灰色だった俺と過ぎ去りし日の呼び声
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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俺とシエロとマリアベルは、十年前に閉鎖されたアルデバランアイオライト鉱山へと足を踏み入れた。
「アイオライト鉱山は数十年前まで、アイオライトという紫色の宝石がよく採取できる鉱山だったの」
ピンクフレーム眼鏡をかけたままのマリアベルは、コートの内ポケットから小さな宝石を取り出して、ふっと息を吹きかけるとぼんやりと周囲を照らす光を生んだ。
「凄いな、それが魔術なのか?」
手に持った宝石は光り続け、マリアベルがカンテラの中に移した。シエロは何故か俺の後ろに隠れてじっとマリアベルを睨みつける。
「……マリアベルは魔術師なの?」
ピタッと足を止めマリアベルは俺たちに向き直った。
「うちは魔術師じゃない」
少し悲しそうな顔をしてから「歩きながら話そうか」と言った。
「魔術師っていうのは自由自在に魔術を操る人の事だよね。今まで出会った中で、うちはそれを一人しか知らない。今は魔術改革時代と呼ばれているけど、実用化にはもう少しかかりそうで、自分の事を魔術師なんて言ってる人は多分、詐欺師か自分の力量を図れない人。だって本当の魔術を一度でも見ると、魔術師なんてこの世界には存在しないと感じちゃう」
マリアベルの静かな語りを聞いて、シエロは考え込んだようだった。魔術師は魔術を行使することで魔術浸食が起きる。魔術浸食は人をグロウス化させる。グロウス化したものは転生しても何度も苦しみながら生きていく。
その図式を俺は脳内で紐解き、シエロが魔術師の可能性があるマリアベルを警戒していた理由を理解した。
世の中に魔術を広めようとしている人物か観察していたのだ。魔術を教える人間はグロウスを生み出す元凶となる。
マリアベルはシエロの沈黙を、先を促していると捉えたようで、下り坂に気を付けながら語りを続ける。
「魔術なんて怪しいもの止めろっていう両親の反対を押し切って、魔術をその人に習ったんだ」
儚い過去を思い出すようにマリアベルは語り、俺もそれに耳を傾ける。
「魔術って誰も教えてくれないの。みんな個人研究。みんな魔術に対する理論が違うし、研究を盗まれると思ってるから、魔術研究者は群れないんだって後から聞いたよ。それでもその人はうちに魔術を厳しく教えてくれた」
個人研究か、新しい技術が発見されたことで誰もが歴史に名を刻みたいと考えたのだろう。ああそうか、不思議に思っていたが、魔術研究者は群れないから、魔術汚染でグロウスに変化しても誰も気が付かないんだ。だからグロウスが生まれる理由を誰も知らないし、信じようとしないのか。
「でもねうちは魔術に関して才能がなかったみたい。それで悔しくて小物を作るのは得意だったから、魔術の道具を作ることにしたんだ」
「それがその宝石や石なんだな」
「うん、魔術を語って行使するのは時間がかかるけど、魔術を魔術素材に刻み込めば、最後の発動部分にあたる魔術を唱えると魔術が発動するのを発見したから。効果は大分落ちるし素材によってばらつきが出るけどね」
それでも連絡手段や情報拡散が乏しい世界だ。マリアベルが自分で発見した技術はとても貴重なものだろう。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




