灰色の俺と極彩色の魔女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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ここで死ぬのか、ここで。
ふと、脳裏に思い出されるのは仕事場だった。
俺個人的には全く使わないし、意味もないと思っていたサービスや古いパソコンを次々と老人に契約させていくのが仕事だった。所謂ブラック会社なんだと思うけど、何処もそうなんだろうとも思ってた。転職したって似たようなもんだし。
でも俺はやっぱり罪悪感で、老人相手に不安を煽り、無駄な商品を売ることはできなかった。そのせいで営業成績は毎月びりだ。
それでも何とか通い詰めて、やっとお茶を出してくれるほど仲良くなったおばあちゃんに、パソコンを一台買ってもらうことができた。気分は最悪だった。
『部長、やっぱりできません。こんな古臭いパソコンを何十万で売りつけるなんて。騙してるようなもんじゃないですか』
『バカ、関係ねえよ。相手がどうなろうと。俺たちはモノを売らなきゃ、給料が出ねえんだ。給料が出なきゃ、生きていけねえだろ。買う方がわりいんだよ。情報も調べねえで、勝手に不安になって勝手に納得して買ってくれるんだから。俺たちはな、商品じゃない、安心を売ってんだよ』
ですが、とそれ以上口答えをすれば殴られる。だから口を結んだ。無意味だ、力のない一社員が、意見を言ったところで何も変わらない。それに俺もこれ以上、転職はできない年齢だ。ここで辞めたら、一生まともな職には就けない。
生活を守るためだ。生活を守るためだ。
それから数か月後、ふとしたきっかけで、仲良くなったおばあちゃんの家の近くに営業に出ていた。久しぶりに顔を出そう。そして少しでも有意義な使い方を覚えてもらうのもいい。罪滅ぼしじゃないが、技術が上がれば、老後もきっと楽しいことが増えるはずだ。
そう思って足を向けると、おばあちゃんは亡くなっていた。
なんでもパソコンを購入したことを話したところ、スペックに見合わないため家族に責められて、自責の念から自ら命を絶ったのだそうだ。
現実世界で一般人はこうやって人を殺す。
誰にも知られない殺人方法だ。
自分の生活を守るために殺す。
生きるために殺す。
人を殺すために嘘をついて物を売るのが嫌で————。
そんな生活が嫌で、抜けだしたかったんだろう。
誰も幸せに出来ずに、仕方なくても不幸の土台の上に自分の幸せがある事が、許せなくなっていたんだろう?
だから俺は願ったんだ————叶うことなら、流星のように一時だけでも輝きたいと。
俺の輝きを見たものが幸せになれるようにと。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro




