灰色だった俺と悲焔の少女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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黙っているシエロを俺は放っておいて、書物を読もうかと思ったが——シエロの帽子を剥ぎ取って、無理やり白髪の頭をゴワゴワと撫でてやった。
「あっわわわわ、な、何するんだよ!」
「別にーーーーーー」
そういって更に頭を強くなでる。
「そ、そうじろうは、しょ、傷心の女の子を虐める悪いやつだよ!」
「はっはっは、そうかもな」
ぱっと頭から手を放して、無理やり魔女帽子を被せてやる。方向が反対だったのか、シエルは不機嫌そうに帽子をくるくる回して、よしっと言った。
「なあ、シエロは字が読めるのか?」
「読めるよ、これでも魔術の本は嫌というほど姉さまに読ませられたんだから。全部燃やしたけど」
平らな胸を元気っぱいに張っているが、君たち極彩色の魔女はそれで、極彩色の罪人なんて呼ばれたんですからね?
「魔術書で焼いた、おいもはおいしかった」
「なんでお前らは緊張感ないの? もしかして他の魔女もこうなのか?」
「む、なんかすごく失礼なことを言ってる気がするんだよ」
頬を膨らましたシエロの頭には、ふんすっ! という記号でも飛び出しそうだったが、俺の太ももに目線が動くと一瞬にして顔の血の気が引いた。
「その足、シエロを守って……」
「ああ、違う違う。まあなんだ、その辺に布でもあるだろ、ちょっと取ってくれ」
シエロは慌てながらも、言われるがままに布を持ち、俺の太ももに押し当てる。
「手に血が付くだろ」
「いい、やる。やらせてほしいの」
シエロはじっと染み込んでいく血を見つめている。そういえば初めて会った時も、巨大オオカミ——パスカルの血みどろ顔に体を押し付けていたっけ。
泣きそうなシエロの手をそっと外し、俺は手際よく太ももに布を強く巻き付ける。
まさかブラック会社で上司に刺された時の為に練習していた止血法が、こんなところで役に立つとは思いもよらなかった。ブラック会社で働いても、役に立つことはあるんだな、主に異世界で。
「……だいじょうぶ、そうじろう?」
「このくらいどうって事ないさ、それよりどれか本を読んでくれ。多分マリアベルの書物だ」
「う、うん」
いくつかの本を両手で胸に抱えたシエロは、俺の足元に本を置いて座る。
右腕の光を頼りに、本をぱらぱらとめくりだした。
「この本の内容は全部、まがいもの、だよ」
「まがいもの、か」
「こっちもこっちも……どれもそれらしくは書かれているけど、魔術の本質にはどれも触れてないんだよ」
「そりゃ、まだ魔術開発が始まったばかりだから、想像で書いてる本も出るんだろうなあ」
俺の世界でも自分の考えだけをびっしり書いた自己啓発本とか沢山あるし。
シエロは次の本を探しに本棚へと戻る。
「残りのあの本はどうだ、タイトルは?」
「こっちはグロウス研究基礎と、グロウスと生命の関係、あとは——」
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




