灰色の俺と極彩色の魔女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「本当はパスカル、放っておけば安らかに鎮魂したの。そうすればもうグロウスとして苦しむこともない。門番をしてたタツタ君も」
タツタ君ってまさかあのドラゴン?
竜田揚げってこと?
ドラゴンッてトカゲだよね、それが鳥料理の名前なんてひどくないですか?
「なあ、グロウスってのは何なんだ? 実はよく分からない」
それはね、と彼女はパスカルを抱き上げて俺の顔を見る。先ほどの散策中に顔を洗ってきたのか、べっとりと付いた血ノリはない。幼くも意志を宿した顔だけがある。
「魔術に汚染された者の成れの果て、または魔術に汚染された環境から生み出された命無き者。生命を持つ者の場合、魔術に身を落としたから、グロウスとなって地上のどこかでずっと身を焼かれながら彷徨うの」
彼女は悲しそうにパスカルをなでる。
「シエロはグロウスを鎮魂歌で送り出すことができるんだよ。お姉様たちが私に継いでくれたのはちょっとした魔術と歌だけ。タツタ君もパスカルも魔術の実験か何かでよっぽど汚染されてたから、ゆっくりじっくり鎮魂してたんだけど、見つかっちゃったから」
「じゃあ、俺が倒したドラゴ——タツタ君は——」
「うん、またグロウスとしてこの世界のどこかを彷徨っていると思う」
「……すまない、何も知らないでタツタ君を絶ち切ってしまい」
ううんと彼女は首を左右に振った。
「シエロがグロウスの全てを鎮魂するの。それが極彩色の魔女<白>である私の役目。私だけの役目。魔術に汚染されて新たにグロウスに生まれ変わったモノは、更に苦しみながら彷徨うの。そんな姿は見たくない」
「そっか。なあ、グロウスって魔術の根源になるんだよな。じゃあ、グロウスが消えたら魔術は使えなくなるってこと?」
俺は素朴な疑問が浮かび、彼女に聞き返した。
「うん。でも魔術がなければ魔術汚染でグロウスになる生命や場所もなるし、輪廻の輪から外れて永遠に彷徨い続けるグロウスもいなくなる。魔術の発展はしてもいいけど、誰も魔術汚染しない別の方法を模索してほしいんだよ」
こいつ見た目によらず、よく考えてるな。魔術的発展をするなというだけでなく、別の道を模索しろと考えるなんて。
「お姉様たちは言ってた。あなたと同じことをね」
「俺と?」
なんか言ったか俺。ブラック会社潰してやるくらいしか覚えてねえ。
「……おしえない」
悪戯っぽく笑って、地面にパスカルを下ろす。
なんとなく「誰かの幸せのために」みたいに聞こえた気がしないでもない。
「それじゃシエロはそろそろ行くよ。極彩色の魔女は忙しいんだよ」
ぱっぱっと元真っ白だったローブをはたき、先っぽがよれよれの帽子をぐっと被りなおす。
「鎮魂歌を歌うのか」
「それがシエロの役目。いつか魔術がなくなる日まで歌い続けるの」
「あ、こいつはいいのか?」
地面を指さすと、パスカルがコウコウと息を吐いている。
「シエロじゃ分からないけど、パスカルは何故か汚染に苦しんでないんだよ。あなたに移植する前は苦しんでたのに。あなたが普通じゃないのか、何か別の理由があるのかも。それに今パスカルを「鎮魂」すると、あなたは倒れると思うの。シエロがみるに、まんしんそういって気がするの」
「そうか?」
子供の前だから言わなかったが、実は立ってるだけでも変な汗が背中を伝い、乗り物酔いの後みたいに気持ち悪い。
「だからパスカルは置いてく。元気でねパスカル。この人を助けてあげてね。またいつか会う日は、別れの時だから」
悲しそうな顔して目を伏せ、指で拭ってからすぐに背中を向く。
「もう行くの」
「子供の一人旅は危なくないか?」
「近くのグロウスに助けてってお願いするから大丈夫」
「旅慣れてるのか?」
「旅は人を成長させるって、シエロのお姉さま方が言ってたの」
「そっか」
その言葉を聞くと魔女はとことこと村の出口へと歩いていく。もともと小さかった背中はさらに小さくなり、街道へと続く道へと一種懸命に歩いていく。
やれやれだ。
大人ってのは本当に素直になれない。子供相手に意地を張らなきゃいけないこともあるし、自分の生活の為に嫌なこともしなくちゃいけない。仕事では言葉巧みに相手の言葉を誘導させることもしなくちゃならない。クソみたいで最悪な現実世界のルールだ。
「でもここは異世界だ」
もう相手の不安を煽り、怯えさせて答えを吐かせるのなんてやらなくてもいい。
一言さえ出れば、俺は「何者」かになれる気がした。
さあ、声を上げろ。
目いっぱい張り上げろ。
自分の道を自分で選択するために。
心がしたいことを伝えてやればいい。
ここには俺を縛る会社も人物もないんだから。
「シエロ! 俺も一緒に旅させてくれよ!」
終幕 灰色の俺と極彩色の魔女
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro