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パンデミック・マン  作者: ですの
パンデミック編
38/65

第三十八話 パンデミック・リバース

ゼルゲ教授は姿を消し、森崎は研究所には現れなくなった。

そして、高見博士もまた、その姿を現さなくなっていた。


三上の居る研究室には定期的に食料を届けにくる作業員以外誰も訪れない。


その状況に三上は苛立ちを覚えずにはいられなかった。

三上はいつ誰が来てもいいように、防護服は常に身にまとっていた。



そんな状況が何日も続いたある日の事であった。

いつもの時間に作業員からの配膳が無い事を三上は不思議に思っていた。


研究室の外の様子は全くわからない。

地下に設けられたこの部屋には窓など当然無く、周囲は厚い壁に覆われている。

唯一の出入り口はパスコードと指紋認証用のパネルが設定されている。


森崎はゼルゲ教授にここに出入りできるように不正なコードと指紋の登録を頼んでいた。


それを聞いた三上は自分も他の部屋に自由に出入りできるようにして欲しいとゼルゲ教授に頼んでいたが、当然ながら却下されていた。


故に、三上は今日も研究室に篭りきりだった。


しばしの時間が過ぎていく。

三上が時計の針に目を向ける。


午後4時を回っていた。


「流石に空腹も限界だっての……」


シャワーを浴びた後、防護服を身に纏いベッドに横になる。

研究所に連れてこられ監禁され、ベッドで暇を潰す生活にはもう慣れていた。

SWARPAと違う点は、外部の情報を一切仕入れる事ができない点だった。


テレビもPCも携帯端末も無い。

三上が外の実情を知るにはゼルゲ教授と森崎に聞くしかなかった。

今ではその二人もここを去ってしまった。


三上は眠りにつく。

サラリーマン時代に三上が毎日のように望んでいた、眠るだけの生活が手に入った。

思いの外それはつまらないものだった。


突如、研究所全体が揺れた。

分厚い壁に囲まれた室内に轟音が木霊する。

凄まじい衝撃が建物全体を襲った。


三上は思わず飛び起きる。


「これは、これは襲撃されフラグか! 何でもいい、何でもいいから何か起きろ!」


三上の中で期待感が高まっていく。

きっと自分を救い出しに誰かが来てくれたのだと確信していた。


その時、屋根が崩れ落ちてきた。

三上はそれに気づき慌ててベッドの下に潜り込む。


隙間から部屋の様子を除くと、出入り口の扉が歪み、破壊されていた。


「な、なんだ……? やりすぎじゃねえか……?」


建物が半壊したようだった。


崩落はしばらく続いている様子だった。

幸いにも三上の居た地下の研究室は完全に崩れることは無かった。


三上は建物の崩落が止まった事を確認すると出入り口に向かう。


研究室の外も瓦礫の山と化していた。

所々から夜空が見えた。


上階の一部のフロアは完全に崩壊してしまったらしい。


三上は瓦礫を登っていく。

一階フロアに足を踏み入れた。


研究所には人の気配がまるで無い。

三上が期待していた救助隊の姿も無い。


電子音と共に、三上の防護マスクのゴーグル部分に突然何かの数値が表示された。


「うおっ!? な、なんだこれ!! ヘッドマウントディスプレイだったのかこれ。こんな機能ついてたのか」


「一帯の放射線量が一定のレベルを超えると自動で感知してくれるんだよ、それ」


三上が振り返る。


ボロボロになった高見博士が瓦礫に腰掛けてこちらを見ていた。


三上はその男の姿を直視した瞬間に、頭に血が昇るのを感じた。

暫く忘れかけていた高見博士に対しての異常なほどの憎悪がみるみる全身を支配していく。


高見博士はいつもの笑顔を見せることは無かった。


「その服、対放射線防護機能もあるから安心していいよ、三上さん。僕はダメだろうね、被爆した。その内死んでしまうと思う。迂闊だった。核が使われるのを知っていながらここに来てしまうなんて」


三上は黙って高見博士の元に向かって歩み始める。


「ベイズアザディがやってくれたよ。まさかあいつら本当に核を使うとは思わなかったなぁ……」


三上は高見博士の目の前まで来るとその場で立ち止まって彼を見据えていた。

高見博士はそれを気にも留めていないのか、まるで独り言のように呟き続けた。


「君は知らないかもしれないけど、世界中でウィルスを焼く為に核兵器が使われててさ。ヨーロッパも例外じゃない。だから僕にとってこれはもう驚くべきことじゃ無いんだけど」


三上は自らが装着している防護マスクに手をかける。


「流石に爆心地が近い。僕は死ぬんだろうな、今すぐじゃないとは言え。あいつら、君を殺そうとしたんだ。僕はそれを止めようとしたんだよ。君が殺されないように何日もかけて手を打っていた。殺し屋を雇って、ベイズアザディの幹部を何人か殺したりして、警告もしたのに。こんな事するなんて酷いよね。僕はせめて、君にこの世界の終わりを見せてから死にたいんだけど」


三上はマスクを外した。


「ここら辺一帯に核を使うことがわかってさ。ギリギリ機能してた国防軍から警告が来てたから、多分みんな避難できてると思うんだけど。君は逃げられないと思って迎えに来たよ」


埃と塵の不快な香りが鼻孔を突く。


「三上さん、今すぐマスクをつけるんだ。そうしてる間にも君は被爆してる。もし自殺を考えてるならそのやり方はあまりオススメできない」


「……違うよ、高見博士。お前が勝手に被爆して死の道を覚悟するのは構わないけどな。それじゃ俺の気が済まねえんだわ。だからお前は味わうべきだと思う。このウィルスの怖さを」


「何を、なんの話をして……」


高見博士は最後まで言葉を発することができなかった。

崩れるように倒れ、地面に蹲る。


高見博士は苦しそうにもがいていた。


「やっぱ特性抗体も食えるんだな、ウィルス殺しの変異体」


廃墟と化した研究所で、三上は高見博士が荒く息をして苦しむ姿を意地悪く見下していた。



※2017/01/15

表現の一部と誤字脱字の修正をしました。

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