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Double/Dream-ダブドリ  作者: あおいしろくま
第一章/Pre-sleep time
7/21

第四夜/雄弁な瞳


「……えー、ですからこのように他人や自分のいいところを見つけることで、自分をもう一度見つめ直すことが――」


 目の前に広がる憂鬱な晴天。

 心乃香は頬杖をついて窓の外をあてどなく眺めていた。

 いつもは自然と耳に入ってくる担任教師の授業も今日ばかりはどこか遠い世界の出来事のように聞こえ、心乃香の意識を素通りしていく。


 さくらは心乃香がゲームに登録した名前を知っていた。

 

『登録した名前……? 「コノ」でしょ? クラスは「モンク」。もちろん直接会って聞いたよ』


 もちろん名前は昨日登録したばかりで、まだ誰にも伝えていなかった。

 知っているはずがないのだ。

 誰かに伝えたことを、心乃香自身が忘れていない限り。

 そして『直接会って聞いた』ということは、昨晩心乃香はVDの世界へと行っていたということ。

 そして、今、彼女はそのことを覚えていない。

 

 ――装置の故障でVD機自体がそもそも作動していなかった、とかそういうパターンをひそかに期待していたんだけど。


 心乃香は自嘲的に笑う。

 

 ――そんな気がしてはいた。

 これは機械のせいなんかじゃないって。私側の問題だって。私の――記憶障害のせいだって。


 ……もう、治ったって、思ってたのになぁ。

 

 心乃香の声にならない呟きは、透明な窓に阻まれて遠い青空に届くこともなく虚空へと消えていく。

 

 朝から気付けばずっと同じことを考えていた。出る結論も毎回変わらない、思考の堂々巡り。

 心乃香がもう過去の傷跡だと思っていたものも、カサブタで蓋をして目を逸らしていただけで、一枚皮をめくればすぐに醜い傷口が姿を現す。

 気が付いた時には自分が覚えているのと違う場所にいて、その間自分がしたことの全てを忘れている。

 まるで自分が一人ぼっちで取り残されてしまったみたいな、寂寥。

 あの頃感じていた恐れと寒さは今も彼女の隣にあった。

 たとえその記憶を忘れたと思っていても、簡単にまた目の前に現れてくる。


 ――どうせなら、この痛みの記憶みたいに、欠落した記憶も簡単に思い出せたらいいのに。

 

 また心乃香が思考の泥沼にはまりかけていた時、にわかに教室が騒がしくなる。

 心乃香は途端に現実に引き戻された。

 気が付けば、さっきまでおとなしく席についていたはずのクラスメイトたちは騒ぐだけでなく、椅子から立って移動し始めていた。

 焦る心乃香は急いで教卓の方へと視線を向ける。

 そこには椅子に座って教室を見渡す担任の先生と、その背後の黒板の「グループディスカッション:他人の良いところ」と書かれた白い文字が見えた。

 どうやら、いつの間にか「◯人一組になって話し合ってください」系のディスカッションが始まってしまったらしい。


 心乃香は元々この類の授業は得意ではない。

 周りを見渡せば、もう何人かで固まって座っている人も多く、ほとんどグループが出来上がりつつある様子。中には心乃香の隣席の男子のように未だに眠りこけている人もいるらしいがそれも極少数だ。

 困ったことに、担任の話が頭に残っていないので、何人でグループを作れば良いのかもわからない。


 こうなれば、明らかにやる気の無さそうな隣席の男子に協力を仰ぐ他に手は無さそうだ。

 とはいえ、それだけで問題は解決するわけではない。

 絶賛爆睡中の彼に「何人でグループを作ればいいんですか?」など聞いても無駄骨であることは明らかだ。

 

