灰色だった俺と虹色の飲み物
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「すげえ、これがこの世界の料理か」
鶏の丸焼きがテーブルの中央に鎮座し、肉を囲むようにトマトやキャベツっぽい色鮮やかな野菜が添えられている。カボチャ色のスープが俺たちの前に置かれ、表面が固そうなパンが主食として並べられた。
「わああ、いただきまーす!」
シエロが鶏肉に手を伸ばしピタッと止まる。
「これ、どうやって食べるんだよ?」
シエロの姿をおかずにして、何倍でも夕飯を食べるために向かいの席に座ったマリアベルがくっくっくと自慢げに笑う。そして高らかに右手を上げ、大きく指を鳴らした。
「……何やってんだマリアベル」
俺はとりあえず切り分け用のナイフとフォークを手にもって、鶏肉を切り分けていく。横浜中華街に出向き、お客さんの接待をよくしていたので、おかずのとりわけは自然と体が動いてしまう。
その間もマリアベルは何度も指をパッチンパッチン鳴らしている。仕舞には椅子から立ち上がり、片足を椅子に挙げて、大きく響く最高の指パッチンをした。
あまりにも綺麗に響き渡る指パッチンだったので周囲の目線が集まる。
数秒後、そっと足を下ろして背中を丸めながら、マリアベルは机に額を押し付けた。
「どーしてメイドが出てこないの……なぜ? 食堂といったらメイドでしょ? 切り分けてくれるでしょ? どうやってご飯食べてるの普通の人は? カッコよく呼び出してシエロちゃんに良い所見せたいでしょ?」
ぼそぼそと呟きながら現実に打ちひしがれている。
「どこの世界でも自分で切り分けるんだ、普通はさ、ほれ」
適度に切り取った鶏肉へサラダを添え、ついでにプチトマトを乗せてマリアベルに差し出す。
マリアベルは反応がなかったが、ゆっくりと体を起こして盛り付けられたサラダを見る。
「……総司郎ってメイド?」
「ちげーよ、何処の世界に無精髭のメイドがいるか」
三十過ぎると夜には髭が生えてくんだよ。
「大皿から小皿にこんなに綺麗に盛り付けるなんて、旅人にしておくのはもったいない」
「俺のいたところでは、俺くらいになれば誰でもできるんだ」
今にも涎をたらしそうなシエロの前にも、同じように鶏肉を差し出す。
「帽子は脱いでから食えよ、その方が品が良いし」
「そうじろうは、お母さんみたいなんだよ」
面倒くさそうに反論するものの、シエロは素直に真っ白な魔女の帽子を脱いだ。帽子を脱ぐと絹のように滑らかな髪質が尚更よく分かる。食堂のカンテラで照らされていてもその白さは染まる事がない。
「もうメイドでもお母さんでも、何とでも言ってくれ」
やれやれと肩をすくめると、シエロとマリアベルは何処が楽しかったのか、顔を見合わせてにっこりと笑い合った。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro