第四十七話 パンデミック・グループ
LAの都市部にそびえ立つビルの一室。
サーシャの言葉にマホーンは愕然としていた。
長い旅を経て辿り着いた故郷のLAだった。しかしそこにあるコミューンには自分を知る者も知っている人間も一人としていなかった。
LAに居ると思われていたセドの母親もまた、ここには居ないようだった。
「つまり、あなた方がここへ辿り着いた時にはもう、元々ここにいた人々は……」
「そういう事。残念だけど、今のLAのおそらく全てのコミューンにはもう地元の人間なんていない」
マホーン達三人の辿り着いたコミューン。
このコミューンは現存する中で最大規模のコミューンであるとサーシャは言っていた。
今や合衆国全土に渡ってその勢力を広げ、多くのコミューンを従えているらしい。
「私達は基本的には平和主義だ。来る者は拒まないし手厚く迎え入れる。だが、対立を示した者には容赦をしない」
山田がどこか不機嫌そうに言葉を吐きかけた。
「だから他のコミューンを襲うのか」
「正当防衛さ。攻撃は最大の防御だ」
「どうだか。物資目当てに襲う理由をでっち上げてるんじゃないのか」
そう言うと山田は部屋から出ていった。
マホーンはサーシャに問いかける。
「このウィルス殺しの量を見るに、もしや他のコミューンからもウィルス殺しを奪い取っていたのか」
「敵意を示した者たちからだ。言っているだろう、正当防衛さ。私達のコミューンに来た以上、あなた達にもいずれ戦って貰うことになる。私達の部隊に来い」
「どういう事だ。いや、なんの話だ」
サーシャは立ち上がり、部屋を歩き回りながら話し始めた。
「長距離遠征をする事になった。ニューヨークだ。そこにあるコミューンが中々言う事を聞いてくれなくてね。最高の戦力を持って奴等を説き伏せに行くことになった。軍の関係者が居るのなら心強いんだ」
マホーンはただ黙っていた。
何も答えず歩き回るサーシャを見ていた。
しばらくしてマホーンはそれに答えた。
「私達三人は近いうちにここを出る。このコミューンには感謝しているが、協力することは出来ない」
「それは構わない。だが今後もこの国を旅するなら、私達の仲間になっていた方がいい。道中は安全だし人探しも手伝えるぞ」
マホーンは再び黙り込む。
「ヤマダと相談させてくれ」
構わない、とサーシャは言うと部屋を出ていった。
彼女の言葉はどうも真実らしい。
LAに辿り着いてから一週間。
ここにある物資の量や訓練された人々の統率の取れた動きを見ていたマホーンにはそれが分かる。
確かに、道中の安全は重要だ。
まだ子供のセドを連れて旅をしていたこれまでを振り返るとそれは重視せざるを得なかった。
マホーンは部屋を出て、山田のもとに向かった。
この合衆国最大規模のコミューンがベイズアザディを名乗る集団である事を、彼らは後に知ることになる。
※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。




