隻眼の俺と開演狼煙
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あらすじ
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「逃げるだと?」
思いもよらない言葉に俺は息を飲む。
「今まさに僕の管轄する第一騎士団の団体がトゥリズモスに向かっています。そして隣国の第四聖剣の部隊も」
聖剣同士の部隊がこの温泉街に向かっている理由は一体と考えを巡らせたとき、前髪を弄っている遠野が視界に入った。
「——古代遺跡」
「ご察しの通り」
よく当てましたと言わんばかりで、オーバーリアクションでアウルムは手を広げる。
「早朝に見つかった古代遺跡は、かなり綺麗な状態で保管されていました。今まで夢物語といわれていた『魔法』が眠っていて、しかも魔術文明を発展させる世紀の発見になるかもしれない」
「もうないと思う」
口を開きかけた遠野を制止して、俺はアウルムをじっと見つめる。奴の思考は本当なのか、相変わらず掴みどころがない口調で罠なのかすら分からない。
「良いのか逃がしても。冬の賞与に響くんじゃないのか?」
「賞与よりも妹が先決です。私事ではありますが、妹はこの街が好きなんです。只でさえあの第四聖剣が来るというのに、そこに極彩色の魔女までいては乱戦必須です。それは避けたい。来年も妹と楽しむためにはね」
「……分かった、恩に着る。だがいつかシエロの姉たちは取り戻させてもらう」
「酒を飲みかわせる間柄かと思いましたが、次ぎ会うときもそうはいかないようですね」
俺と遠野が中庭から出ようとすると、アウルムは去り際に俺を呼び止めた。
「そういえばその銀髪の少女、いつの間にか増えてませんか?」
「そうだよ、娘が増えた」
★ ★ ★
部屋に戻る途中で、珍しく急いだ様子で廊下を歩いていたガドウとレウィンリィに鉢合わせした。
「どうしたガドウ、そんなに急いで」
「ふはは、騎士団が踏み入れる前に遺跡探索としゃれこむかと思ってな」
だから長いロープを体に巻き付けて歩いてるのか。
普段は大人っぽいレウィンリィも今日ばかりは、目が煌めいているように見えた。
「チェリー、私たちマギアハウンドの目的は分かる?」
「突然だな、魔術の消滅だろう」
「そう、でもその手段は全くなかった。やっとシエロちゃんが見つかった程度」
極彩色の白魔女が持つ《鎮魂歌》によってグロウスは、初めて真の眠りにつくことができる。
「でもね、古代遺跡には太古の昔に反映していた魔法を消滅させた歴史が眠っていると言われてて——もしその謎が解ければ」
「ながい、行くぞレウィンリィ!」
ガドウはレウィンリィの襟首を掴んで、いまだに俺に話しかけている彼女を引っ張っていく。
「あ、ガドウ!」
あぶねえ忘れるところだった。
「悪いが俺たちはすぐにここを旅立つ。戦場になる可能性がある。ありがとうな、ガドウ、温泉誘ってくれて」
「次こそは飲み比べだ。女子供では相手が務まらん」
歩きながらガドウは言って俺に手を挙げてくれた。
人の目玉潰しておいて、憎めないのは面倒見のいいやつだからだろう。だからレウィンリィやシュラクに慕われているのだろう。
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