第4話 8
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スズ視点
2043年3月24日
鎌倉までの移動の疲れがとれないのか、今日も熱が下がらないので一日中寝込んでいた。
自分の弱いからだが悔しい。
マキお姉ちゃんはわたしの学校の成績がいいことで、羨ましいと愚痴をこぼす。
とんでもない!わたしよりも体が健康なマキお姉ちゃんや灼熱お兄ちゃんの方がずっとチートだと思う。
わたしがいくら頭が人よりもいいと言われても、体の自由がきかないんだから。
まるで『人工知能搭載ノートパソコン』だ。
冗談じゃない!
わたしが最初に自分の寿命について聞いたのは三歳のことだった。
わたしは一歳からの記憶がある。一歳からすでに今と変わらず人の話を聞いて物事を考えてきた。
それが普通と思っていた。
まだ幼いわたしは周りの大人の内緒話をずっとおとなしく聞いていた。
だって体が言うことをきかなかったし、まだ言葉をうまく発することができなかったから。
わたしは生まれてからよく熱を出していたので、お父さんとお母さんがわたしを大きな病院に連れて行って検査をしたときのことだ。
原因不明のウイルスに冒されているわたしの命は五歳まで持たないだろうと言われた。あと二年でわたしは死んでしまうだろうと。
これはわたしに聞こえないように別室で大人が内緒話していたのだが、なぜかわたしにはよく聞こえた。
まだ命についてよくわからないわたしは、ただ単純にお父さんやお母さん、お姉ちゃんやお兄ちゃんとお別れするのが寂しくて泣いてしまった。
そして二年が過ぎ、五歳を迎えたわたしは再検査の結果、七歳で命を失うだろうと言われた。その後二年ごとに検査をするが、そのたびに二年後に死ぬと宣告され続けていた。そして、昨年十五歳の時の検査でも十七歳まで持たないだろうと言われている。
検査の度にわたしの体は病魔に冒されて、衰弱の度合いが強くなっているという。
お医者さんは今度こそ本当に覚悟が必要だろうとお父さんとお母さんに別室でおっしゃっていた。
このことを知っているのはお父さんとお母さん、そしてレイカお姉ちゃんだけだ。
マキお姉ちゃんとマグマお兄ちゃんはこのことを知らない。
そしてわたしも知らないことになっている。
わたしが小さい頃に知り合いのおばさんにもらったらしい、なにかの石の入ったお守り(いつも肌身離さず身につけている)があると元気になる気がしていたけど、最近はそれさえも効き目が弱くなっている気がする。
ずっと死について考えてきた。考えすぎて、もう自分の生についてあきらめてしまっている。
だけど最近はもう少しなにかこの世の中に爪痕を残したいと思えるようになってきた。
自分が生きていた証を残したいと欲求が募る。
(中略)
2043年3月20日 Suzu Tekka
明日、生まれ育ってきた青森を離れて神奈川県の鎌倉に引っ越しをする。
わたしとマキお姉ちゃんと二人、鎌倉に住んでいるレイカお姉ちゃんの家に居候することになった。
当然お父さんとお母さんは猛反対したが、徳言学園というところからの熱烈なお誘いがあったからというのは建前で、鎌倉に行く理由のほとんどはわたしのわがまま。
体が弱く、いままで旅行以外で青森を離れることはなかった。このまま死んで行くんだと思ったら少し寂しくなった。
少しでも外の世界を見たい。生きている限りいろんなことを体験してみたいというわたしの欲求は抑えられなくなっていた。
お父さんとお母さんと離れるのは寂しいし、最悪これが最後の別れになるかもしれない。
それでも外の世界を見てみたい。
今日からわたしはできるだけ毎日日記をつけることにした。一日でも欠かすと、おそらく後悔することになるかもしれないからだ。
わたしの日記は厳重なパスワードをかけて、絶対に誰も見ることは出来ない。わたしが生きている間は。
わたしが死んだあとは家族だけに公開するように設定している。
だって、これはわたしの遺書だから。




