灰色だった俺と過ぎ去りし日の呼び声
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「本当はあの人みたいに最強の魔術師になりたかったんだけどね」
自嘲気味に笑い、更に暗闇を進む。
最強の魔術師か、確か昨日どこかで聞いた。確かマリアベルが酔っぱらってるときに。
「マリアベルに魔術を教えたのは、黒甲冑なのか?」
「そういえば世間ではそんないかつい名前で呼ばれてるね。よく知ってたね総司郎」
「ああ、何かと縁がありそうな気がしたからな」
黒甲冑がグロウス狩りを行い、人々に魔術を広めているのならば、いずれシエロと俺の敵となる。マリアベルに魔術を教えたのならばどんな人間か聞き出せる。
「止まって、そうじろう!」
シエロが声を張り上げて俺の背中を掴んだ。
「ど、どうしたんだよ一体」
「グロウスの声が聞こえるんだよ」
いつものふやけた笑い顔のシエロではなく、緊張した面持ちで辺りを見回す。
「俺には何も聞こえないが——グロウスはほとんど見かけないんじゃないのか?」
「うちはそう聞いてたけど……」
マリアベルもどこか緊張した面持ちだ。もしかしたら初めてグロウスと対峙するのかもしれない。
「このグロウス、何か言ってるの。もうちょっと奥だと思うんだよ」
俺は頷き、耳元に手を当て小声でアトラに語り掛ける。
「準備は良いか」
『片腕だけなら可能です。残りの部分は十分な能力を発揮できません。効率的な供給資源が必要です』
「分かった、なら右腕を頼む」
『承知しました。洞窟の中ですので、今から向かいます。少々お時間を』
「頼む」
「総司郎、まさか、グ、グロウスと戦うんじゃないでしょうね」
「多分そのまさかだ」
目につくグロウスは一つ一つ鎮魂していかなければ、極彩色の魔女であるシエロの仕事は終わらないだろう。俺はシエロの笑顔を見たいと思ったから、心の思うままに力を貸したい思う。この気持ちに嘘はない。
マリアベルは俺の顔をじっと見てまだ迷っているようだった。グロウスは貴重な魔術素材だ。この街のオークション会場に行かなくても手に入る可能性がある。だが普通のグロウスは騎士団一個に相当する強力な魔術の使い手だ。
「勝算はあるの?」
「シエロならな」
マリアベルは驚きの表情を表す。俺の娘だと思っている年端もいかない子供に何ができるとでも思っているのだろう。まあ、俺も何ができるか詳細は知らないが。
「引く気は——?」
「シエロに危険が及びそうになれば全力で逃げる」
俺の言葉にマリアベルは下唇を噛んでから、
「行こう。この鉱山は子供の頃から何度も入ったことがあるから、うちがサポートする」
「恩に着る。シエロ、いくぞ」
シエロは無言で頷いて、マリアベルに並んで先に進み始めた。声の大きくなる方をシエロが教え、マリアベルが道案内をする。
冷えた洞窟内を何分歩いただろう。まだアトラスの右腕も到着しない。とことこ歩くシエロの背中を眺めていたら、ピタッとシエロが足を止めた。
「近い——どうしたんだよ、悲しいの? 何が、誰が……」
グロウスの声を必死に聞き取ろうとするシエロは、はっと顔を上げる。
「大丈夫か、シエロ」
シエロは俺の声に反応せず、ゆっくりと顔を動かす、その先にはマリアベルの顔がある。マリアベルは何の事か分からず、小さく首を傾げた。
「——グロウスはマリアベルを呼んでるんだよ」
終幕 灰色だった俺と過ぎ去りし日の呼び声
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




