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灰色だった俺と虹色の飲み物

初めての方はこちらから

『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』

あらすじ

https://ncode.syosetu.com/n6321fs/

 それから俺たちは腹が減っていたせいもあり、会話もなくご飯にありついた。


 食後のお茶っぽいものを飲みながら初めに口を開いたのはマリアベルだった。


「シエロちゃんはなんでお父さんと旅しているの?」


 シエロは悩むでもなく、両手で湯呑を持ちながら答える。


「グロウスを全て鎮魂——」


「ああああああ、うん、社会勉強な、社会勉強! 今は魔法開拓時代って言われるくらいだろ、歴史の転換期を見せてやりたいのさ」


「なにいってるんだよ、そうじ——」


 語りきる前にシエロの口を塞ぎ、近くの柱の陰に走り去る。


「何するんだよ、ソウジロウ! シエロすっごくくるしかった!」


 口から手を離すと小動物みたいにシエロは小さく唸った。


「いいかシエロ、この町では、いや俺以外にはグロウスを全て鎮魂歌する、とか、魔法をこの世界から消すなんて言っちゃだめだ」


「でも、シエロの目的は……もう、永遠に苦しむグロウスなんて見たくないんだよ」


「ああ、分かってる。でも正直じゃダメなんだ。正直だけじゃ成し遂げられないこともある」


「——本当のことはだめなことなの?」


 心を見透かすような純粋な瞳で俺を見上げてくる。


 シエロは極彩色の罪人と呼ばれている魔女だ。何故、罪人と呼ばれているかは極彩色の魔女たちが、過去に魔術に関わる全ての知識を焼き払ったからといわれている。そのせいでこの世界は魔術の発展が遅く、今やっと魔術開発が歩みだしたところだった。


 そしてこの街、アルデバランは魔術革命の波に乗り、多くの魔術に携わる者が集まっている。マリアベルもその一人だ。


 魔術の発展で生活が豊かになると希望持つ者たちがとても多いのは、この食堂にいるだけで伝わってくる。賑わっている食堂で夕飯を食べているのは、ローブに身を包んでいるインテリ達たちでごった返している。


 俺がイメージしたファンタジーな世界じゃない。筋骨隆々でモヒカンの戦士なんて何処にもいない。


 飛び込んでくるガヤに耳をすませば、誰もが魔術の内容についてあーだこーだと議論を交わしているのが分かる。楽しそうに、時には言い合ったり。


 そんな魔術大討論会みたいな場所で、『俺たちはグロウスもろ共、魔術を全て無かったものにする!』なんて言えるだろうか。


 現実世界で科学の発展を邪魔する者と同じだ。科学は生活を豊かにすると信じている者たちへ、真っ向から反対するのは至難の業であり、時代が時代なら命の危険すらあるだろう。


 今がその時代なのだ、分かってくれシエロ。


「——、く」


 だが考えていた全く同じ説明ができない。口に出せない。


 シエロを含む極彩色の魔女たちは、皆、グロウスが人間を含めた元生き物だと知っている。そして彼らが輪廻転生しても何度もグロウスとして焼かれて死んでいかないように、魔術の知識を全て捨て去った。


 それを全て見てきたシエロに、嘘をつけなんて、言えるのか?


 大人の事情で。これが正しいやり方だと言い聞かせて。


「俺はまた、同じことをしようとしている」


 自分の考えと感情を押し込めて働いてきた結果、八方塞になったじゃないか。大人になって我慢ばかりをしてきた。馬鹿正直は上司や後輩に都合よく利用されたし、そのせいでしなくてもいい苦労もしてきた。だから正直に生きるのはやめた。適当に嘘をついたり、都合よく自分を納得させてごまかしながら生きてきた。


 シエロにも同じ道を歩ませちゃいけない。


 こいつはまだ世の中のことを知らない真っ白な魔女なんだから。


「何かあったら俺が守るくらい言って見せろ、俺」


 だから好きに話していいって。


 その結果、マリアベルに敵扱いされようが、極彩色の罪人とばれて街の奴らに追われようが、俺が守ってやると。


「シエロ、ごめん、俺が間違ってた」


 あまりに喋らなかったせいか、シエロは心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。胸に抱きかかえた帽子はクシャクシャだ。


「大丈夫、そうじろう?」


「大丈夫だ、すまない、戻ろう。マリアベルには好きに伝えていい。何かあったら俺が何とかする」


 シエロの手を引いて、マリアベルの元に戻る。

いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。

またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。

一刀想十郎@小説家になろう

@soujuuro

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