第2話 1
第二話 巻いて巻いていくよー!
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あたしは、たぶん今までの人生のなかで一番後悔している。
昔からなにも考えずに行動して、周りの人に迷惑をかけることもあった。すぐに頭に血がのぼるのである。
そうなったら最後、本人も思ってもいないことを口走ったりするのだ。
今なら夏目漱石の「坊ちゃん」の気持ちがよくわかる。
今回もそう。
入社一日目で会社の方針に楯突くのだから、下手をするとクビになってしまうかもしれない。まだ試用期間だし。
それに第二世代「MoNStEr」のこと、性能やどんな性格等、なにも知らない。
お姉ちゃんが言うように、本当に危険な場合、どうすればいいか、検討もつかない。
うん。これは詰みだね。
せめてあたしのパートナーだけは廃棄されないように、クビになるまでの間だけでも頑張らないと。
休憩時間に入り、一人で落ち込んでいると、隣のメルちゃんがなぜかきらきらした目であたしをじっと見つめて声をかけてきた。
「マキちゃん、先ほどは感動しましたわ!あのレイカ様に真っ向から反論できて、さらに解決すると宣言するなんて、すばらしいです!」
衣奈さんはあたし手を両手で包み込んで、ぐいぐいと迫ってくる。
「えー、いやー、そうかなー?はは・・・」
自分が一番よくわかっている。解決策などなにもないことを。
「ほんまやで。マキちゃん、あんたほんまにすごいわ。あんなことなかなか言えへん。うち感動したで」
乱ちゃんも持ち上げすぎだ。
さらに「おまえすげーなー!」
熊男(名札には南部月平と書いている。月平?どこかで聞いた?)と層君も寄って来た。「はっはっは!おまえの姉さん怖いなー!さすが氷の女王レイカ様だな!」
どれだけのんきなんだ?そんなんだと、あんた早死にするよ?まあ、悪い人ではなさそうだけど。
「それにしても、マキちゃんのお姉さんは家でもあんなんなん?結構きついこと言うてたけど。ウチみたいに優しくないんかな?」
「姉さんは人の言えないんじゃ・・・」
層君が口を挟むと、乱ちゃんが思いっきり層君の頭をたたいた。なんで?
「あんたはいっつもそうや!もっとはっきりと突っ込まんと、みんなに才能がないと思われてまうで!そんなことでは立派な芸人にはなれへん!」
え?芸人になるの?え?体操やめちゃうの?いや、今そんな話をしていたわけではないと思うけど。というか、これはどつき漫才というやつでは?初めて生で見たよ!
話が脱線しまくっているが、あたしの家族は、父、母、長女の姉(レイカお姉ちゃん)、長男の兄、次女のあたしと三女の妹を合わせた6人家族。そのうちあたしと妹は地元を離れて、鎌倉のお姉ちゃんの家に居候している。
お姉ちゃんは小学校、中学校ではいつもトップの成績で小さい頃からなぜか理科実験を好んでいた。しかも中学校の時の理科の研究発表は全国大会で一位を取ったりしていた。県内一の進学高校に進んで、そこから東京の工学系の大学で化学を専攻し、修士、大学院を経て今や大学教授だ。大学では「MoNStEr」の研究論文で博士号を取り、マスコミへの露出も多いことから、化学業界では既に有名人だ。
しかし、お姉ちゃんのことをよく知っている人からは「氷の女王」と呼ばれている。化学のことで議論になるといつも完膚無きまでに相手をたたきのめし、場を凍らせてしまうからだ。
そこから、「レイカ=零下=氷の女王」と呼ばれるようになったと、高校の友達から聞いたことがある。
あたしはこのお姉ちゃんと小さい頃から比較されてきた。
優秀な姉と平凡な妹、五歳離れていても田舎では姉の伝説は語り継げられていて、常に肩身が狭い思いをしていた。実際なにをやってもかなわない。
時々お姉ちゃんが実験をするときにつきあわされたが、そのたびに爆発したり、なにかぶつかってきたりして、痛い思いをしてきた。質問してもよくわからないことを言ってくる。
普段は優しいが、気にくわないことがあるとものすごく怒る。そうなると手がつけられない。
あたしはだんだん理科を避けるようになり、さらに勉強も嫌いになり、たまたま足が速かったので陸上部に入ってマラソンに打ち込んでいった。兄が地元の中学校の体育教師をしているのもたぶん同じ理由だと思う。
というわけだから、さっきお姉ちゃんに楯突いたのは非常にやばいのである。怒らせるととても大変なことが起こる。あたしの心が萎縮して、もうなにも考えられない。ガクブルだ。




