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待夢マシン  作者: 太子
1/5

踏切事故


それは、ある夏の日の日曜日。

彼女のまほとドライブに出かけた時のことだった。


「ねえ、たかし、夏休みいっぱい遊べるかな。」

まほは、窓の向こうを見ながら、ふと呟いた。


「だめだめ、俺は就活で忙しいんだよ。」


「えー。あそぼーよー、そーだ、温泉旅行に行きたい!ほら、あそこ、日本三大美人の湯とかいわれてるとこ!」


「じゃあ、そこだけはいこうか!」

少し妥協する。


俺は大学四年、米沢隆よねさわたかし、なかなか就職先が決まらず、焦っている。

彼女の江口真歩えぐちまほとは高校の同級生で付き合って五年以上になる。

すぐ別れそうとか周りには言われていたが、付き合ってから喧嘩もなく、どんどんまほのことが好きになっていた。

まほはスーパーでバイトしていたが、辞めて今は仕事はしてるらしいが、なにをしているのかはわからない。

しかし、俺の彼女にキャバクラで鉢合わせたと大学の友達が言ってて、若干予想はついている。


「ねえ、今日は渡したいものがあるのー。」


カン、カン、カン、カン!


踏切に入るちょうど前に鳴り響く音。遮断機の前で車を止める。


「あっちゃー 。」

まほは、残念そうに言う。


「ついてないね。」


「ん?なんかおじいさん踏切の中でおろおろしてるよ!危なくない!?」

まほがそう言ったときにはもう列車は目前まで迫っていた。


「やべえ、もーそろ列車来る!」


「助けなきゃ!」

真歩がすぐさま外に出る。

俺もすぐに出て、全速力で走る。

特急列車が向かってくる。

真歩は、踏切内に入った。


「おい!危ない!まほ!戻ってこい!」

俺は、必死に叫ぶも足が震えて動かない。


まほが老人のとこにたどり着いた。


その瞬間だった。


「グシャッ!」


耳から全身にその音が響き渡る。


「ま、まほ?!」


列車はしばらくして止まり、車掌さんや、乗務員さんらが慌てて出てくる。


「キャー!!」

乗務員さんの声が響き渡った。


皆がその方向に向かう。


あまりにも残酷で、見るに忍びない、

そんな姿の老人とまほがいた。


俺はその場にひざまずいた。


涙が地面にこぼれ落ちる。


「なにやってんだ俺は!」


行き場のない悲しみと後悔が俺の胸を押さえつける。


次の日の朝、俺は部屋から出られなかった。

企業との面接試験があったが、無断で欠席した。


まほに、もう会えない。


そう思うたびに、泪が溢れた。


俺がもっと早く車を出ていたら。

まほの手を引き止めていたら。


そんな後悔ばかりが怒涛に襲いかかる。


ベッドに突っ伏す。


まほのいない人生なんて、もう生きてけねえよ。


ずるくて、卑怯で、臆病で、

そんな俺だから、

まほのことを守れなかったんだ。


今すぐ死んで、まほのいるとこに行きたかった。


起き上がり、一息つく。


たぶん、天国のまほは、今の俺のこんな姿を望んじゃいないだろう。


頑張ろう。


必ず人を助けられる、強くて優しい人になって、天国でまほに胸を張って逢おう。


立て掛けている、初デートの写真のまほは悲しいくらいに笑顔だった。


着替えて外に出ようとしたとき、固定電話の音が鳴った。


「もしもし、米沢ですけど」


「あ、たかしくん、まほの母さんだけど」


震えた声だった。


「今は辛いだろうけどね、

たかし君のお母さんだって、私だって、そしてたかしくんの友達たちもみんなみんな、

たかしくんのことが必要で、

たかしくんがいなきゃ、生きていけないんだから。」

まほの母親は、泣きながら話しているように感じた。


「あと、あの事故は運転手さんの居眠り運転が原因だったのかも知れないって話なの。

絶対にたかしくんのせいじゃないからね。」


「はい、まほは、俺がどうすれば喜んでくれますかね、正直まほのことしか考えられないです。」


「たかしくんは、精一杯毎日を過ごして!ほら、これから就職するんだからさ!きっと、まほがいつだって見守ってくれているんだから。

それじゃあね。」


「はい、ご心配かけてすみません。ありがとうございました。」


外は、今にも雨が降りだしそうな、暗い曇り空だった。

私有車の黒い軽自動車に乗る。この車を中古車で買ってから三年も経つので大分汚く見える。


まほが好きだったコノヨノハジマリのCDアルバムをかける。


行く先が決まっていない。


俺はこの先どうすれば、


タイムスリップしたい。

神様、時間を巻き戻してください、事故が起きる前に。


何も考えず運転していたら、あの踏切にたどり着いてしまった。


あの悲しい光景が蘇る。

頭を抱える、呼吸が荒くなる、

意識が遠のいた。


目を覚ました時には、日中だったはずが夕方になっていた。相変わらず厚く暗い色をした雲が広がっていた。


カン、カン、カン、カン!


一生忘れることのできない、嫌な響きが盛大に鳴りだした。

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