 心乃香の肌に触れる空気が乾いたものへと変わろうとしていた頃、思いがけない場所から声が聞こえてきた。 

「……あの。」

 その声が聞こえたのは彼女の前方一つ前の席から。

 さえずるような小さく薄い声。声から一番近くに居る心乃香でなければ聞こえないほどの声。それが心乃香に向けたものであるのは火を見るよりも明らかだった。

「へ?」

 反射的に気の抜けるような情けない声を出してしまう。

「……四人、だから。」

 そう言って、声の主であった女子は順番に自分、彼女の後ろの女子、起きる気配のない隣人、そして最後に心乃香を指差した。

 そのまま、自分の言いたいことは言い切ったとばかりにこちらを見つめる、前髪が少し長めのショートヘアをした心乃香のクラスメイト。

 そして、それを少し離れた距離からなぜか微笑ましそうに見ている、肩にかかるくらいのロングヘアーをした同じくクラスメートの女子。


 ――確か、弥生 燐さんと日那 美咲さんでよかったよね。

 というか、日那さんの方はできれば見ているだけじゃなく、説明をしてもらいたいんだけど……。


 心乃香の頭は疑問符でいっぱいだった。

 どうも弥生さんはどこか言葉足らずな傾向があるようだ。以前からこの二人が行動を共にしているところはよく見かけている、おそらくは友人なのだろう。 

 心乃香は通じないだろうなと半分諦めながらも、一縷の望みをかけて視線で日那さんに助けを求める。

 すると、奇跡的に願いが通じたのか、一つ肩を竦めてから、そして微妙ににやけながら日那さんが近づいてきた。

 その間も弥生さんは心乃香の顔を見つめ続けている。


 私の記憶が正しければ、弥生さんとも日那さんともこれまで目立った接点はなかったと思う。

 

「……――やってる人に、悪い人、いないから。」


 今度は心乃香にも聞き取れないほどに小さな声で、弥生さんが何かを呟いた。

「今、なんて――」

「今は四人でグループを作って、黒板に書かれてる通りのテーマで話し合い。で、今私と燐は二人だけ。グループを作るにはもう二人ほど足りないのよね。だからこうして残りの二人を見繕いに来たってわけ。どうも二人ともあぶれてるみたいに見えたしね。……そもそもそっちの男子くんは参加する気があるのか怪しいみたいだけど」

 弥生さんへの問いかけを遮るようなタイミングで、近づいてきていた日那さんが補足を入れる。

「……美咲、口が悪い。」

「いやいやいやいや、いつもの燐の方がひどいよ!?」

「……それは美咲にだけ。」

「それなら……って納得できないよ! どういうこと!? 嫌われてる!?私、実は嫌われてるの!?」


 どうやら何か他意があるというわけではないらしい。

 心乃香は心の中で息をついた。

 どうしても、まず警戒から入ってしまう。たとえそれがクラスメートであっても。心乃香の悪い癖だった。

 つまるところ、彼女は他人よりも少し臆病だったのだ。

 そして、彼女はそんな自分が嫌いで、しかし同時に諦めも抱いていた。


「で、どうでしょう?一緒にやりませんか?」

「……。」

 念押しするように確認を取る日那さんと、やはり心乃香をまっすぐに見つめる弥生さん。

 澄んだ瞳が心乃香の心をとらえた。

 心乃香の脳裏を、朝、鏡に映った自分の曇った瞳がよぎる。


 心臓を締め付ける枷が軋むような、小さな疼き。

 

