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パンデミック・マン  作者: ですの
エピデミック編
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第十四話 エピデミック・ハート

「……ほんとにごめん、結花ちゃん」


三上が大町に言葉をかける。

彼女を見ることが出来なかった。


大町は何も答えない。

防護マスクから微かに呼吸音が聞こえるのみであった。


エヴァン達が隔離室で息を引き取ってから十数分、三上と大町はSWARPAの地下一階に身を隠していた。


三上が居た隔離室は地下三階にある。

エヴァン達複数名の報告が途切れている事を不審に思った兵士達が捜索を始めており、上階との連絡通路を慌ただしく移動していた。


その為、迂闊に動くことが出来なかった。


間もなく防護室の異常に気付いた兵士から、大町の持つ無線に連絡が入った。


「ユカ、今どこに居るんだ!? 大変なことになっている! 防護室が壊されてるんだ! 中にはスマート1等准尉他複数名が倒れてる!! エヴァンも倒れている! とにかく早く来てくれ!!」


大町は何も応えない。


直後、施設内にアラートが鳴り響いた。

緊急事態が発生したことを知らせる警告音である。


「ゆ、結花ちゃん……? 何か言った方が」


「……良いんですよ三上さん。どうにかして上階に向かえる隙を見つけましょう。施設を出さえすれば私の車がありますから、どこへでも逃げられますよ」


「でも」


「良いですか三上さん、私は、私は今起こっている事を、現実を受け入れる事をやめています。こうなってしまったなら他の手段でウィルス被害の拡散を止めるしかないです。この気持ちが変わらない内に早く脱出してしまった方が良いですよ。頭がまた働くようになったら何をするかわかりません」


アラート音が鳴り響く施設内。

次々と防護服を身に着けた兵士や職員達が地下三階へ向かっていく。


「今はチャンスかもです、三上さん。上は今人がそんなにいないっぽいですよ。連絡通路ではなく、大胆にエレベータ使っちゃいましょう」


「結花ちゃん!?」


「今から無線で、地下五階の機密試験室に私達がいるって伝えます。そうすれば上の警備もまるまる下へ向かいますから、その間にエレベータから一気に一階へGOです」


三上は、不思議なほど冷静で元気に見える大町に不気味さを感じていた。


「連絡しますよ、準備してください。あっ、でも私防護服で動きつらいのでちゃんとフォローしてくださいね」


「わ、わかった。しっかり捕まえておくから」


「そうやって平気で女の子の身体触ろうとするんですね。人としておかしいところありますよ三上さん。……ふふ、もちろん冗談です。つい悪戯心で」


笑えない、三上は心の底からそう思っていた。


咄嗟の判断とは言え、大町を盾に命拾いした事を三上は強く後悔し始めた。

そのせいで彼女の心を壊してしまったのかもしれないと思うとやるせなかった。


大町が無線のスイッチを入れる。


「たすけてー、私は地下五階にいますー」


大町はそれだけ言うと直ぐに無線を切った。


「……酷い棒読みの英語だったな、演技だってばれないか……?」


「大丈夫ですよ三上さん。合衆国の人間からすると日本人はみんな普段の会話も棒読みしてるように聞こえるらしいですから。問題ないですって! 数分待って、エレベータまでダッシュですよ!」


数分後、次々と兵士たちが地下五階に向かっていくのを物陰から確認した三上と大町は、彼らが去った後ですぐさまエレベータに向かう。


「うおおおお!!」


三上が昇りボタンを連打する。


「三上さん、連打してもエレベータは早く来たりしませんよ。あ、もしかしてあのゲームやってました? 私ステルス迷彩と無限バンダナどっちも手に入れてから……」


しあkし大町が三上に話しかけた直後にエレベータが到着し、扉が開いた。


そこには男が一人既に乗っていた。

ガッチリとした体形で、防護服とマスクを窮屈そうに着用している。

その体型からこの男が誰であるのか三上には一目で分かった。


「ひぃ!? ま、マホーン局長……!!」


三上がたじろぐ。

マホーンはエレベータから出ると、三上から目を離さずに大町に声を掛ける。


「ユカ、何が目的だ」


「ここから出ようと思ってます、ボス」


「この男を連れてか? 彼が外に出たらどうなるかわかるだろう?」


大町は少し間をおいてマホーンの問いかけに答えた。


「もう三上さんが外に出ても問題はないですよね。だって東京は死の街になっちゃってますし。東京どころか関東全域が感染者で溢れかえるのも時間の問題です。アウトブレイクは止められなかった時点で私たちの負けなんですよ」


大町は不自然なほど冷静な口調でマホーンに語りかけていた。


「ここも、SWARPA日本支局も多分今日でお終いです。だったらもう外に出ちゃっていいじゃないですか。私はさっき、このウィルスの恐ろしさを目の当たりにしました。そしてそれを止める能力が無い自分達に嫌気がさしました。それなら外に出て、他の手段を探そうかなって」


局長はしばしの沈黙の後、防護服に無理やり取り付けたホルスターから拳銃を抜き出す。


「ユカ、君は行かせてもいいが彼はだめだ。彼が外に出ることによるリスクは」


銃声と共にマホーンは勢いよく壁に打ち付けられた。


三上が咄嗟にエヴァンから奪ったライフルの引き金を引いていた。


「まずい! どうしようっ、俺、つい、ついうっかり……。マジで撃つ気は無かったのに」


「……三上さん、もう銃は下げてください。安全装置の付け方後で教えてあげますね」


目の前で自分のボスが撃たれたというのに、大町はいたって冷静だった。

淡々としている、というよりも緊張感が無いように三上には映った。


「行きましょう三上さん、さぁ早く」


三上は震える脚を何とか支えながらエレベータに乗り込む。


「どうしよう結花ちゃん……、きょ、局長を殺しちゃったなんて、絶対にやばい! きっと追われる!! 外に逃げても絶対に狙われる!! なんでだよ!! なんでどんどん悪い方向に事が向かうんだよ!!」


大町が三上の方を向く。

マスク越しに微笑んでいた。


「いいじゃないですか、このまま逃げ続ければ」


エレベータの扉が閉まる。

横たわったマホーンの身体が微かに動いたことに三上も大町も気づかなかった。


エレベータが一階に到着した。


一階ホールには誰も居なかった。生きている者は。


ホール内では職員や兵士達が床に倒れたりソファーにもたれかかりながら息を引き取っていた。

夥しい量の血液がホール中にぶちまけられている。


「防護室の扉が破壊されたせいで三上さんのウィルスがここまで一気に拡散しちゃったみたいですね。空調を止めなかった、或いは止められなかったのかわかりませんが、そこからウィルスが流れ込んだんでしょう。さあ急ぎましょう。人手が足りてないとは言えこの施設は間もなくロックダウンされるはずです」


直ぐに三上と大町は正面扉を開ける。

自動ロックは機能しておらず、いとも簡単に扉は開かれた。


駐車場へ向かうと大町は防護服からキーを取り出し三上に渡した。


「私はこれ着てて運転できないので、三上さんお願いします」


二人は車に乗り込むと、施設を去っていった。


※2017/01/15

表現の一部と誤字脱字の修正をしました。

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