隻眼の俺と中年の努力
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あらすじ
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「ふっ——ふっ——」
何故、俺はこんな日の光も当たらない洞窟の中で死ぬほど刀型の石刀を振るっているのか。しかもただの人間状態で鍛えろというので、アトラスは全て外されている。
おかげでアトラスの翻訳機能も使えず、翻訳してくれる遠野だけが頼りだった。
「遠野、今日の訓練は終わったのか?」
「だからいるのよ」
遠野の衣装は巫女装束のようで赤と白を基調としている。
「今日は何回殺されたんだ」
「一〇〇回以上、それ以上は頭が痛くなるから数えるのはやめた」
俺は素振りを辞めずに手短な岩に座った遠野を横目で見る。
「流転未来の儀か、刹那のうちに可能性のあった自分を何度も体験し、並行世界で生きてきた経験を己に取り込む、だったか?」
「あのハイネって幼女のせいで今では錬金術も完璧、いえ全盛期の私以上かも」
座っている岩に両手を当てるだけで、武骨な岩は石造りの豪華な椅子へと変化する。
「現実世界の時間はほぼ進んでいないって言っても、ハイネに儀式をされると一人生分を数秒で体験してくるんだから嫌になっちゃうわ」
「終わりはいつなんだ?」
ハイネはムムムと眉根を寄せ、大きく溜息をつく。
「《今》に届くまで。あと何百回理不尽に死ぬやら。死の記憶を刷り込み過ぎるのは毒だから、起きると全然覚えてないのが幸いね。能力のみを引き継いでパワーアップしましょ、とはよく考えたものよ」
「悪夢を見て起きるようなもんか……俺は不幸中の幸いだな」
「総司郎もやれば良かったのよ」
「したくてもできねーんだよ」
遠野と同じように俺もハイネに流転未来の儀を試してもらおうとしたら、《白魔女の加護》が強すぎて別の魔女が入り込む隙がないらしい。
加護といっても俺には何も思い当たる節がない。
だから俺は仕方なく石の塊で作られた石刀を振っている。
一見ただの刀だが、実際は五〇キロ以上はある体感である。
「それで本当に総司郎は死を回避できるの?」
「回避するには俺が取り込んだ、賢者の石を成長させなければならないらしい」
以前の戦いでアトラスに取り込まれた賢者の石は、《人の進むべき意思》に吸い寄せられ、アトラスで戦ってきたこともあり、徐々に俺へと馴染んでいたらしい。
今ではアトラスを離れて俺の中で成長を続けているようだ。
つまりアトラからすれば、俺がアトラスを装着しなければ賢者の意思にも接続できず、万年腹ペコ状態なのである。だから今はまた近所で自然破壊をしながら栄養を蓄えている。
「それでどうやって成長させるのよ。ずっと素振りしてればいいなんて楽な話でもないでしょ」
「それはだな——」
「(脇がしまっとらん!)」
何を言っているか理解できなくても、声を聴くだけで背中に鉄の棒が入ったように、全身がしゃっきと伸びる。
声を出した相手を見ずに、俺は意識を集中して石刀を再びしっかりと振り始める。
「素振りが終わったら、腕立て一〇〇回三十セット、その後、滝行、ランニングだって。楽しそうね」
毎日やってるから翻訳しなくてもおおよそニュアンスは分かるが、遠野はニシシといやらしい目で笑う。
「私は精神的にきついけど、総司郎は肉体改造からだね。賢者の石は健全な肉体と魂に宿るだって、つまり死ぬほど鍛えろってことかな」
「まじかよ……」
あと何日強化しなければいけないのだ。
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