 ……私もあんな目を、していたんだろうか。

 …………私も昔はあんな風に、全てをまっすぐに見つめられていたんだろうか。もう、何もかもが忘却の彼方へと去ってしまったけれど。


 私は………………憧れてもいいのかな。


「……いいよ。」


「っ!!」


 心臓が跳ねた。


 まるで心を読まれたような絶妙なタイミング。

 その言葉は、速く脈打つ心乃香の胸の真ん中にまっすぐ飛び込んできた。


 暗転していた視界に色が戻ってくる。

 そこには、一瞬前の心乃香が焦がれた瞳が、変わらずにのぞきこんでいた。


『……いいよ。』


 弥生さんがその言葉をどういう意図で言ったのか。

 それを本当の意味で心乃香が知るすべはない。

 心乃香は彼女ではなく、あくまでただの他人。別の人間に過ぎないのだ。


 ――ただ、何を伝えたかったのかは……。いえ、これも違う。ただ私がそう受け取っただけのこと。


 彼女の短い言葉を。その響きを。そして真っ直ぐな目を何度も咀嚼し反芻する。

 次第に激しく鳴っていた鼓動の音が収束していき、やがて温かなものが胸の中に残った。

 はめられた枷と共に錆び付いた心乃香には、ただまっすぐ前を見つめることでさえもとても難しいことのように思えて。


 ――でも……もういいんだよね。


 心乃香は二人に答えを返した。


「……お願いします」


 そう言って前を向いた彼女がどんな顔をしていたのか。それは向かい合う澄んだ瞳が知っていた。


 

 時間は過ぎ、今の時刻は夕焼け前。

 西に傾いた陽から優しい光が降り注ぐわずかな時間。

 蜂蜜を溶かしたような金色が辺りに満ちる中、心乃香とその親友は帰り道を二人で歩いていた。


『……』


 二人の間に言葉はない。

 無言で歩き続けて十数分。いつの間にか、今朝二人が遭遇した三叉路の前までたどり着いていた。

 さくらと帰り道が一緒なのもここまで。

 今の心乃香には言わなければいけないことがあった。言おうと決めたことがあった。

 最後のチャンスに心乃香は足を止める。

 それに気づいたさくらも立ち止まって後ろを振り向き、そのまま何も言わずに心乃香を見つめている。

 

 その時、不意に心乃香の脳裏を既視感がかすめ、瞠目する。

 かすかに残る記憶の残滓の先で、心乃香を見つめるさくらの目と、さっきの彼女の目がダブって映った。


「どうしたの?」

「……いや、案外近くにいると見えないものもあるんだなって」

「うん?」

「ううん。なんでもない」


 ――私が気付かなかっただけで、ずっとさくらはこんな目で私を見ていたんだ。


 心の中で親友に感謝しながら、今の心乃香にできる精一杯まっすぐに澄んだ瞳を見つめ返す。

 

 緊張でまた速くなる鼓動。

 今日はよく心臓が跳ねる日だ。不整脈で寿命が1年くらい縮んでしまったかも。

 でも、これで良かったのかもしれません。だってこの拍動の高まりがなかったら、きっと、言うべきことも言えなかった。

 金色に輝く大気を大きく吸って、吐き出します。


「さくら」

「何? 心乃香」


「……私ね、昨日の記憶が無いの」


「……うん」

 心乃香の告白に、ゆっくりとうなずくさくら。

「……気付いてた?」

「……うん。もしかしたらとは思ってた。朝も様子がおかしかったし」

「そう、なんだ」


 ――気付かれ……ちゃうよね、そりゃ。この発作のことも全部知ってるもんね。

 

「でもっ! あたしは心乃香から話してくれて嬉しかった! だから、だから――」


 言葉の途中で、何かをこらえるように、くしゃっとさくらの顔が歪みました。


「そんな顔をしないで。……私、先生に相談しようと思うんです。昨日のこと」

「……えっ?」

「大切な親友にこんな顔をさせるために、私はあの箱を受け取ったわけじゃありませんから」

「じゃあ……」

 今度も、さくらの言葉は途中で消えて、言葉にならない音の波がかすかに空気を揺らすだけに終わる。


 ――多分、それはさくらの中の何かがその言葉を発することを拒んでいるから。私を……思いやってくれているから。

 私に都合のいい解釈。でも、今はそれが本当だって思えて。

 

 だから、私が言います。

 

