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パンデミック・マン  作者: ですの
パンデミック編
49/65

第四十九話 パンデミック・ウォー

朽ちていった街の一角から激しく鐘を叩く音が鳴り響いた。

手製の武器を持った男達が、忙しなく迎撃の為の準備を進めていた。


「野盗が来たんだ、ついに来た! やっぱり今までよりも遥かに数が多いぞ!」


ビルの屋上から街の外を観測していた青年が、とても焦った様子で無線の連絡を入れた。


マンハッタンの街へと繋がる巨大な幹線道路。

そこを数百人もの武装した人々が列をなして街へ向かっていた。


「昼間にあんな数で堂々と……。だが、こっちには人質が居るんだ。それに、この街は篭城戦にめっぽう強い。今までだって撃退できてたんだ。臆する必要は無いだろうよ」


マンハッタンのコミューンのリーダーの一人、ジェシーはそう言うと自らも武器を手に取った。


三上が屋上の青年に連絡を取る。


「装備を確認できないか? 詳しく無くていい、どんなものを用いているのかだけ教えてくれ」


少し震えた青年の声が無線から聞こえてきた。


「銃、銃を持ってる……。こっちに来る奴ら全員がライフルを持ってる! それに、それにおかしい。あいつらマスクを付けてない……」


「マスクを……? まさか、俺は野盗にウィルス殺しを与えたことなんて一度も……」


間もなくハドソン川の対岸に先頭集団が辿り着いた。

彼らはそこで立ち止まる。

すると奥から一人の女が前に歩み出てきた。


拡声機のスイッチを入れて、マンハッタンの街へ向けて声を張り上げた。


「私達は交渉をしに来た。そちらのコミューンがもし一枚岩なら代表者と話したい。複数のリーダーがいるのならその全てのリーダーと話をしたい。私達が何者かわかるか?」


三上は屋上へ向かい、双眼鏡でその女の顔を確かめる。


記憶の奥底に埋まりかけていたが、その女の姿には確かに見覚えがあった。


「あれは、サーシャさんか……? なんでこんなところに、野盗なんて連れて来てるんだ?」


三上がかつてLAに訪れた時、コミューンでサーシャに会った時の記憶が蘇ってきた。

三上はLAに一ヶ月ほど滞在し、彼女にはとても世話になっていた。


サーシャ達から三上は執拗に仲間になれと誘われていた。

しかし三上はそれを最後まで拒否してLAを去った。


サーシャは拡声機で尚も街の人々へ呼びかけを続けている。三上は急いでジェシーの元へと向かった。


ジェシーと武装したコミューンの人々はヤン達三人を連れて岸まで来ていた。

サーシャ達のちょうど対面、中心を通る橋の上の幹線道路を挟み、両者は睨み合う形になった。


三上がそこへたどり着く。


「いいな? この前言った通り、ここから先は絶対マスクを外すなよ?」


「わかってるよ。でもツグモリ、あいつら道路を渡ってこようとしないぞ」


「交渉する姿勢がある、とアピールしてるんだろう。ひとまずその好意に乗ってやれ」


ジェシーが拡声機を取り出し、かなり高圧的に話し始めた。


「おいお前ら! 武器を捨てやがれ! いいのかぁこっちには人質がいるんだよぉ! そんな態度でいいのかぁ?」


(人質……? 配下のコミューンの人間が拘束されたなんて話は聞いてないが……)


サーシャが言葉を返す前に、ジェシーは畳み掛けるように拡声機越しに言葉を投げつけた。


「いいのかぁ!? どうせ無理やり物資を奪い取る為に来たんだろぉ? マンハッタンの守りの硬さは十分その身に沁みてると思ったんだがなぁ!」


「……その人質とやらを、確認させてほしい」


サーシャがそう言ったのを確認するとジェシーは意気揚々と縛り付けた三人を道路まで連れてきた。


「……誰だ!」


サーシャの声が空を切って響いた。


「えっ誰って、お前らの送り込んだ偵察……、えっ」


ヤンが疲れ切った様子で独り言のように呟いた。


「お前ら、人違い、野盗違いだな。あの対岸にいる奴らは俺達とは関係ねえよ……」


ゼンダーが対岸にいる武装集団の姿を見て怯え始めた。


「ほ、ほどいてくれ! この縄をほどいてくれ! 逃げなきゃ、逃げなきゃまずい!! あいつら、あいつらはベイズアザディだ!! ここのコミューンはヤバイやつに目をつけられたんだ!!」


