第八話 エピデミック・ドライブ
三上はアクセルを踏み込み続ける。
高速道路には乗り捨てられた車が所々に放置されていた。
「三上さん、こんな道の中でそんなに飛ばしちゃ危ないです」
「ダメだって結花ちゃん! 絶対追ってきてる!! 逃げなきゃ、もっと遠くへ!」
三上は興奮気味に助手席に座る大町に言葉を返す。
大町は防護服に防護マスクを装着していた。少し窮屈そうだ。
「どこに向かうんですか?」
「空港、それしかない!」
「飛行機たぶん飛んでないと思いますけど……」
三上はそれ以上は答えず、運転に集中する。
道路上を走るものは、三上達の乗る車以外には無かった。
時刻は間もなく正午を回ろうとしてた。
「……ねぇ三上さん、お腹空いたし少し休憩したいです。防護服着てると身体が凝っちゃって」
「わかったよ、仕方ないから一旦下道に降りる。食料手に入れられそうな施設を探そう」
三上達を載せた車がインターチェンジを下っていく。
一般道も彼らの車以外に動くものは無かった。
三上は唇を強く噛み締める。
「三上さんがいくら責任を感じても、もう仕方ないですよ。起きちゃったものはどうしようもないんですから」
「そうは言っても、いざ自分で現状を視ちまうと……」
「私達ですら予測できなかったんです。こんなの止められるはずが無かったんですよ。むしろ、私の方が責任を感じてます。こんな事になるリスクを知っていながら、それでも研究を辞めなかったんですから。気に病むことはありませんよ」
最初の事件が起きてから一か月が経った。
外気は日に日に暖かさを増し、にわかに春の訪れを知らせていた。
車は静かな街中を淡々と進む。
すると近くにコンビニが見えてきた。
「結花ちゃん、あそこで何か無いか探してみるよ」
「……いや、大丈夫です。見て下さい、窓が全部割られてます。多分もう中には何も無いと思います」
コンビニだけでは無かった。
道路沿いにある建物の多くが荒れ果てていた。
「……こんな事になっても道路は走れるようになってるのを見ると、日本人は思いやりの民族だなって改めて思えますよ」
大町が呟くようにそう言った。
「きっと自衛隊が整備してたんだろ。色々大変だったろうに」
「でも、なんかミスマッチですね。折角だし私達でハチャメチャに道路荒らしちゃいましょ。バーって」
「何言ってんだよ絶対ダメだよ。まだ生き残ってる人たちがいたら、その人たちにとってハチャメチャに迷惑でしかないぞ」
「すみませんつい悪戯心で」
三上は運転しながら、これまでの事を思い出していた。
あの始まりの日の出来事や、運び込まれた施設での日々。
「一体どうしてこんな事に……」
三上達を乗せた車は食料を探して街中を走り続けていた。
※2017/01/14
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
一部加筆しました。