「VD、続けますよ。続けたいと思ってます」


 心乃香の目の前で、深い色をたたえた優しい瞳が大きく見開かれる。

「さすがに今日はちょっと……厳しいですけどね」

「このかっ!!」


 心乃香が一言付け加えたのと、さくらが胸に飛び込んできたのは全く同時だった。

 その体を逃げずに受け止めて、金色に染まった空を見上げる。

 朝見た時と同じ雲一つない空。でも、今の心乃香の目に映る空は泣いてしまいそうなほどの優しさで満ちているように感じられた。


 確かに消えてしまうものもあるけれど、それでも残るものはあって。

 今はただ、この、私よりも小さい親友の背中を抱き続けていたい、そんな気分だった。



「ただいまー」


 わずかな金色の時も終わり赤い夕焼けが空を染める頃、さくらから別れた心乃香はどこか吹っ切れた心持ちで家のドアをあけた。

 板張りの玄関。照明の光を反射する焦茶色の床が家に帰ってきたことを実感させてくれる。


「お・か・え・り」


 玄関から続く廊下には、声に凄みを含ませた母が待っていた。

 

「え゛」

「何が『え゛』なのかなぁ?」


 しまった、完全に油断していた。


「いや、あの、その、なんというか……」


 心乃香は混乱したままあわてた様子で弁解を試みる。

 でも、その混乱の成分も、不意を突かれた驚きからであったり、自分をうまく伝えられないことへのもどかしさであったりと、朝に家を逃げるように飛び出した時とは違っていた。

 それに気付いてくれたのだろう。心乃香の混乱を解いたのもまた母親だった。


「……すごく、心配したのよ」

「……うん」

「……本当に、大丈夫なのね?」

「うん。私は大丈夫だよ。お母さん」


 心乃香の目はまっすぐ母の目をとらえていた。

 まだ、廊下のLEDライトが点くには少し早い時間。外から入り込んだほのかに赤みを帯びた光だけが心乃香の背中を照らす。

 母も心乃香の目を見つめていた。

 言葉よりも、目が雄弁に物を語るときもあるのだ。

 空っぽの言葉に中身を詰めるように、心乃香はただ前だけを見つめていた。

 

「……わかったわ。もう何も聞かない。……でも、本当に、本っ当に、抱えきれなくなったら誰かに言うのよ。約束して、心乃香」

「……うん、約束する」

 本当は母にも言うべきであったのかもしれない。それは心乃香自身にもわかっていた。

 でも、やっぱり少し言いづらくて。チクリと罪悪感が心乃香の胸を刺した。

 母は心乃香に背中を向け、台所へと戻っていく。

 

 ――いつか必ず、全部話すから。


 心乃香はそう胸の痛みに誓う。

 玄関のすりガラスから漏れ出した夕陽は温かく寂しく燃えていた。


 自室の扉、ちょうど目線の高さに木製のネームプレートが掛かっている。

 ドアノブを回す前に、心乃香は半ば無意識にそれを手に取った。

 心乃香には幼い頃の記憶はほとんどない。けれど心乃香にもこのプレートを見上げるように眺めていた時代があったはずなのだ。

 プレートを弄んでいた手を止め、部屋の中へ入る。


 朝、逃げるように出発したときとほとんど変わらない部屋。

 しかし、一つだけ記憶と違っている部分があった。

 机の上の茶色い箱。朝は確かに机の端の方に置いたはずの夢の箱は、いつの間にか机の中央に移動していたのだ。 

 赤い夕陽に照らされてくっきりと浮かび上がるシルエット。

そこからは、今朝のような暗い気持ちは感じない。

 

 ――多分、朝の私は「裏切られた」と感じていたんだ。あれは私の『夢』で、さくらからの大切な贈り物だったから。


 今はもう消えてしまった夢の中の私を夢想する。

 明日、さくらに夢の中の私はどうだったか聞いてみよう。そんなことを思いたった。

 ……その時の私はきっと精一杯夢の世界を楽しんでいただろうから。

 

 

 電話が鳴っている。

 今時珍しくなった固定電話を、きっちり三コール目で白衣の女性が取った。


「お電話いただきありがとうございます。鷲尾医院です」

『どうもお世話になっています、双葉です。……突然で申し訳ありませんが、明日、先生の予定は空いておりますでしょうか?』

 双葉というと、数年来かかりつけで通院を続けているあの子で間違いないだろう。どうやらそれも親御さんではなく本人からの電話。中々珍しい事態だ。


 ――それにしてもなかなか奇遇ね・・・。何かあったのかしら?


