表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
待夢マシン  作者: 太子
4/5

告白

上目遣いで見つめてくる。俺より20㎝くらい小さい。その小動物のような可愛さに鼓動がさらに強さを増す。

「あ、あの、江口さん、あなたに用があって。」


「何のご用ですか?」

江口さんは少し首を傾げた。


「その、江口さんのことが前から気になっていたんです。もしよかったら友達からでいいので、つきあってくれませんか?」


「あ、いいよー!」

呆気なく承諾の返事が返ってきた。その場にへたれ込みそうになるが、堪える。


「今日は時間ありますか?」


「生徒会室に忘れ物取りに来ただけだし、部活もないし、今から暇だよー。」


「じゃ、ご飯でも食べにいきましょう。」

江口さんの前では緊張して上手くろれつが回らない。


「てかさ、米沢くんだよね?なんで敬語なのー?タメなんだからタメ語、タメ語!」


固まった肩の力を抜くために動かす。

「名乗ってないのに、名前わかるの?」


「そ、そりゃまー生徒会だからね。」

目をそらして江口さんはそう言った。


校門を抜け、二人で並んで歩く。

下校ラッシュにぶちあたり、周りは高校生だらけだった。周りからの目を気にする。


「米沢くんって、下の名前なんだっけ?」


「たかしだよ、江口さんはまほだよね?あってる?」


「え、なんでわかるのー。たかしくん。」

江口さんは不思議そうな顔をした。


「C組の子からたまたま聞いたんだよ。」


「そっかぁ。てかさ、てかさ、手つないでもいい?」

その言葉の意味が脳神経にはすぐに伝わらなかった。


「え、そんな、初日だよ。」

近くを歩くカップルは腕を組み、くっついて歩いていた。


「ウチらつき合ってんだからあたりまえじゃーん。」


「じゃ、じゃあ。」

少しずつまほの手に近づき、触れる。

二つの手のひら、指と指が重ね合わさる。

いわゆるカップルつなぎで、軽くギュッと握り合う。

少し暖かく、小さな手で胸がドキドキする。


「なんか、フィットしたねー!ウチら、これ相性いいよ!」

まほは繋いだ手をブンブンと振り回す。


「まほさんさ、成績すごい優秀なのに、見た感じ頭良さそうに見えないね。」


「え、それってほめてるのー。」


そんなこんなで、ハンバーグレストラン びっくらモンキーズにたどり着いた。

「ここで食べない?」

「やった!ここ好きなのー。」


中に入ると、若いカップルがもう一組いたくらいで店内は空いていた。


「ご注文はどうされますか?」

と、若くて清潔感のあるウェイトレスが尋ねる。

「パインハンバーグで!」

「わたしは、和風おろし!」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

ウェイトレスは丁寧に頭を下げる。


「パイン好きなの?」

まほは、パインハンバーグを食べたことがないと言った。


「意外と合うんだよ。」

「へー!じゃー、一口もらってもいい?」

「もちろんいいよ。」


まほはスマホを弄っていたが、急に思いついたように話す。

「ねえねえ、今日は5月15日、ウチらが付き合い始めた記念日だよ。これからいっぱいいっぱい記念日作ってさ、ウチら二人だけのアニバーサリーカレンダーつくろうね!」


「いいね!まだつきあって間もないのに、まほさん、すごい話しやすくてさ、不安とか吹き飛んじゃったよ。」


「ウチも!なんか、たかしくんといると楽しくて、常にウキウキしてるんだよー。」


「それはよかった。」


「ハンバーグおいしかったねー!てか、パインとハンバーグがあんなにマッチするなんて今日1番の驚きだよー!」

まほは、心の奥底から嬉しそうで楽しそうだ。そんな姿をみてると、改めて好きだなって思う。

手を少し強く握った。

強く握り返してくる。


「ねえ、たかしくん。」

と、まほが小さな声で話し出す。


「ウチ、たかしくんといると、すごく安心するの。

心があったかくなるし、幸せだなって思うの。もー既にたかしくんのこと大好きだよ。できるだけ一緒にいたいよー。」


「俺も、まほさんのこと好きだって何度も言うよ。

辛いこととかどんなにあっても、まほさんが笑ってれば全部吹き飛んじゃう。」


「きっとウチら、陽子と中性子以上に引きつけ合ってるよ。」


普段、聞き覚えのない言葉に頭の回転が止まる。


「よ、陽子?」


「陽子と中性子が引きつけ合う力はすごく強くて、クーロン力とか、ファンデルワールス力とかは全然かなわないんだよ。陽子と中性子が原子核を作って、その原子核はプラスに帯電していてー、だからウチら二人一緒なら、ずっとプラスになるはずだよ。」

まほは少し早口でそう話した。


「なに言ってるかわからんけど、俺らは陽子とかなのかもね!」


「ウチらはミクロレベルの奇跡で溢れてるねー! 」


「たかしくん、家まで送ってくれてどうもありがとう。」


「こちらこそだよ!できるだけ一緒にいたいからさ!」

街灯が少し明るくなった気がした。雲の切れ間から三日月がちらりと現れた。


「明日から一緒に学校いこうよー。」


「もちろん。」

待ち合わせ場所はここで、時間は7時10分くらいと決め、連絡先もそのとき交換した。


「それじゃあ、明日ねー。」

まほはこっちを向き、手を大きく振りながら一戸建ての家に入っていった。


その後、俺も無事に家に着いた。

頭の中は、まほでいっぱいだった。初日でこんなに意気投合して、うれしすぎて。


こんなに幸せをくれるまほさんを俺の手で幸せにしよう。

一生愛し続けよう。


そんなことを考えながら眠りについた。


次の日の朝、時間通りまほさんの家の前に着く。

すぐさま、まほさんが元気良く飛び出してきた。


「たかしくんおはよー!」

「おはよう。まほさん、朝から元気だね。」

たかしくんに会えるからだよー、とまほは照れくさそうに笑った。


「きょうの夜はさ、喫茶店にいかない?おしゃれなとこあるんだよ。」


「めっちゃいきたい!」

まほは跳びはねながら俺に乗っかってくる。


授業はまほと夜会うことをシミュレーションしてしまったりで、集中出来なかったが、部活の陸上は百メートルの自己ベスト記録が出て、顧問に褒められた。


まほは校門の横で待っていた。

「ごめん遅くなって。」

「ウチもさっき部活終わったとこだよー。」


行こうか、と手を繋いで歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