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第1話 2

2

 早くも知り合いが出来たあたし達は盛り上がってきて、もっと話をしようとしていた時、研修担当と思われる銀縁眼鏡を掛けた綺麗なお姉さんから声がかかった。

 「これから入社式会場に入場してもらいまーす。会場では配属先順に、椅子に名前を書いた紙が貼ってありまーす。それでは、名前を呼ばれた人から一人ずつ、順番にお入りくださーい!」


 ホール端の大きな扉がゆっくりと開いて、名前を呼ばれた人から順次会場に入って行った。入った人から、「おっ、すげー!」とか「かわいー!」とかびっくりした声が聞こえてくる。

 なにが起きているのかな?心配になりながら、熊男に続いて自分の番が来たので、そーっとドアを開けた。


 会場に入ったとたん、はじめに目に飛び込んできたのは、15cmくらいからの大きさのぬいぐるみのようなナニモノか。それが入り口横に置かれた大きなテーブルの上に一列に並んで一斉にこちらを振り向いた。

 あたしも「うひゃっ!」と声を上げてしまった。見た目は小動物だ。ウサギ、犬、鳥、亀など、いろいろいる。

 あれ、一番前に人間の女の子タイプがいるね?

 これはあれだ、きっと”MoNStEr”だよ。なんでこんなところにいるの?



 2043年の日本、巷には「MoNStEr」が少しずつ普及し始めていた。

「MoNStEr」は10cmから50cmくらいの大きさで、大方が動物の形をしている。一般家庭向きのは、ほとんどが猫や犬の姿だ。企業向けにはいろんなタイプがあるらしい。

 最近の「MoNStEr」は第二世代といわれて、知能や感情があり、おしゃべりしたり食べ物を食べたりするまで進化していて、まさにお話するお人形かペットだ。

 ところが、「MoNStEr」はそもそも生き物ではなく工場で生産される「工業製品」というくくりになっている。でもロボットのようなコンピューター制御の機械ではなく、化学工場で化学合成で生み出される化学物質という扱いだ。

 だいたい10年前から販売されたらしいけど、値段が高いため(安くても数百万円はするんだよ!)、一部のお金持ちしか所有できず、全然普及していない。ほとんどの人はTVやインターネットの動画でしかみたことがない程珍しいものなのだ。あたしは訳あって、毎日のようによく接しているけど・・・・。

 この「MoNStEr」は今日入社した衣ケミカルでも製造していて、いよいよ第二世代が新発売されると会社のホームページに載っていた。なぜ化学物質が動物の姿で動き食事までできるかは各社の企業秘密ということになっているらしい。



 どうやら新入社員一人につき一体の「MoNStEr」が配られるようだ。さすが大企業。太っ腹だねー。でもなんでこんな高価なものを?

 と思っていたら、一番前に並んでいた女の子の「MoNStEr」があたしに向かって無言で手を挙げてきた。握手かな?と右手を差し出した時に、その子があたしの手にしがみついてきた。袖から腕を伝わって素早くよじ登り、あたしの肩の上にちょこんと載ってしまった。

 テーブル横の(案内の?)お兄さんから、この子はあなたのパートナーになるので、一緒に入社式を受けてくださいね。と説明を受けた。パートナーって何?

 この子の髪は薄い銀色で、肌が雪のように真っ白だ。大きな目が赤くて顔もほっそりしている。まるでカゲロウのように儚げで妖精と言っても通じるくらい。

この子はほかの「MoNStEr」と違って、白衣のような服を着ていた。膝丈の白衣からはすらりとした白い足が伸びていて靴は履いていない。

 そもそもほかの子達は動物の形をしているので服は着ていなかった。この子だけは人間の形をしてはいるけど、無機質な表情はは虫類のような感じがした。

 じーっとみていても、この子は決してあたしと目を合わせようとしない。緊張しているのかな?


 落ちたら大変なので、あまり揺れないように、そのままそーっと、自分の名札が貼ってあるパイプ椅子に座った。

 周りを見渡すと、全員が膝の上だったり肩の上だったり、「MoNStEr」が一体ずつ一緒にいる。ちょっとした動物園だ。

 みんなすでに自分の「MoNStEr」と挨拶したりしている。ほかの子の「MoNStEr」はみんなにこにこしてて、どの子もかわいらしい。入社式なのになんだかほほえましいね。

でもあたしの「MoNStEr」はとてもよそよそしくて無口だ。

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