「えっと……」

 受付の看護師は素早く予定表へと目をやった。

「それなら、四時三十分でどう?」

『ええ、大丈夫です、診察をお願いしたいんです』

「はい、分かりました。四時三十分ね。……何かあったの、心乃香ちゃん?」

『それは……先生になら……』

「ごめんね、今先生は……ちょっとお客さんが来てて出られないの。何か言伝があったら伝えておくわよ」

『……わかりました、昨日の件で相談したいことがあると伝えておいてもらえませんか』

「『昨日の件』ね。わかった。お客さんが帰ったら伝えておくわ」

『お願いします』

「はーい」

 

 心乃香ちゃんは月に一回のペースで通っている。ただ、ここに来る人の中では、日常生活への支障がほとんど無くなっている、見方によっては”症状の軽い人”に含まれる。

 いきなり予約を入れてきたこと、そして、今来ている”お客さん”のことも踏まえると、間違いなく何かあったとみるのが正しいだろう。


 ただ……。

 そもそも、ここに来るのは「何かあった」人だけ。

 職業柄あまり下世話な勘繰りをするのも良いとはいえない。なんたって本職の先生がいるのだから。

「なんにせよ、もう患者さん・・・・はみんな帰っちゃったし、今日の受付は終了ね」

 看護師は表に出て、受付終了の札を入り口の扉に掲げた。

 凝り固まった肩をほぐすように大きく伸びをする。

 空は赤と深い藍色の二つに塗り分けられている。その境界は遥か遠くに霞んでいて見ることはできなかった。

「寒っ」

 そのとき、一つ辺りの木立を揺らす北風が吹いて、看護師は逃げるように建物の中に戻っていった。



 心乃香は何の気なしに机から顔を上げて、この部屋唯一の窓から外に目を向けた。

 窓越しに街灯で照らされた夜道が目に入る。

 心乃香はわけもなく背中が冷えたように感じて、意識を手元に戻した。


 卓上ライトの光の下。シャーペンを走らせる小気味好い音がかすかに鼓膜を揺らす。


 心乃香の目の前にあるのは一冊の日記帳。

 今日、心乃香が感じた衝撃、悲観、ためらい、そして決意。全てをノートの1ページに記録する。

 今日の分のページを六分の五ほどまで埋めて、心乃香はペンを置いた。

 日記は心乃香の日課だった。といっても自主的につけ始めたわけではない。先生から治療の一環として提案されたもので、わざわざ電子媒体ではなく紙に記入しているのも、その方が記憶に残りやすいかららしい。

 首を回して背後の壁に掛けてある時計を確認すると、現在時刻は午後九時五十三分だった。


「んーーっ」

 椅子から降りて伸びをした後、視界の端に件の茶色い箱が映る。夢を抱いて、裏切られて、やっと直視できるようになった小さな箱。

 もう一度そちらを横目で見ると、心乃香は再び日記帳を開くとペンを手に取り最後の一文を書き足した。


 ――明日はいい夢が見れますように。


 その一文を書き終わると、心乃香は今度こそ本当に日記帳を閉じた。ノートと机が平行になるようにちょいっと端を整え、そのまま机上ライトの明かりを消して椅子から立ち上がる。


 就寝前にするべきことを全て終え、あとはもうベットに入って眠るだけ。


 …………。


 そこで心乃香は一度、くるりと部屋の真ん中で一回転、部屋中を見渡した。

 そして、すたすたと机の方まで戻ってピンクのシロクマのぬいぐるみを手に取り、そのままベットに横たわった。


 ――それじゃ、おやすみなさい。


 瞳を閉じた心乃香の脳裏には、日記に付け足した最後の一文が焼きついていた。



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