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パンデミック・マン  作者: ですの
パンデミック編
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第二十六話 ワールドステイト・ディストピア

三上は半ば廃墟と化した研究所で、足元で荒く呼吸を続ける男を意地悪く笑いながら見下していた。


高見博士が這いつくばってでも三上の元から離れようと藻掻く。

三上は高見博士の脚を強く踏みつけた。


高見博士が思わず呻き声を上げる。

口からは夥しい量の血を吐いていた。


「博士、お前が世界中にバラ撒いたウィルスはこんなにえげつないモンなんだ。もっと身を持って味わえよ」


ウィルスが作用しているのか或いは意識が遠のいているのか、高見博士は焦点の合わない目で天井をなぞる様に見つめていた。


「芋虫みたいだ」


三上は下衆な笑い声をあげると高見博士の腹に思いきり蹴りを入れる。

高見博士が呻き声を上げ、その場で丸くなる。


高見博士は何か話そうと口を開いた。

空気が漏れる音だけが三上の耳には届いていた。


「もしかして、もしかしてお前、命乞いでもしてんのか」


三上は不愉快な気持ちを抑えられず、近くに転がっていたバールのようなものを拾い上げる。


「死ねよお前。死ね。死んで詫びろ」


それを強く振りかざし、高見博士に打ち込んだ。


何回も何回も殴りつけるうちに、高見博士の呼吸が止まっていることにようやく三上は気づいた。


虚しかった。

三上はこの男を倒す事によって何か得られるような気がしていた。

自分自身の罪が赦されると信じていた。


今、呆気なくそれを達成した三上の心は、それまでと何も変わらない黒いものが渦めいた汚らしい感情が依然として支配していた。


三上はぼんやりと高見博士の亡骸を眺めていた。

自分が何をすればいいのかもう三上には分からない。


高見博士の亡骸を跨いで、三上は研究所の外に出た。


静かな夜だった。

今や世界中どこへ行っても静かだ。


三上は街を歩く。

写真の世界に入り込んだような錯覚を覚えるほど、周囲に動くものは無かった。


こんな世界でもまだ生きている人が居る。

いつかそんな話を高見博士が話していた事を思い出した。


生存者達は独自のコミューンを作り上げていた。

ウィルスの拡散が止められるような場所、高山や人口過疎地でなんとか生活しているらしい。


文明が足を止めた世界を眺めながら三上はようやく自分の目的を見つけた。


「彼らを、彼らを救おう。彼らと生きたい。誰かと生きていきたい」


三上はその言葉を自分に言い聞かせるように何度も発し続けた。


三上が最初のウィルスを拡散させてから約半年で近代文明は崩壊した。

ベイズアザディと呼ばれる過激派組織が世界中にウィルスをバラ撒いた事が決定打となり、世界的なウィルスの流行、パンデミックは引き起こされた。


高度に発達した交通網はそのウィルスの拡散を止める事は出来なかった。


そして、ベイズアザディの意思に反してウィルスは中東地域にも例外無く襲いかかった。


日本から飛び出したウィルスは瞬く間に地球を包み込んだのだ。

かくしてそれは遂に人類種に未曾有の被害を齎していた。


変異を続けるウィルスを抑え込むことはとうとう叶わなかった。


三上が高見博士の目を盗んで森崎と続けていたある研究が完成した時には、既に世界は歯止めの効かない勢いで全てが崩れ去ってしまっていた。


三上は、ドイツに連れてこられてからの事を思い出していた。


※2017/01/15

表現の一部と誤字脱字の修正をしました。


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