告白
上目遣いで見つめてくる。俺より20㎝くらい小さい。その小動物のような可愛さに鼓動がさらに強さを増す。
「あ、あの、江口さん、あなたに用があって。」
「何のご用ですか?」
江口さんは少し首を傾げた。
「その、江口さんのことが前から気になっていたんです。もしよかったら友達からでいいので、つきあってくれませんか?」
「あ、いいよー!」
呆気なく承諾の返事が返ってきた。その場にへたれ込みそうになるが、堪える。
「今日は時間ありますか?」
「生徒会室に忘れ物取りに来ただけだし、部活もないし、今から暇だよー。」
「じゃ、ご飯でも食べにいきましょう。」
江口さんの前では緊張して上手くろれつが回らない。
「てかさ、米沢くんだよね?なんで敬語なのー?タメなんだからタメ語、タメ語!」
固まった肩の力を抜くために動かす。
「名乗ってないのに、名前わかるの?」
「そ、そりゃまー生徒会だからね。」
目をそらして江口さんはそう言った。
校門を抜け、二人で並んで歩く。
下校ラッシュにぶちあたり、周りは高校生だらけだった。周りからの目を気にする。
「米沢くんって、下の名前なんだっけ?」
「たかしだよ、江口さんはまほだよね?あってる?」
「え、なんでわかるのー。たかしくん。」
江口さんは不思議そうな顔をした。
「C組の子からたまたま聞いたんだよ。」
「そっかぁ。てかさ、てかさ、手つないでもいい?」
その言葉の意味が脳神経にはすぐに伝わらなかった。
「え、そんな、初日だよ。」
近くを歩くカップルは腕を組み、くっついて歩いていた。
「ウチらつき合ってんだからあたりまえじゃーん。」
「じゃ、じゃあ。」
少しずつまほの手に近づき、触れる。
二つの手のひら、指と指が重ね合わさる。
いわゆるカップルつなぎで、軽くギュッと握り合う。
少し暖かく、小さな手で胸がドキドキする。
「なんか、フィットしたねー!ウチら、これ相性いいよ!」
まほは繋いだ手をブンブンと振り回す。
「まほさんさ、成績すごい優秀なのに、見た感じ頭良さそうに見えないね。」
「え、それってほめてるのー。」
そんなこんなで、ハンバーグレストラン びっくらモンキーズにたどり着いた。
「ここで食べない?」
「やった!ここ好きなのー。」
中に入ると、若いカップルがもう一組いたくらいで店内は空いていた。
「ご注文はどうされますか?」
と、若くて清潔感のあるウェイトレスが尋ねる。
「パインハンバーグで!」
「わたしは、和風おろし!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
ウェイトレスは丁寧に頭を下げる。
「パイン好きなの?」
まほは、パインハンバーグを食べたことがないと言った。
「意外と合うんだよ。」
「へー!じゃー、一口もらってもいい?」
「もちろんいいよ。」
まほはスマホを弄っていたが、急に思いついたように話す。
「ねえねえ、今日は5月15日、ウチらが付き合い始めた記念日だよ。これからいっぱいいっぱい記念日作ってさ、ウチら二人だけのアニバーサリーカレンダーつくろうね!」
「いいね!まだつきあって間もないのに、まほさん、すごい話しやすくてさ、不安とか吹き飛んじゃったよ。」
「ウチも!なんか、たかしくんといると楽しくて、常にウキウキしてるんだよー。」
「それはよかった。」
*
「ハンバーグおいしかったねー!てか、パインとハンバーグがあんなにマッチするなんて今日1番の驚きだよー!」
まほは、心の奥底から嬉しそうで楽しそうだ。そんな姿をみてると、改めて好きだなって思う。
手を少し強く握った。
強く握り返してくる。
「ねえ、たかしくん。」
と、まほが小さな声で話し出す。
「ウチ、たかしくんといると、すごく安心するの。
心があったかくなるし、幸せだなって思うの。もー既にたかしくんのこと大好きだよ。できるだけ一緒にいたいよー。」
「俺も、まほさんのこと好きだって何度も言うよ。
辛いこととかどんなにあっても、まほさんが笑ってれば全部吹き飛んじゃう。」
「きっとウチら、陽子と中性子以上に引きつけ合ってるよ。」
普段、聞き覚えのない言葉に頭の回転が止まる。
「よ、陽子?」
「陽子と中性子が引きつけ合う力はすごく強くて、クーロン力とか、ファンデルワールス力とかは全然かなわないんだよ。陽子と中性子が原子核を作って、その原子核はプラスに帯電していてー、だからウチら二人一緒なら、ずっとプラスになるはずだよ。」
まほは少し早口でそう話した。
「なに言ってるかわからんけど、俺らは陽子とかなのかもね!」
「ウチらはミクロレベルの奇跡で溢れてるねー! 」
*
「たかしくん、家まで送ってくれてどうもありがとう。」
「こちらこそだよ!できるだけ一緒にいたいからさ!」
街灯が少し明るくなった気がした。雲の切れ間から三日月がちらりと現れた。
「明日から一緒に学校いこうよー。」
「もちろん。」
待ち合わせ場所はここで、時間は7時10分くらいと決め、連絡先もそのとき交換した。
「それじゃあ、明日ねー。」
まほはこっちを向き、手を大きく振りながら一戸建ての家に入っていった。
その後、俺も無事に家に着いた。
頭の中は、まほでいっぱいだった。初日でこんなに意気投合して、うれしすぎて。
こんなに幸せをくれるまほさんを俺の手で幸せにしよう。
一生愛し続けよう。
そんなことを考えながら眠りについた。
*
次の日の朝、時間通りまほさんの家の前に着く。
すぐさま、まほさんが元気良く飛び出してきた。
「たかしくんおはよー!」
「おはよう。まほさん、朝から元気だね。」
たかしくんに会えるからだよー、とまほは照れくさそうに笑った。
「きょうの夜はさ、喫茶店にいかない?おしゃれなとこあるんだよ。」
「めっちゃいきたい!」
まほは跳びはねながら俺に乗っかってくる。
授業はまほと夜会うことをシミュレーションしてしまったりで、集中出来なかったが、部活の陸上は百メートルの自己ベスト記録が出て、顧問に褒められた。
まほは校門の横で待っていた。
「ごめん遅くなって。」
「ウチもさっき部活終わったとこだよー。」
行こうか、と手を繋いで歩き出す。