灰色だった俺と山吹色の旅人
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「アトラ、片腕だけでも帰ってこれるか?」
『今、森で熊を捌いて食しておりましたが、血まみれでも良ければ』
「途中で川の中に突っ込んで来い」
想像通り、原生生物を捕食するのか。
異世界人に甲冑と間違われる人型の形状で自動で捕食してるのなら三流ホラーになりそうな話だし、スライム状態で溶かしてるなら一流グロテスクになってしまう。
ちなみに俺の中にいるグロウスの成れの果て<パスカル>を利用してアトラススーツを稼働してしまうと、パスカルそのものが活動の燃料として消費されてしまい、パスカルは消滅してしまう。パスカルが消滅するとまだ満身創痍の俺は地面にぶっ倒れ、パスカルは再び巨大狼のグロウスとして、世界の何処かを彷徨ってしまう可能性がため、俺の中の燃料であるパスカルは緊急時以外は保存しておくこととなった。
「いいかシエロ、あそこにの溝に車輪がはまって困ってそうな馬車とおっさんが見えるだろ?」
俺が右腕を天高く振り上げると、上空で腕の甲冑として再構成されたアトラススーツの右腕が俺の右腕にスポッとハマり、わずかな蒸気めいた魔術的気体を吹き上げた。俺の二の腕辺りまで黒い装甲が装着され、ボルトが自動で締まることで腕にフィットする。本来は液体金属なのに演出だけ無駄にカッコいいのはアトラス製作者の意図だろうか。
ところで甲冑のところどころに、まだ血糊ついてるんだが、アトラさんもっとしっかり洗ってくれません?
「うん、おじさん、たいへんそうだよ」
「それを俺が助けて、街まで乗せてってもらおうって寸法だ」
「そうじろう、下心ありありなんだよ……従者として浅はか」
「大人ってのは浅はかだろうが偽善だろうが、お互い得すりゃそれで納得するもんさ」
自信満々に歩き、おっさんに向かって「おーい、そこの、」まで叫んだ時、馬車のホロの中から一人の少女が悠々と降りてきた。
金髪セミロングの髪型で、フード付きのカーキ色のロングコートを羽織っている。現代世界の俺から見るとまるで少女が刑事のコスプレをしているようだった。
彼女は胸ポケットからピンク色のフレーム眼鏡を取り出してかける。
「現代人のような格好だな」
俺の顔が自然と緩んでしまう。同郷の人を見たような感じか。
女は胸ポケットから赤色の宝石のように輝く石を取り出して足で掘った穴に投げ込む。
数十秒後にはボンッと小さな音が鳴り、車輪がはまっていた穴が抜け出せるほどの大きさへと形を変えた。
おっさんがお礼を言いながら馬の尻を軽く叩いてやると、馬は嬉しそうに馬車を引いて荷台はハマリから抜け出した。
「爆薬でも使ったのか?」
俺は頭をひねったが、何をどうしたのかいまいちイメージがつかない。
火を使った動作なんて見えなかったが、あれが魔法なんだろうか。
少女は何事もなかったように馬車に足をかけて戻る。
コートの隙間からすらりとした足が見えた。
おっさんも馬車に戻ろうとしたとき、ふと俺と目があう。
「ん、君ら、もしかして助けてくれようとしたろ、せっかくだ、乗ってけ!」
「おっちゃん、見ててくれたのかよ! ありがとう! 行くぞシエロ!」
急いで走り出した俺の後ろでシエロが呟く。
聞き間違えじゃないなら「まじゅつし……?」といったと思う。
馬車の中でシエロはずっと俺に寄り添って、先ほどの少女をじっと見つめている。
少し怯えるように、でも興味あるように。少女は中学生くらいに見えるから十四くらいだろうか。
相当綺麗な顔立ちのスレンダー美人だ。クールを装っているが年相応のそこはかとない可愛さも表情に見て取れる。
先ほど眼鏡は外していている。
羽織っているのはロングコートだったが、近くで見ると中に着ていたのは、出来の良い洋服と膝までのスカートだったので、やはり異世界側の住人だった。
それでも現実風のコートと眼鏡は、異世界では珍しい服装ではあるが。
そんな少女も少女でじっとシエロを見つめている。
二人がじっと睨みあったまま馬車は街を目指す。
何とも言えない威圧感だけがホロの中を支配して、俺は息苦しさに苦笑いするしかなかった。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




