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パンデミック・マン  作者: ですの
パンデミック編
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第五十八話 パンデミック・ドープ

「し、清水が……。清水が俺にウィルスを感染させた……?」


「どうしてお前を選んだんだろうな。通訳者なら世界中の色んな人と関わる機会があるはずなのに、日本人で平凡な男だったに違いないはずのお前をあの人が選んだ理由は分からない。けど、それが全ての始まりだ」


サーシャの口調はどこか寂しそうだった。

清水の事を話している時のサーシャは笑顔を見せず、目線はどこか遠くを見ていた。


「三上、お前はWHOの狙いを見事に、完璧に達成してくれた。瞬く間にウィルスは日本を包み込んで行ったからな。さて問題はそれが国外にどう飛び火するかだった。遅かれ早かれウィルスは拡散しただろうがな。この点は後にベイズアザディに私が合流して、どうウィルスが世界に拡散していったか知ることが出来たよ」


三上は何も言葉を発さなかった。

清水が関わっていた事を知って相当なショックを受けていた。


サーシャは淡々と続ける。


「WHOの想定ではね、世界人口のおおよそ40パーセント程がウィルスに感染して死亡するくらいのタイミングでワクチンを世界にばら撒いて人口削減は完了のはずだった。それは見事に失敗に終わったけどね。結果世界は終焉を迎えたけど、あの人の描いてた理想的な世界、人類が大幅に減った世界になった。私はこれでいいって思ってる」


三上はサーシャのその口調に少し引っかかっていた。

清水の事を話すときのサーシャの口ぶりは何とも言えない儚さを纏うのだ。


「……サーシャさんって清水の恋人だったんですか?」


「……そんなところかな。最初は危ない仕事をさせるための下請け程度にしか考えて無かったけどね。恋人、か。そうだったかもしんないけど、もうそれもどうでもいい。結局あの人は今生きてるのか死んだのかも分からないし。この事を知っている人間はもう私と私のWHO時代からのボスの二人だけだ。私たち二人はベイズアザディに合流してからもひっそりと人口削減の経過を観察し続けてる。今もね」


二人とも口を開かない。

お互いに気持ちの整理に時間を費やしていた。


暫しの沈黙の後、先に口を開いたのはサーシャだった。


「……さて、三上。そろそろ無駄話はお終いにしよう。全てにケリをつける時が来た。私は今からここに投げ捨てた銃を拾う。そして銃口をお前に向ける。お前もそうすると良いよ。この距離じゃ得意のマスク外しも出来ないだろうしね」


そう言うとサーシャは素早く銃を拾い上げ三上に向けて構えた。

ほぼ同時に三上も銃を拾い、サーシャに銃口を向けていた。


「それでいいぞ三上、それでいい。お前の選択肢は二つ。私に殺されるか、私を殺すかだ」


「……二人とも生きて別々の道を行く、なんていうルートは無いんですね」


「無いよ。どっちかはここで死ぬんだ。よく考えろよ三上。お前は既に負けてんだ。勝負に負けてる。だから後はどうケリを付けるかだけなんだ」


「どういう意味ですか……? 負けって、マンハッタンは防衛しきったし、何が……」



サーシャは笑った。

それは何かを悟ったかのような、不思議な笑い声だった。


「ベイズアザディの目的は人類の救済。お前を殺して私が生き残ればそれは達成される。単純な話だろ。原株のキャリアーを始末すれば今後はもうウィルスに対して恐れる事は本当になくなるんだから。後はベイズアザディが世界の覇権を握って文明の再建をするだけだ」


三上が言葉を発する隙を与えず、サーシャは直ぐに言葉を続けた。


「私達WHOの、いや、私とあの人の目的は人口削減。私を殺してお前が生き残ればその為の状況がもたらされ続ける。マンハッタンの西側、ここは捨てたんだろ? 何故ならウィルス殺しすらお前の中のニューオーダーウィルスには効かないからだ。お前が生きた場所は全て死へと繋がる道なんだ。お前が生き続ける限りウィルスによる人類の削減は続く」


ここまで話すとサーシャはようやく口を閉じた。


「……なるほど。どちらにせよ、結局あなたは得をするってことですか」


「お前が選ぶんだよ三上。どうする? お前にとってはもっと簡単な問題だろ。今まで通り生き続けて、ウィルス殺しのばら撒きなんて方法で自分を誤魔化して償いを続けるのか。それとも本当はもっと早くやるべきだった、死をもってして人類に償うのかって話だ。散々この事から逃げてきたんだろ? 私にはわかる。さあ、どうするんだ? お前が決めないなら私がお前を殺して終わりにしてやる」


「……昔、サーシャさんとは理由は違うけど、そうやって人類の居なくなった世界を羨望していた奴が居たんです。そいつを俺がこの手で殺した時に決めたんだ、俺は生きて、生きるんだ……、何としてでも。だから、だからサーシャさん、俺は……」


「そうか。決まりだな」


サーシャはそれだけ言うと銃口を自らの側頭部に向け構えた。


「サーシャさん、でも、待ってください!! それであなたが死ぬ必要は……、他に選択肢はあるはずじゃ」


「私は、いや、これでいいんだよ。あなたの夢はもう十分見届けたから」


乾いた銃声が静かな市街に響き渡った。

そしてサーシャの身体が崩れ落ちる。


「……なんで、なんでそんな風に死んじゃうんですか。なんで、俺……、俺はなんで生きてるんだ。また俺は逃げたのか……。どうして……」


三上はサーシャの亡骸を茫然と見つめながら、誰に掛けるでも無い言葉を呟き続けていた。

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