幕間/Wonder
◆
「――この勝負はあたしの勝ちね」
「……初めから言っているでしょう。勝ったとか負けたとか、これはそういう話ではないと思いますよ」
「そんなこと言ってホントは嬉しいんじゃないの? この結果が」
「冗談を言わないでください。これは純然たる奇跡です。予想なんてできるわけがない」
「でも、言ってたでしょ、あたしは。こうなるって」
「あんなものは予想とは呼べない。ただの願望にすぎない。だからこそ奇跡なんですよ」
「まぁいいわ。奇跡かそうじゃないかなんてどうでもいいの、もう起ってしまったんだもの、これはもう現実よ。
……ねぇ、あたしは今とっても嬉しいの。だから、あたしの、あたしと心乃香の邪魔はしないでね。もし邪魔されたら本気で怒るわ」
「……はい、わかりました。そういう約束でしたから。それは守ります」
「それならいいわ。観察でもなんでも好きにやって。きっと、あなたたちの言う『適性』も高いわよ。だって心乃香だもん」
嵐のようにやってきたお客さんが帰ったのももう何時間も前のこと。
確かに、あの子と私の間では求めるものに重複する部分が多かったのは事実だ。
ただ求めるものは同じでも、目的は180度違う。
そして、それが達成されたのに喜べない自分もいるのだ。
私たちの求めていたものは奇跡だ。それも夢物語や笑い話の類の。
だから、戸惑ってもいるし、正直後悔もしている。
彼女がこれから辛い思いをすることになるのは明白だ。
……しかし、もう、奇跡は起こってしまった。
だから、せめて。
その奇跡が、とても残酷な奇跡があの子を狂わせてしまわないように。そう願わずにはいられない。
やはり、自分は当事者ではない。あくまで傍観者なのだ。
彼女たちのことを思い、時に相談に乗り、来たる決断の時の手助けをする。私が代わりにその選択をすることはできないし、してはいけないのだから。
それが自分にできる精一杯の罪滅ぼしだ。
まとまらない思考の中、そっとカルテを閉じる。
雲もなく、月の輪郭をはっきりと確認できる夜。
……今、自分が迷っているわけにはいかないのに。
胸の中で生まれた呟きは、音もなく自分の中へ還っていった。
◆