第二十話 エピデミック・ポート
隊員に連れられ三人は研究室を出る。
「おっさん生きてたんすね! 俺に最初に職質まがいの質問してきた時と変わらない胡散臭さですぐにわかりました!」
「失礼極まりないな三上君。俺も他のヘリの同乗者もほぼ無事だ。ただ残念な事にパイロットの二人は殉職しちまったが……。状況は博士から何となく聞いてるだろうから急いで航空機に乗れよ。しかし博士良いんですか? 研究室の機材運ばなくて。頼んでくれればうちの隊員に運ばせますが」
「大丈夫です山田君、もう必要ないですから」
高見博士は一言そう答えるだけだった。
三上と大町が案内された航空機は非常に巨大な輸送機だった。
乗り込む際に衣服についたウィルスを払い落すための浄化シャワーを浴びる。
「しまった」
高見博士が悲しそうに呟いた。
他の皆が防護服の上から洗浄される中、高見博士は白衣ごと浄化液のシャワーを浴びてずぶ濡れになっていた。
機内に乗り込むと中には大勢の兵士達が既に待機していた。
そのエリアを素通りして、三上と大町が通されたのは少し広めの機内室だった。
「お二方はここで大丈夫。僕も着替えてここに来るので。間もなくこの機は飛び立つから席についてベルトだけしておいてね」
そう言うと高見博士は足早に奥へと消えていった。
三上が大町に話しかける。
「ところで結花ちゃん、防護服もう脱いで大丈夫じゃない? ほら、兵隊の人達ももう着てなかったし。結花ちゃんそれ着て座るの窮屈そうだったじゃん」
「最低もここに極まりましたね三上さん……。女性に服を脱ぐ事を強要するなんて。次からもう三上さんの事は下劣社畜野郎って呼びます」
「ただの気づかいだよ結花ちゃん! そして人を傷つける事に特化したすげえセンスのあだ名だな!」
「冗談ですよ下劣社畜野郎、つい悪戯心で。ほぼ一日これ着てて、だからその、普通にシャワー浴びられるまで脱ぎたくないんですよ……」
「な、なるほどそっか、そうだねごめん……。そしてあだ名は継続なんだね……。冗談キツイ」
「冗談でも言ってないと、こんな状況やってられないじゃないですか」
航空機のエンジンが始動する。
間もなく飛び立つようだ。
高見博士が戻ってきた。
普段は白衣を着込んでいる彼だが、今はシャツに短パンでタオルを首にかけた非常にラフな格好だった。
高見博士が大町に話しかける。
「大町さん、シャワーなら奥にあるから、機が飛び立って安定したら使って大丈夫だよ。着替えは女性用の隊員のものが予備にあるから用意させます」
「あ、ありがとうございます。ほらこれですよ下劣社畜野郎さん、この気遣いの差ですよ!」
「さんを付けてもダメージ変わらないぞ結花ちゃん! そう言えば博士、これから何処に向かうんですか?」
高見博士は微笑みながら答えた。
「国外、とだけ今は教えるよ」
機体は徐々に加速し、やがて地上を離れた。