灰色だった俺と金策の洞窟
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「う、うああああああ!」
ベッドから俺は勢いよく飛び起きた。心臓はまだバクバクと悲鳴を上げている。全身は薄っすらと汗をかいていて今すぐにワイシャツを脱ぎ捨てたかった。
「は、はあ……そうか俺は家じゃないのか」
古びた宿屋の室内を見回して俺は胸に手を当てる。
俺は社会人になっていつの日からか夢を見ない。その代わり毎日のように自分の叫び声で目が覚めるようになっていた。
はあ、と深いため息をついて、ベッドに手をついて降りようとしたとき、左手に表面が柔らかい平らな人肌を感じた。
「うお、シエロ……」
何処を触ったのかは分からないがすぐさま手をどけると、そこには普段着の白いローブのままのシエロが俺の隣で寝ていた。
俺の叫び声でも起きなかったから、昨日は大分疲れたのだろう。
「起きろシエロ、お前の部屋はあっちだ」
ツンツンと頬を突くが、全く起きる気配がない。
仕方ないので俺は起こさないように部屋を出て、洗面所で身だしなみを整えた。馬小屋に落ちていたボロボロのカミソリはもう捨ててきたし、この宿屋にはアメニティなんて洒落たものはないので髭は剃らずに顔だけ洗った。
「……おはよ、う、そ、総司郎」
寝起きの妖怪みたいな唸り声に振り返ると、ロングコートを肩に羽織ったままの、真っ青な顔のマリアベルが突っ立ていた。
「どう見ても二日酔いだな」
「二日酔い? 何それ……うっぷ、悪いけど顔洗わせて」
口元を抑えていたマリアベルは、井戸水から桶に水を溜め、何度か顔を洗い、部屋から持ってきたタオルで顔を拭いた。
「最悪の気分」
「これから酒は控えるんだな」
「何のこと」
「知らないならいいさ」
「何それ。それより総司郎。あんた臭い」
クンクンと鼻を引くつかせ、オーバーリアクションに舌を出す。
「酷くないかそれ!」
「教えてやらない方が酷いでしょ」
「一理あるな……しかし、隠しても仕方ないから率直に言おう。実は俺とシエロはとある事情により金がないんだ。だから着替えもないし風呂にも入れない」
「どうやって旅してきたの……」
呆れた顔で大きな欠伸をする。
「そこで頼みがあるんだが、このあたりで金を稼ぐ手段はないだろうか」
「手段ねえ……」
宿代も払わなきゃいけないし、これからの旅道具も揃えないといけない。
マリアベルが宙を眺めて、顎に手を当てて考える。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro