最終章2《紳士?淑女?》
闇の競売へと参加することになったハピネス。
ハルの活躍?によって、何とか招待状は入手できたのだが、
新たな問題が浮上して……。
都内の某所にある、高級ホテル。
各界の著名人も多く利用する、有名どころだ。
格調高いエントランスは、一般人にとって入ることすら躊躇われる。
そんな場所に、一組の男女が現れた。
男は大層な巨漢で、身に纏うタキシード越しにも、鍛えられた肉体が伺いしれる。
ひげ面にサングラス、高級そうな襟巻きが、堅気ではない空気を醸し出す。
女は端正な顔立ちで、青のドレスがスラッとした身体を引き立てる。
豪華な髪飾りで、長い髪を高い位置で留めている。
周囲の好奇の視線を気にせず、二人はフロントへと向かう。
「いらっしゃいませ。ご予約はございますか?」
フロント係は、丁寧な口調で対応する。
男は無言のまま、一枚の紙を見せる。すると、
「……畏まりました。ただ今ご案内致します」
係の男は深々と一礼し、二人をエレベーターへ案内する。
ドアを閉め、階数指定パネルに鍵を指すと、エレベーターは静かに地下へと動き出した。
「…………お待たせしました」
ドアが開かれると、そこには豪華なドアとその前に立つ黒服の男がいた。
二人が降りたのを確認すると、エレベーターは元の階へと戻っていく。
それを待って、黒服は声を掛ける。
「ようこそお越し下さいました。招待状を拝見できますか?」
男は無言で、先程と同じ紙を手渡す。
黒服は招待状を確認し、
「ルチアーノ様のご紹介とは知らず、失礼致しました。どうぞ、お通り下さい」
豪華なドアを開いてみせる。
男は大仰に頷くと、腕を絡める女と共にその先へと進んだ。
扉の中は、まるで別世界だった。
何処かの王宮のような、広々とした空間に無駄なほど豪華な装飾。
入り口付近のロビーで、談笑する数組の男女。
これからパーティーでも始まりそうな、雰囲気だった。
二人は周囲に人気のないソファーに腰掛けると、
「…………潜入、成功ねぇ♪」
「俺はもう胃が痛いよ」
誰にも聞こえない程小さな声で、会話を交わす。
男と女、つまりハルとローズは、無事に競売会場へと潜入したのだった。
そもそも、どうしてこんな事になっているのか。
話は潜入前に遡る。
「え~、本日イタリアから闇の競売への招待状が届きました」
地下作戦室に集まった幹部達に、千景が告げる。
良い知らせの筈だが、千景の表情は晴れない。
「千景よ、何か問題があったのか?」
「問題と言いますか…………招待状と一緒に、手紙が付いてまして」
何やら豪華な装飾が施された、一通の封筒をハルに差し出す。
どうやら読んでみろ、と言うことらしい。
ハルは封筒から手紙を取りだし、音読した。
『親愛なるハル。
今君は何をしているのかな? ひょっとして僕のことを想い、枕を濡らして…………』
ハルは思いきり手紙を握りつぶした。
「ハル……貞操とか大丈夫?」
「俺はノーマルだ!!」
「ルチアーノさんは、随分ハルさんにお熱のようですね」
「言わないでくれ。……これさえ無ければ、良い奴なんだけど」
ガックリと肩を落とす。
とは言え、続きを読まない訳にはいかない。
気を取り直し、手紙を読み始める。
『……手紙を潰すなんて酷いじゃないか。
でも、そんな素直で激情家の君も素敵だよ♪』
相手が一枚上手だったようだ。
『挨拶はこの位にして、本題に入ろう。
君に頼まれていた招待状だが、入手することが出来たよ。
この手紙に同封したから、確認してくれ。
ただ、一つ困ったことがあったんだ。
実はこの競売、男女二人一組でしか参加できない決まりだったのだよ。
いや~参った参った。
そんなわけで、参加できるのは二人だ。文句は言わないでくれ。
それと、参加する二人は僕のファミリーの人間と言うことにさせて貰った。
これだけで無用なトラブルは、大分避けられるはずだよ。
それでは、健闘を祈る。
君を愛する、ルチアーノ・カポネ』
「……ハルちゃん、本気で貞操気を付けた方が良いわよぉ」
「俺も、少しマジで心配になってきた」
何にせよ、約束を守ってくれた事は事実。
ここは素直に感謝しておく。
「招待状は確認しました。確かに二人一組でしか参加できないようです」
「となると、潜入するメンバーを決めなければならんな」
頭を悩ませる一同。
