。所謂、魔術抵抗が弱かったということだ。
マリアベルはグロウス化した父を治療するために、良質なグロウスの素材を探していた、ってとこか。それが自分の街で開催されるオークションに出されるから、戻ってきたとこで俺たちに出会ったのかもしれない。
シエロも同じ考えなのか、俺の顔を見てうんと頷く。
「助けられることなら、親父さんを助けてやりたい」
無理だと分かっていても、俺は呟いてしまった。
子供をまっとうな道に戻らせようとして説得した父、憧れの人につ近づきたいと魔術を学んだ娘。それが転生してもグロウスとして焼かれるほどの罪なのだろうか。
俺には分からない——いや分かる。
これは過剰な罰だ。
グロウスと魔術のシステムをどこのどいつが作ったのか知らないが、俺は絶対に認めない。
無謀な夢を追おうとする子供を止める話なんて、現実世界ですらどこにでもある話だ。魔術の入り口に立っただけで、あまりにも対価がでかすぎるじゃないか。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




