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灰色だった俺と山吹色の旅人

初めての方はこちらから

『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』

あらすじ

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 俺は重苦しい空気に耐え切れず、馬車のおっさんに話を振った。


「この先にある町はどんなところですか? 初めてなもんで」


「おお、家族で旅人かい?」


 馬車のおっさんはちらりと俺とシエロを見て、笑いながら言った。


「奥さんもいなくて大変だねえ」


「はあ、まあ」


 よく考えたらシエロが八歳前後だとして、俺は三五。顔の造形の違いはあれど、親子と考えるのが普通だ。むしろそう考えてもらわないとやばい。色々な意味で。


 だがシエロは何が気に入らないのか、むっと頬を膨らませて睨み合ってた少女から、馬車の親父に視線を変える。


「ちがうよ、そうじろうはシエロの従者なの。自分から好きでついてきた従者なんだよ! まだ世の中のことを知らない、独り言ばかりの恥ずかしいお供なんだよ」


 胸を張り自信満々に指を振りながらシエロは楽しそうに話す。

 そういえばシエロはずっと一人で森の屋敷に住んでいたような話だったから、知らない人と話すのは楽しいのかもしれない。


「ほお、それは……それは……もう少し強そうな方が従者向きかなぁ」


「おっさんが困ってるだろ、妙な言い方すんな!」


 俺がシエロに叱るとシエロは、ふんと鼻をワザとらしく鳴らして、唇を突き出して黙った。


「羨ましいプレイですなあ」

「娘に従者プレイとか最悪だろ、おっさんも歪んでるな!」

 

 おっさんは大きく笑いながら、俺に親指を立てる。

 うるせえ、指を立てるな指を!娘でもないし、奥様がいたこともありはしないわ!


「……この先はアルデバラン。ここ最近魔術開発で大きくなった街」


 おっさんと俺の会話が不毛だったのか、黙っていた金髪女子が口を開いてくれた。ありがとう金髪少女。君のおかげで俺は正しい中年として街を闊歩できそうだ!


「なんでも珍しい魔術素材が手に入るっていうから、噂を聞き付けた関係者で最近はにぎわってるって聞いた」


「君、詳しいな」


 おっさんが会話に入ってこられても困るので、俺は少女に向き直る。


「あんたも魔術素材を探しにきたのか?」


 俺の旅はシエロのグロウス鎮魂の旅、いつか魔術がなくなるその日までを手伝う旅なので、少女に正直には答えず、最近流行りの魔術素材を探す家族を装ってみる。


「そんなとこ」


 彼女はそっけなく答え、何故か再びシエロを睨みつける。

 シエロも俺のワイシャツの袖に掴まりながら、再度少女の視線を迎え撃った。

 だが被っている白魔女の帽子は目深に被っている。

 その時点で勝負に負けている気がするが、言わないでおいた。


「貴方、名は?」


 少女は目線を変えずに俺に問う。

 なんだこの威圧感。

 異様にこえーよ。


「ぎがん、義贋総司郎だ」


「ギガンソウジロウ——? ふうん」


 意味ありげに顎に手を当てる。初めて飲んだワインを舌で転がすような仕草だ。


「うちはフィ——じゃなくて穿光のマリアベル」


「随分、大層なお名前だな」


 通り名って自分で名乗ると間抜けなんだな、勉強になった。

 もし俺も通り名ついたら自分では名乗らないようにしよう。


「そ、それで、あの、その、」


 だが何を思ったのか、さっきまでの気迫は何処へ、穿光のマリアベルは自分の指を絡ませ、頬を赤らめながらながらもじもじと囁く。


「あ、あの、ね、そのし、しろくて、とってもかわいい、この、そのこ、の、な、名前を、し、しりたいなーって??」


うつむきながら指を絡める姿は、はじめて男子に告白でもしようとしている初恋の少女のようで、先ほどまでの視線で命を刈り取る眼はしてない。


「シエロはシエロだよ」


 少女のやわらかい声に警戒が薄くなったのか、シエロは白魔女の帽子の唾を上げ、少女を見上げる。


「シエロちゃん!」


 シエロに話しかけられた穿光のマリアベルは、バネ仕掛けのようにシエロへと飛び掛かる。


「シエロちゃん、あー、すごいかわいい! なんでこんなにかわいいのー! いくら見てても飽きない、声も可愛いし、においもかわいいー!」


「あは、はわわわ、助けてそうじろう! このひと、シエロのお姉さんみたいなんだよ!」


 頬ずりしている穿光のマリアベルを見て納得した。

 ただシエロが気に入ったから穴が開くほど見てたのか。

 

 現実風のコートと眼鏡を身につけ、意味ありげに俺たちを見てるから、黄金騎士のように極彩色の魔女を負ってる人物かと思ったが違ったようだ。


「まあ、いいんじゃね、仲良いのは」


「シエロちゃーん! はなしたくなーい、あったかいー!」


 おっさんが俺たちをガン見しながら走っているが、その先は町の外壁だ。ぶつかるんじゃねーぞ。なんでおっさんまで頬が赤いんだよ。


 その後、無事に街には入れたが、穿光のマリアベルはずっとシエロを抱いていた。正確には両手で人形のように抱きかかえていた。シエロもいい加減泣きそうだったので、声をかけようとしたとき、穿光のマリアベルが今世紀最大の思い付きとばかりに俺に提案する。


「良かったら、うちと食事しない、奢る!」


「ええ! はやくシエロは解放してほしいんだよ!」


「アルデバランの肉料理は最高なんだ、シエロちゃん!」


 肉の二文字にシエロの魔女帽子に見えない獣耳がピンと立ち上がる。


「し、しかたないなあ、それなら行ってやらないこともないんだよ」


「俺は元からそのつもりさ」


 この世界の硬貨もないから困っていたところだ。街について飯も寝どこもないとは思っていたが、とりあえず飯にはありつけそうだ。


「かわいい娘(偽)は、生贄になってるがな」


「うちの膝の上で食べよーね、食べさせてあげるから!」


「いやなんだよー! そうじろーーー!」


 じたばたと手足をばたつかせるシエロに合掌しながら、俺は穿光のマリアベルに続いた。


 異世界で初めての街は丁度夜の帳を落とし始めている。




 終幕 灰色だった俺と山吹色の旅人

いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。

またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。

一刀想十郎@小説家になろう

@soujuuro

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