「男女だから……ローズ、俺、蒼井から一人。千景さん、奈美、柚子から一人か」
「訂正要求よぉ。私はぁ、お・ん・な♪」
「却下に決まってるだろ! 大体そうしたら、男は俺か蒼井しかいないじゃないか」
「吾輩は遠慮させて貰うぞ。そう言う荒事は好まん」
「私も止めておきます。残念ですが、その様な場所では目立ってしまうので」
蒼井と柚子が早々に辞退する。
「もう考えるまでも無いだろ。ローズと千景さんの最強ペアで良いじゃないか」
「私も止めた方が無難ですね。顔が知られている可能性があるので」
頼りの綱の千景も不参加となった。
「ふふふ、と言うことは、遂に私の出番ね」
「「う~ん」」
「何よ。私じゃ不満なの?」
「……お前、ドレスとか着て、お淑やかにしてられるか?」
「もち無理!」
「「はい! 消えた~」」
愛川○也ばりに、全員で駄目出しをする。
そもそも潜入作戦に向かないのだから、無理もない。
「そうなると、後に残ったのは……」
紫音の視線は、ハルとローズに向けられる。
何やら考えているようだが。
「言わなくても分かります。俺とローズじゃ釣り合いが取れませんからね」
身長差は四十センチ近くあり、とても男女のペアとしては成り立たない。
「……いやそうじゃなくてだな、逆ならいけるのではないか?」
「逆って…………まさか」
紫音の言わんとする事が分かり、ハルは青ざめる。
「なるほど、確かにいけるかもしれません」
「ありよね」
「ええ。ありです」
「現状なら、一番ベストなペアだな」
そんなハルの気も知らず、次々に賛同する幹部達。
「ちょっと待てって。冷静になってくれ。なあローズ、お前からも何か」
「いいわぁ。男装なんて趣味じゃないけどぉ、ハルちゃんの為なら我慢するわぁ」
違うから。
男装じゃないから。
いや、問題はそこではなく。
「そもそも俺が女役ってのが無理だろ。バレるに決まってる」
「安心してください。私達が全力で、貴方を完璧な女にして見せます」
ちっとも安心できません。
しかし何故かやる気の女性陣は、目を輝かせる。
「競売は今日の夜。……時間はたっぷりあります」
「任せてハル」
「私も協力させて貰います」
「待て待て待て。俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!」
必死の抵抗虚しく、ハルは女性陣に引きずられ行ってしまった。
「まあ、あいつらなら何とかするだろう」
「剛彦の方は大丈夫か?」
「ええ。時間はまだあるしぃ、頑張って男装してみるわぁ」
だから男装じゃ……。
そんなこんなで、今に至る。
競売場エントランス。
ハルとローズは、作戦の最終打ち合わせの最中だった。
「私は競売に参加しないでぇ、隠密行動をしながら証拠を掴むからぁ」
「俺は客を装って競売に参加すれば良いんだな」
「ええ。ドクターが作った、アレは持ってきてるわねぇ」
ハルは頷くと、ポーチから眼鏡を取り出す。
「今回はピンチになっても、誰もハルちゃんを助けられない。慎重に行動してねぇ」
「分かってるさ。ローズこそ、無理するなよ」
「大丈夫よぉ。ジャスティスでも出てこない限りぃ、遅れは取らないわぁ」
ローズの言葉が、何故か頭に引っかかる。
だが、それが何か理解するまで、時間は待ってくれなかった。
「もう競売開始の時間だわぁ。行くわねぇ」
ローズは立ち上がると、そのままエントランスを後にする。
その数分後、
「皆様方。間もなく競売が始まりますので、どうぞ会場へお入り下さい」
黒服がエントランスにいる客へと呼びかける。
ぞろぞろと会場に移動する客に紛れ、ハルも会場へと入る。
一際豪華な競売会場へ入ったハルは、目的を果たすのに手頃な席へと着席する。
指定席ではないので、ローズが不在でも目立つことは無いだろう。
一息ついたハルは、不意にさっき頭に引っかかったものの正体を思い出す。
「……あれって、フラグだよな」
現実にならないことを祈りつつ、ハルは眼鏡をかけて競売へと挑むのだった。
お約束と言えばお約束のコンビが、最終章最初の作戦を飾ります。
まあ冷静に考えれば、ハピネスって潜入作戦に向かない面子ばかりで……。
無事?に潜入を果たしたハルとローズ。
果たして彼らの運命は。
次回で闇の競売編は完結です。
お付き合い頂ければ、幸いです。