第四十話 ワールドステイト・ボーンファイア
少年が廃墟の中を進んでいく。
彼は瓦礫を退かしながら何かを探していた。
その身体には少し不釣り合いな大きさの服を引きずっている。
ふいに背後から声をかけられた少年がそちらに目を向けた。
二人の男が合図をしているのを確認して、少年は捜索を諦めて彼らのもとへと小走りで戻っていく。
「ここもあまり残ってなさそうだよ、マホーンさん」
「心配は要らないさ。この国は広い。大都市部まで行けばきっと生存者達のコミューンも見つかるさ」
隣にいたアジア系の男は手に持っていた無線機のバッテリーを入れ替えている。
「こっちは収穫ありだ。この瓦礫の下は宝の山だ。きっとモールか何かだったんだろうな。玩具や陶器に混じって色々なもんがまだ眠ってる」
少年がそれを聞いて目を輝かせた。
「山田、期待するのもわかるがあまり長居はしたくない。LAまではなるべく足を止めるわけには行かない」
「それもそうだがもう日も暮れる。寒くなるぞ。今日はここで休もう」
陽が次第に沈み、三人の影が伸びていく。
マホーンと山田は有り合わせの木材を組んで火を起こした。
「母さんはLAにいるかな」
「セド、心配することは無い。LAの山岳地帯は早くから安全地帯として名を馳せていた。君のママもそこに逃げたに違いないさ」
マホーンはそう言うと少年の肩を軽く抱き寄せた。
山田は篝火を見つめながら拾ってきたタバコに火をつけていた。
「んー。不味いが無いよりはマシ、か」
「あまり吸いすぎるなよ山田。まだまだLAまでは遠いんだ」
二人は暫くただ燃えたぎる火を見つめている。
気が付くと、少年は寝袋の中で寝息を立てていた。
瓦礫が地面に敷き詰まっている。
少し寝辛そうだった。
「しかし合衆国はどこもこの有り様だな。そんなに内戦は酷いもんだったのか、マホーン」
「私がこの国に戻ってきた時にはまだそこまでじゃなかったさ。世界各地にはウィルスを焼く為と称して核兵器が次々と使用されて行ったが、この国は最後までそれを拒んだからな」
「内戦、か。五大陸の中で唯一核汚染の無いここが、結局は人の手で破壊されちまって。ユートピアとは程遠いな」
「しかもウィルス被害は抑えられていた。だが一度始まった市民のパニックを押さえ込む事なんてあの時点ではもう不可能さ」
「そう言えば、ここもウィルスは無いみたいだしな。センサーの故障じゃなきゃ良いが」
山田はそう言うと計器を出して操作し始めた。
「ここは高速沿いだからだろう。元から死体は少ない。そしてその死体も、腐敗していくに連れてウィルスは消滅した。あれから10年も経てばこうなるさ」
「10年か……。正直言って、生きていられていることが不思議だよ」
「私も同感だ、山田。そろそろ我々も眠っておこう。明日は今日より距離を稼がなくちゃならない」
山田はまたタバコに火をつけた。
マホーンはやれやれといった感じでそれを見届け、ボロボロの毛布を取り出すとその上に寝転がった。
山田は夜空を眺めながら、深く息を吸った。
秋の夜の甘い香りに包まれる。
始まりの日から10年もの月日が経過していた。
世界にもはや近代文明など存在はしていなかった。
※2017/01/15
誤字脱字の修正をしました。