三上は耳を疑った。

ベイズアザディ。その名前は忘れるはずが無い。


高見博士の計画に利用されていたテロリスト達、三上はそう認識していた。


(なんでそんなやつらが……。いや、サーシャさん達がベイズアザディだなんて)


三上はジェシーから拡声機を奪い取る。


「……サーシャさん! 聞こえていますか!? 俺を覚えていますか!? 三上です。ウィルス殺しをあなた方にお渡しした者です」


その言葉を聞いてマンハッタンのコミューンの人々はざわついた。

そして、ベイズアザディの面々にも驚きの色を示すものが多数いた。


武装集団に加わっていたマホーンと山田もその言葉をはっきりと聞き取っていた。


「……聞いたか山田、今はっきりと言ったぞ。三上と、ウィルス殺しを渡したと」


「あぁ、なんだあいつやっぱり生きてたんだ……。どうするんだよマホーン、サーシャは間違いなくマンハッタンに攻撃を仕掛けるぞ。三上君が無事でいられるかどうか」


「交渉しよう、さぁ早くくるんだ山田、サーシャは気が短いぞ!」


山田とマホーンは急いでサーシャの元へと向かった。


サーシャは言葉を失っていた。

三上はベイズアザディにとって救世主のような存在だった。


ウィルス殺しを手に入れたお陰で、ベイズアザディは活動範囲を大きく広げる事が出来ていたのだ。


拡声機から三上の声が響く。


「サーシャさん、ベイズアザディを名乗ってるって、どういう事ですか。俺がLAに訪れた時からずっとそうだったんですか?」


サーシャは意を決したような目つきで、三上の問いかけに答えた。


「久しぶりだね三上。お前はベイズアザディを知っているのか? ベイズアザディの何を? 私達はこの大陸に秩序をもたらす為に協力しあってるんだよ。平和の為にね」


「俺の知っているベイズアザディは、この世界をこんな風にしてしまったその原因の一つだ」


「……なるほど。事情は分からないけど、お前は昔のベイズアザディの事を知っているわけだ。だがそれがどうしたの。今はもう別の存在よ」


三上はLAを去る時にサーシャ達から言われた言葉を思い出していた。


「平和の為ね。『仲間にならなかったら次に会うときは命は保証しない』って、昔確かそう言ってましたね。その発言が全てを意味してるでしょ。このマンハッタンも、力ずくで支配下に置こうとしてるんでしょう?」


三上は、ベイズアザディのやり方を見抜いていた。

通常、ベイズアザディは野盗からコミューンを守る代わりに物資を提供させるという方式でコミューンを配下に付ける。


そしてその提案を蹴ったコミューンは容赦なく武力で叩き潰していた。


マンハッタンは世界が崩壊してから直ぐに要塞化され、近づく者たちには容赦しなかった。

非常に閉鎖的なコミューンだったのだ。


その為、かつてベイズアザディの特使がマンハッタンを訪れた際にも、その特使を追い返してしまっていた。


これに起因し今回の件に繋がっているのだが、既にその時のコミューンのリーダー達は街を去っていた。

その為、ジェシーは彼らがここへ攻撃に来ることは予想できなかったのだ。


ジェシーは先程までとは打って変わって、かなり落ち着いたような声で話し始めた。


「ベイズアザディが一体何なのか知らないが、とにかくこの街には近づけさせないぞ」


「それは困るんだよ。マンハッタンは閉鎖的すぎる。近づく者を全て野盗扱いして攻撃する。その姿勢は無秩序だ。この世界の為にそれを修正しないといけないんだよ」


ジェシーはどう言葉を返すべきか考えていた。

そもそも、あの捕らえた三人が全く無関係の野盗だった時点で練った策は通用しなくなってしまった。


すると、三上が口を開いた。


「……向こうは銃を持ってる。数も多い。しかも、戦い慣れしてそうだ。戦闘になったら俺達は負ける。普通に戦闘になった場合だけどな」


「普通にって、どういう事だよツグモリ」


「あいつらはウィルス殺しを投与してるから防護マスクを付けていない。そこが穴なんだよ。この方法は正直やりたくないんだが」


どういう事だ、と繰り返すジェシーに三上はそれ以上は答えなかった。


※2017/01/15

表現の一部と誤字脱字の修正をしました。

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