灰色だった俺と悲焔の少女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「うちを呼んでる……?」
「うん、マリアベルの名前を口ずさんでるんだよ。ずっと、探してるみたいに」
マリアベルは髪を耳にかけて下唇を噛む。思考するときは下唇を噛む癖があるんだろう。
「ごめん、これはうちがやらないといけない」
ロングコート越しに腕を強く握り自分を振り立たせているようだった。
彼女はカンテラを持ったまま走りだす。シエロが行き先を告げなくても思い当たる節があるのか、迷路のような道を慣れた足取りで進む。
辿り着いた先は古びた扉が付いている小屋だった。鉱山の中で作業員が休憩や寝泊まりをする場所だ。割れたガラス窓からはうっすらと蒼い焔が見え隠れしている。
間違いないここにグロウスがいる。
「ここはうちが子供の頃に使ってた秘密基地、今は隠れ家兼魔術素材倉庫になってる」
マリアベルの手が震えている。
「こんなとこにいちゃいけないのに——」
ゆっくりと扉に手をかける。
グロウスが襲って来ると思ったが、扉は何事もなく開いた。
そこには全身を蒼い焔に包まれた恰幅の良い中年男性がいた。
表情は読めず、目は窪んでおり虚ろに赤い。ゾンビのようにその場に立っていて、テーブルの上にある写真立てをずっと眺めている。
「——父さん」
マリアベルの言葉に父親はぬらりと俺たちを見た。ゆっくりと口を開き、物凄いスピードで語りかけている。言葉があまりにも早すぎて脳内にキンキンと耳障りに響くほどだ。
「甘かった、うちが甘かった」
マリアベルの声は涙を押し殺しているようだ。
あふれ出る気持ちを抑え込み、マリアベルは内ポケットから色とりどりの宝石を取り出して、片手の指という指の間に合計四個の石を挟む。
「やるぞ、シエロ」
「うん」
マリアベルに続き俺とシエロも身構える、と言っても俺はまだアトラスの右腕は到着しない。
「確認するけど、総司郎とシエロちゃんはグロウス狩り専門なんだよね」
背中越しに緊張感のある声で、マリアベルが俺たちに問いかける。初めてのグロウス戦だ、専門家か確認したくもなるだろう。
「ああそうだ、任せておけ」
これがグロウス狩り専門の初戦だがな。
「分かった、じゃあ——いくよ」
しかしマリアベルは振り返り、俺たちに向かって宝石を振りかぶる。
「な、に——!」
咄嗟の事に俺はシエロに覆いかぶさり地面を転がった。
「魔術式四連起動、起動最終言語は終幕!」
俺とシエロがいた場所は、赤い光と共に小さな炸裂音がこだまする。更にマリアベルは指に四つの宝石をセットし、また腕を大きく振りかぶる。
「魔術式四連起動、起動最終言語は終幕!」
「出るぞ、シエロ!」
勢いよく扉に体当たりして、シエロを肩に担いで逃げる。
「逃がさない、グロウス狩り! 魔術式一つ起動、起動最終言語は終焉!」
俺は全力で暗闇を走っていたが、昼間のような光で洞窟が照らされたので、マリアベルに振り向く。
彼女は野球選手のように大きく足を持ち上げ、十分に溜めた腰の捻りで回転力を生み、鞭のようにしなる腕で黄色い宝石を俺とシエロ目掛けて投げつけた。
「逃げるのは無理か——!」
再び全力で走り出すが投石のスピードにはかなわない。空いている右腕で、反射的に石を叩き落とすように腕を振るう。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro