灰色だった俺と悲焔の少女
初めての方はこちらから
『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
https://ncode.syosetu.com/n6321fs/
『遅れました、マスター。言い訳をするなら道が混んでいまして』
宙でバラバラに分解された部品が一つ一つ俺の右腕に吸い付くようにハマっていき、ネジが装甲板を留め、右肩までアトラスが覆う。最後に肩から腕へのラインへ、薄緑色の光が灯り、蒸気が噴き出す。
ほぼ同時に俺の腕に着弾した黄色い宝石はキンッと小さな音を立てて、中央から外側に徐々に光を放出し——すぐには爆発しない。
『驚きました。こんな小さな空間に密閉された熱量は、ダイナマイトと同等でしょうか。マスター衝撃に備えてください』
「シエロ!」
無口なシエロをしっかりと抱きかかえ、右腕で自身を守る。
熱を皮膚に感じて全身は守り切れないと本能的に理解したとき、宝石内に溜まった魔力が光と共に爆発した。
俺はシエロを抱きかかえたまま、ボロ雑巾のように後方に吹っ飛ばされる。鉱山の壁に叩きつけられるのかと思いきや衝撃はない。
ただ暗闇の中を真っ逆さまに落ちているだけだ。
そうか、鉱山だから更に下層へ繋がる縦穴へ、吹き飛ばされたのかもしれない。
俺はシエロをぎゅっと左腕で抱いて、宙で右腕を壁へ向けておもむろに掴んだ。
壁はまるでチーズのような感触で、俺が腕で引っ付かんでも指の後を残すだけで止まらない。だが減速はできた。
「怪我はないか、シエロ」
「う、うん……」
気落ちしたシエロを抱えながら、右手を放しては落下を繰り返して、足がやっと地面についた。
「ここを離れよう、マリアベルたちはすぐに追ってくるかもしれない」
どこかに身を隠して休んだ方が良い。右腕は無傷だが、太ももがやけに熱い。べっとりとズボンが貼りついている気がするから出血しているだろう。爆発音で耳も痛いし、多分顔や腕持血だらけだ。五体満足で無事なのが救いか。
『アトラスは常に対魔術シールドを微弱ながら全身に展開しています。右腕だけでもある程度の効果はあります』
「そうか、助かったアトラ」
『例には及びませんマスター』
俺の右腕で薄緑に光る光源だけが頼りだ。
しっかりとシエロの小さな手を握りながら、とにかく鉱山の奥へと進む。
シエロはずっと無口だ。
「ショックかシエロ」
「……分からない」
ぼそっという。
俺たちはそれ以上、会話を続けなかった。
一晩しか共にしていないが、マリアベルは悪い人間じゃないと俺も思っている。シエロもそう思っているから心の整理がつかないのだろう。今は何を言っても言葉は闇に溶けていくような気がした。
暗闇は時間の感覚を狂わせる。三十分は歩いたと思っているが、もしかしたら穴に落ちてから五分しかたっていないかもしれない。
「小屋だ」
心もとない薄緑光に照らされているのは、第一階層にあったマリアベルの魔術道具置き場と同じ小屋だった。
俺とシエロはゆっくりとドアを開け、念のため警戒しながら中に体を滑り込ませる。
右腕で室内を照らすと部屋の広さは六畳ほどだ。中央に古びたテーブルと椅子があり、壁際には棚が三つ備え付けられている。
俺とシエロは椅子に座って小さく息を吐いた。
見渡す宝石の類や、書物の束が置かれている。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro