第0話 3
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「ここからここまでの五人!大至急全部のタンクの元バルブを閉めてこい!残りの五人はネットと溶剤の吸引器を持って俺についてこい!」
部長は無謀にも再突入するつもりだ。
と、突然ドゴォンンンン!!!!!!という轟音を響かせて中間プラントの金属シャッターの枠が吹っ飛んだ!そして中から高さ2m以上のほぼ球形の緑色の物体が出てきた。 KC-MoNStEr Ⅱ AIRBAG FLOG-5050、通称カエル。普段は一体が直径15cmで容積1リッターほどのまん丸い大きさだが、衝撃を与えると直径1mに膨らむ。これは体積にすると約300倍だ。この性質をいかして某自動社会社の高級車向けエアバックの代替え品として採用活動を進めている。
今は研究室の小さなサイズからより大きなサイズで製造していくための中間段階のプラントで試作をしているはずだ。そして500リッターの製造タンクで製造しているということは500体のカエル。それが一つにくっついて、建屋から出てきたということらしい。
今はまだ有機溶剤を飲んで膨れているだけだが、全部のカエルが衝撃で300倍になるとここの原料タンクよりも大きくなってしまう!(注:理論的には直径8mの球体になります)
カエルはゆっくりと原料タンクの方に向かって歩き出した。どうやらタンクの元バルブを閉められたために、直接原料タンクから原料を飲もうとしているらしい。
狩場沢部長と5名の仲間達は捕獲ネットを持ってカエルに突入しては、ボョンンンとはね飛ばされていた。
「あぎゃっ!」あ、この声は第三プラントの風雲だ!
何度も何度も。カエルは部長達の攻撃にも歩みを止めることはなく、次第に原料タンクへ近づいていった。
「あいつら第二世代のカエルは溶剤を飲み込むが栄養にするわけじゃない。ただ単に飲み込んで体を大きくするだけだ」
先輩の解説に、体を大きくしてなんの意味があるの?とあたしは不思議に思っていた。
「やばいよね。これ・・・」
のんびり見ていたあたしでも、さすがに非常に危険だとわかる。
「ああ、今日は特に空気が乾燥しているから、静電気が溜まりやすくなっている。原料タンクには引火点が-4℃の酢酸エチルだってある。今の気温ではごく簡単に火災になる条件がそろっている」
燃焼が起きる条件って、燃えるモノと酸素と着火源があればいいんだっけ?
原料タンクヤードで火災が発生すると、危険物が入ったタンク群が熱せられて発火点に達し、大爆発を起こしてしまう。そうなったらこの工場の周りの民家に甚大な被害を及ぼす。それくらいはあたしにもわかる。
しかし、この状況であたしができることは全くない、そう思っていた。
部長達はあきらめずに原料タンクの前にバリケードを築いたが、総重量3トン近くの怪物に敵うわけがない。万事休すとはこのことだ。
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あたしは鉄火マキといって、工場の環境安全課のまだまだひよっこで、みんなに迷惑をかけることもあります。
工場は毎日こんな風にトラブルだらけで、あたしはいろんなことに巻き込まれていますが、なんとかがんばっています!