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S.A.V.E  作者: 夢咲 命
001 集いし戦士
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001


「十年間の想いが交差する。

 変わり果てた最悪の再会......」



001 集いし戦士。


S.A.V.E/plant.seeds


the language of flowers

a bunch of flowers

flowers are wilted




 “122年3月7日。青年の出身地、鏡花村で起きた原因不明の謎の超巨大爆発事件”。壁に貼られた記事を見上げた黒髪の青年は拳を握りしめると瞼を落とす。蘇る記憶が青年の心の中にある憎悪を呼覚ます。

 与えられた時間の中で、奴にどれほどの屈辱と痛みを味合わせる事ができるのか。




*                *




「これを彼らに渡してきてください」

 人目につかないビルの地下で、郵便局員を装った格好をしている男性に青年が黒い封筒を渡す。男性は封筒を鞄にしまうと部屋を出ていく。期待に満ちた笑みを浮かべる青年は机に置かれていた資料を手に取る。

「彼らが十年間の間、何もしていなかった訳がありませんからね」

 そう言って不敵な笑みを浮かべた青年は手に持っていた黒髪の青年の写真と資料を無雑作に机へ放り投げる。

「彼らはきっと、いや、必ず集まりますよ」




 ―――3月7日。




 小鳥のさえずりが心地よい、春の朝陽が差し込む部屋に、大量の目覚まし時計が一斉にジリリッと、鳴り響く。

「んー......うるさい......はぁ......もう朝、か」

 リビングの隣にある大きな押入れには大量の目覚まし時計に囲まれているベッドがピッタリと収まっている。頭まですっぽりと布団を被った氷霧諒我は、もぞもぞと体を動かしながら一つ目の目覚まし時計に手を伸ばす。二つ目、三つ目と目覚まし時計を次々に止めていく諒我は、目覚まし時計を掻き分けながら起き上がる。今日ばかりは寝坊する訳にはいかない。今後の生活が懸かっている一大イベントが待っているのだ。ぴょんっと寝癖のついた黒い髪をボリボリと掻きながら、顎が外れてしまうのではないかと思わせるほどの大きな欠伸をする。ボーっとしている瞳は潤いが無く、血色の悪い唇。血管の浮き上がった細い手足と首筋。整った顔立ちとまではいかない、ごくごく普通の顔立ち。真っ黒なヨレヨレのTシャツに、真っ黒のパンツをだぼっと履いている。

 ベットが置かれた押入れの扉を開け放つと殺風景なリビングが広がっている。灰色のカーテンを開けた諒我は窓から差し込む光に目を細めながら、乱れた髪の毛を手で整える。小学校、中学校と、学校に通っていなかった諒我は制服が無く、誰が見ても部屋着との見た目の区別がつかない黒いズボンと黒いシャツに着替え、黒いコートを羽織る。黒い封筒を握りしめた諒我は朝食を食べる事無く、玄関の物置の上にあった謎の種を持ち、諒我の住む1LDKのアパートからロメリア都市に踏み出した。




*                *




 この世界は多くの都市が存在し、数多く存在する都市の中でロメリア都市と絢爛都市の二つの都市を中心に成り立っている。ロメリア都市が洋ならば、絢爛都市は和である。簡単に言ってしまえば“洋”と“和”で対立している。その為、両都市は大きな壁を境目とし分裂している。行き来は自由だが、二つの都市を繋ぐ壁、“大聖門”の入り口で門番によって行われている身分証明を行わなければ、二つの都市を行き来することはできない。




 そんな二つの都市には“帝王”という存在があり、都市は帝王を中心として成り立っている。ロメリア都市では“マルティネス家”が帝王と崇められ、絢爛都市では古代から変わることなく“清龍家”が帝王の役割を担っている。

 ロメリア都市の治安を守る為に存在する、早坂力軍総合長官率いる政府防衛戦闘組織、“パトリオット”は、マルティネス家に仕えている。簡単に言ってしまえば忠実な番犬のような存在である。パトリオットはロメリア都市の防衛を行い事件が起こればすぐさま出動し、都市を守り動かすことを任務とした重要組織である。

「命に代えてもルイーズ王をお守りするのだ!!」

「「「はっ!!」」」

 パトリオットの薄井照夫副総監の号令によって隊員の士気が高まる。装備した拳銃を確認しながらそれぞれの位置に付く。無線を取り出した隊員は拳銃を構える。

「こちら第二部隊。配置完了しましたっ」

「よし。怪しいと思った奴は、女子供関係なく直ちに始末しろ」

 薄井副総監の命令によって、普段の隊服姿ではなく白色の立派な正装服を着ているパトリオットの隊員達の眼が一気に鋭い眼差しに変わる。

「......開始だ」

 扉の前にはロメリア都市の誇りであるアルストロメリアの花の紋章の旗を掲げる隊員の姿がある。パトリオットの幹部によって城の扉がゆっくりと開け放たれると、光り輝く王冠を頭に乗せたルイーズ・マルティネス王が国民の前に姿を現した。

「「「「「うおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」」

 握りしめた拳を掲げたルイーズ王の強く気高い姿に地響きがする程の歓声が沸き上がる。涙を流し皺皺になった手を頭の上で拝む老婆。泥だらけの服を着た少年は人混みを掻き分け必死に背伸びをする。一瞬ではあるが、ルイーズ王の姿を見た少年は目を輝かせる。今まさに、国民の心は一つになった。

「私の命は人類と共に」

 歓声は鳴り止む事を知らない。ルイーズ王の発言にさらに歓声や拍手が大きくなった。人込みを掻き分けながら一歩一歩足を踏み出す少年はルイーズ王に血走った目を向けナイフを握りしめていた。そんな少年を見かけた黒いカチューシャをした少女は人混みの中で必死に手を伸ばした。

「そっちは、駄目っ!もどっ......っ!!」

 少女の呼びかけは虚しく、パトリオットの隊員によってナイフを持った少年は銃で射殺された。その残酷な銃声は国民の歓声によって誰にも聞こえる事は無く、虚しく掻き消された。

「あ......うっ......ああっ......」

 その悲惨な光景を目の辺りにした少女は唇を噛み締める。少年の前にがくんと膝を突く少女は少年の頬に手を当てる。涙を浮かべた少女の肩にひんやりとした掌が置かれる。顔を上げた少女が振り返ると、そこには黒い宝石の髪飾りをした美しい銀髪の女性が立っていた。

「この残酷な世界を、私と一緒に美しくしましょう」

 そう言いながら女性は少女の頬を伝う涙を拭き取り微笑む。少女は力強く頷くと、息のない子供を抱き上げ復讐に燃える眼差しを浮かべる。女性は少女の頬に手を重ねたまま、二人は漆黒の花びらに包まれその場から姿を消した。空高く舞い上がった花びらは空から雨のように国民に降り注ぐ。真っ青な空を見上げた国民は手を挙げて歓声を上げる。血を含んだ花びらは風に吹かれることはなく、虚しく国民に踏み潰された。



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