灰色だった俺と山吹色の旅人
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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街道から北へ十五キロ。小型人工衛星を飛ばしたアトラによれば、街道をまっすぐ進むと中規模な街が見えるとのことだった。
街道は踏み固められていてそれなりに歩きやすい。
すれ違う行商人や馬車を見る限り、この世界の文化レベルは中世ファンタジーそのもので、科学が発展する手前のようだ。付け足すとするなら魔力大開発時代というところか。
血みどろだったシエロの服は、途中すっころんで川に突っ込んだおかげで元の白さを取り戻している。転んだことを子ども扱いしたせいで少し機嫌は悪いが、道中の草花を見ているとすぐに明るい調子に戻っていた。
俺はスーツを脱いでジャケットを肩にかけ、額から流れる汗を拭う。三十超えた運動不足の社会人に十五キロのウォーキングはきつい。
アトラスを着用してもいいのだが、アトラは万年燃料不足の為、戦闘中以外は俺たちから付かず離れず常に「捕食」中だ。
それにアトラススーツを着てると常に戦闘状態みたいな気分になるのであまり着たくなかった。
服は重要だ。出来る事なら今すぐジャージのような楽な服に着替えたい。洋服によってリラックスすると気分を切り替えられる。このメリハリが中年には必要なのだ。
「ねえねえ、そうじろう」
さっきまで先頭を歩いていたシエロがくるっと振り向いて、俺に並んで袖を引く。
「どうした、街はまだ先だぞ」
『残り十キロです』
耳の後ろにくっついているアトラスの一部から、アトラの声が骨伝導で直接体内に響いた。
「もう少し、気の利いた言い方してくれ。やる気がそがれる」
『マスター、足の筋肉、仕上がってます、仕上がってます』
「仕上がってねえよ。どこで覚えた、その棒読み」
『元マスターは、これで何度も走ってくれましたが。ナイスバルク』
「マッチョなオッサンでも入ってたのか」
何なんだこのAIは。会話するほど自然に会話になっていきやがる。
「ねえねえってば、そうじろう」
「ああ、わるい、どうした」
アトラとの無駄な会話を切り上げると、頬を膨らませたシエロが俺を見上げていた。
「いつも一人で話して気持ち悪いよ。シエロは大人だから黙ってたけど、そうじろうはシエロの旅の従者なんだから、ちゃんと教えてあげるんだよ。人前で恥ずかしい行いは従者として恥なんだよ。一緒にいる方の身にもなれって姉さまが言ってた」
「そら、うれしいね。ありがとう」
幼女に心配されるとは。アトラと会話するときは小声にしないとダメだな。
「でね、シエロ、まちって何なのかなーと思うの」
「まさか街知らないか」
こくんとシエロは頷く。
「街ってのは人が一杯いて、物とか売ってて……旨い飯が食えるとこだな」
「うまいめし!?」
シエロはその場でぴょんと飛び跳ねる。その拍子に腰まである長い白髪や白ローブも感情を表すようにふわっと沸き立つ。
「早くいこう、そうじろう!」
「早くいけるものなら早くいきたいとこだが、走りたくはねえなあ……ん、渡りに船とはこのことか」
俺はにやりと笑う。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro