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待夢マシン  作者: 太子
2/5

夏の思い出

正面を見ると、小学生くらいの男の子が、踏切内で立ち往生していた。

危ない!

すぐさま、車から駆け出す。

躊躇ちゅうちょせず、踏切をくぐり抜ける。

男の子を右腕で抱き抱え、反対側の道路に猛ダッシュで去ろうとする。

特急列車は50メートル先くらいの距離だった。


急ブレーキの音が聞こえ始める。何とか踏切の外に出た。


列車は止まった。


列車のすぐ目前に、赤いコートを着た女の子が立っているのが視界に入った。


ま、まほ!?


まほに似ている姿に呆然としていたとき、低い男の声が聞こえた。


「大丈夫かい?」


「え、ええ、大丈夫でした!って、昨日の車掌さんじゃないですか?!」


「本当に本当によかった!」

車掌さんは顔をくしゃくしゃにして笑い、男の子の頭をポンポンと優しく叩く。


さっきのまほらしき姿は見えなくなっていた。


「お兄さん、助けてくれてありがとう。」

男の子は涙目で、感謝の言葉を口にする。


男の子の両肩に手を当てる。

「きっと神様が君と僕を見守っていて、助けてくれたんだよ。」


男の子は、生温くてやわらかい、銀紙で包装されたチョコレートを俺に渡し、元気に手を振りながら走っていった。


チョコレートをジーンズのポケットに突っ込んだとき、妙な感触がした。

手をポケットから慌てて出す。

その手はチョコレートでべたついていた。

チョコレートをポケットティッシュで拭いながら車に乗り、ふぅーっと息を吐く。


この目でまほの姿を確かにみた気がした。


気のせいかな。


幻覚かなんかだろう。


ふと、助手席に目をやると、小さな包装された箱が無造作に置いてあった。


まさか、まほが?


たかしへ。

と、貼り付いたメモ用紙に書いてある。


包装をあけると手紙と指輪が入っていた。

指輪のケースには堂々と値段の書いたシールが貼ってあった。

えっと、0が何個だろう。


そして手紙の内容は


幸せになろうね。

ずっと一緒にいようね。

まほより。


それだけが書かれていた。

死んだはずのまほは、まだここにいるのかもしれない。

手書きの文字が愛おしくて、口元が少し緩んだ。


カブトムシにデコピンしたらタイムスリップとかしたりしないかな。


慎重に指輪をはめながら考える。


きっと、まほが助けてくれたんだ、俺と男の子を。


あれはやっぱり、まほだったんだ。


そう確信した。


今日はたしか、この辺でもペルセウス座流星群が見えるかもしれないんだったな。


左手に着けた指輪を、右手で弄りながらベランダに出る。


雲の切れ間から、星がちらちらと輝いていた。

そして、その夜空に流れ星があっという間に流れた。


次、流れ星が見えたら、まほにまた逢えるようにお願いしよう。


高校三年、学校祭終わりで時刻は21時をまわっていた。

さびれた田舎の町を二人並んで歩く。


「すっかりおそくなっちゃったねー。」

まほが夜空を見上げて言った。


「そうだな、でも学校祭、ほんと最高だったな!」


「うん、あのお好み焼きがすごくおいしかったよね。」

と、箸で取った熱い食べ物をはふはふするような仕草をするまほにどきっとする。


「また、おまえ食いもんの話ばっかじゃん。」


「だってー。ほんとにおいしかったんだからー。」

まほは照れくさそうに頬を赤らめ笑い、ふと思い出したかのように話し出した。


「そうだ!今日って何の日かわかる?」


「え、学校祭でー、8月15日だから、終戦記念日か!」


まほはかぶりを振る。

「ちがうよー。ウチらが付き合って三ヶ月の記念日だよ!」


「そんな三ヶ月の記念日なんて気にしなくていいじゃーん。」


「だめ、毎日がたかしとの記念日なの!」


「ギョ、ギョギョー。」

とさかな系人気タレントのマネをするも、まほは一瞥もくれず、空を見上げていた。


「あ、流れ星!願い事しなきゃ!一生たかしの隣にいれますように。」

と、まほは独りでに早口で喋る。


「いや、声に出さなくていいから!照れるなあ~。」


「ほら!たかしも早く願い事しときなよ。」


「え?まほがずっと幸せでありますように。」


まほはケタケタと笑う。

「たかしも声に出してんじゃーん!」


「べ、別にいいだろ。」


まほの顔が暗闇のなかでも少し赤くなるのがわかる。

「照れちゃうね。」


俺は、まほの目をしっかりと見つめる。

「おれさ、何があってもまほを助けられるように、

勉強も部活の陸上も、そしてなにもかも必死にやるから、


ずっと、ずっと、そばにいてほしい。


この先大学と就職で離れるかもしれないけど毎日会おう。これから365日全ての日を二人の記念日にしよう。」


「うん。約束しようね。指切りげんまん、嘘ついたら鬼にたべられちゃうずぅぅぅ?!」


「え、なにそれ笑」

二人は顔を近づけ笑い合う。


しばらくの間、五年前の夏の学校祭のことを思い出していた。

カレンダーをみる。

今日は8月14日の月曜日だ。

明日は付き合ってから5年3ヶ月の記念日だったのか。


今習っている勉強のことを考えようと机に向かうも、まほのことが頭から離れない。


五年前、あの日流れ星に誓った言葉を思い出す。


まほがずっと幸せでありますように。


あんな悲劇、俺がもう二度と起こさない。


古本屋で買った、タイムマシーンの作り方、という本を読み始めるが、難しい物理的な文章が理解できず、そのまま眠りについた。


そして8月15日の朝、菓子パンを豆乳で流し込み、大学へと向かった。


今日は1コマ目と3コマ目に講義がある。

この時期は卒論対策の講義が中心だ。

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