ストライキをしよう
ハル達の元に届いた、ハピー達のストライキの報告。
何やら彼らには要望があるらしく……。
え、前もこんな事があったって?
まあそれはそれ、これはこれです。
「大変、大変、大変で〜す」
ハピネスの地下基地。
作戦司令室でいつものように、お茶を飲みながら情報交換をしていた面々。
そこへ慌てた様子で駆け込んできた奈美。
「そんなに慌てて、どうしたというのだ」
「奈美、少し落ち着きなさい」
「紫音様、千景さん、それどころじゃ無いんですよ」
千景の注意にも、しかし珍しく奈美は勢いを弱めない。
ただ事じゃない。
作戦司令室に緊張が走る。
「何が……あったんだ」
ハルの問いかけに、奈美は一呼吸置いて、
「ハピー達がストライキをしてます!」
ハッキリと言い放った。
「……あれ、この光景、どっかで見たような気が……」
「既視感ってやつかしらぁ」
「いや……吾輩も覚えがあるぞ」
う~ん、と首を傾げるハル達。
「もう、そんなこと言ってる場合じゃないですって」
「奈美の言うとおりですね。業務に支障が出る前に、対処するとしましょう」
千景の言葉に、ハル達はストライキの現場へと向かった。
「我々は、断固として要求する〜!」
幸福荘の中庭に、ハピー達は集合していた。
プラカードや横断幕を持ち、拡声器で呼びかけを行っている。
「……俺、この光景前も見たぞ」
「……見たわねぇ」
「……見た気がするわ」
「……見たはずだ」
渋い顔をするハル達に、
「まあ、ストライキなんて、珍しい事でもありませんからね」
しれっと言い放つ。
それはそれで嫌な物だが。
「今は彼らの話を聞くことが先決です。ねえ、柚子?」
「は、はい。私にはよく分かりませんが、お話しすることは大切ですよ」
今まで沈黙を守っていた柚子が答える。
柚子は、前回のストライキを経験していないので、話に入って来れなかったのだろう。
「とにかく、交渉の準備をしましょう。全てはそれからです」
かくして、ハピネス二度目の労使交渉が始まるのだった。
幸福荘の会議室。
長机を挟み、幹部一同とハピー一号から五号までが向き合っていた。
「では始めるとするか」
紫音の言葉に全員が頷き、交渉が始まる。
「それで、要望は何ですか? 賃金ですか? それとも労働条件でしょうか?」
「いえ。以前も申したとおり、それらには大変満足しております」
千景の問いかけに、ハピー達は揃って首を横に振る。
「保険医は柚子がいるし……何だろ?」
首を傾げるハル。
他の幹部達も、思い当たることが無いようだ。
「今回の要望、それはもっと我々に出番が欲しいと言うことなのです!!」
ハピー一号は、魂の叫びをぶつけた。
「……成る程。つまり最近ハピーの存在が、おざなりにされている、と」
「はい。以前はちゃんと作戦の第一線で戦っていたのに」
「最近ではその機会が無いばかりか、名前さえほとんど出てきません」
「地の文での紹介も、明らかに減っています」
「このままでは我らハピーは、存在意義を失ってしまいます」
「どうか、私達に出番を下さい」
思いの丈をぶつけ、頭を下げるハピー達。
何というか、大変申し訳ない気がしてきた。
「ああ……その……だな……まああれだ、色々とすまん」
流石に弁解のしようもなく、紫音は素直に謝罪する。
確かに最近、出番が少なかった。
作戦も、奈美のチートぶりが目立ち、ハピー達に日の光が当たらない。
文字通り縁の下の力持ち。スポットライトが当たることは無いのだ。
「では要望は、出番を増やして欲しいと言うことで良いですか?」
「あ、後出来れば見せ場も欲しいですね」
ちょっと調子に乗り始めた。
「ハピネスにハピー有り、と言う名シーンがあると嬉しいです」
「何だよ、名シーンって?」
ハルが尋ねる。
「ほら、あるじゃないですか。三国志で言う関羽の五関突破とか」
何ともマニアックな例えだ。
「一度で良いから、そう言うスポットライトを浴びてみたいんです」
熱心に訴えかけるハピー達。
気持ちは分かる。分かるのだが……。
「でも、見せ場ってそうそうあるモンじゃないわよね?」
「そうねぇ。そういうのはぁ、やっぱり何か持ってる人に回ってくるものだしねぇ」
現実は厳しかった。
「ですよね……。はぁ~、折角台本まで作ったのですが……」
「台本?」
「ええ。こういう展開になったら良いな~っていう、まあ願望ですね」
「ほう、面白いじゃないか。試しに聞かせてくれ」
興味を引かれたのか、紫音が結構乗り気だ。
「ですが貴重なお時間を……」
「まあ実現できるかは別問題として、聞くだけ聞いてみましょう」
「ありがとうございます。では……」
千景のGOサインを受け、ハピー達は台本を読み始めた。
~ハピー達の台本~
突如始まった、正義の味方の強襲。
圧倒的な物量で、幸福荘へと侵攻を開始する正義の味方。
ハピネスは最大の危機を迎えていた。
「くそ、数が多すぎるぜ」
「奴らもなりふり構ってなれなくなったんだろうな」
「おい、こっちの援護を頼む。敵の増援が来た」
「了解だ。何としてもくい止めるぞ!」
ハピー達は最前線で、迫り来る正義の味方と戦闘を繰り広げる。
出入り口は封鎖したが、敵はお構いなしと壁をぶち破り屋内に侵入してきた。
必死に応戦するが、彼我戦力差は圧倒的。
屋外で始まった防衛戦は、地下基地入り口まで追いつめられていた。
「ここはもう持ちません。全員、地下基地まで防衛戦を下げなさい」
千景の指示で、応戦しながら地下基地へと後退していく。
だが。
「駄目です。防衛シャッターが閉まるまで、後一分掛かります」
「そんなっ! それでは敵の侵入を許してしまいます」
幸福荘と地下基地を繋ぐ通路にそびえるシャッター。
大砲の直撃すら耐えられる優れものだが、閉まるのに時間が掛かる欠点があった。
「やむを得ません。扉の前で足止めをして、時間を稼ぎましょう」
千景の言葉に、一同は沈黙する。
押し寄せる正義の味方は、この場所を既に察知している。
戦力を集中して、一気に突破を図るだろう。
それをくい止め、しかもシャッターが閉まるギリギリに飛び込むのは、至難の業。
足止めした人間が、地下基地に帰れる可能性は、殆ど無いのだ。
「……仕方ないわね。ここは私が行くわ」
「馬鹿言うな。そんな大怪我した状態じゃ無理だ」
立候補した奈美を、ハルが止める。
奈美は大勢の一流ヒーローとの戦闘で、かなりの重傷をおっていた。
柚子が懸命に応急処置をするが、とても戦える身体では無い。
「じゃあ誰がやるのよ!」
「……俺が行く」
激高する奈美に、ハルが静かに告げる。
「最弱の俺でも、一分くらいなら何とか耐えてみせるさ」
ハルは今も激しい攻防が繰り広げられる、シャッターの前へと進もうとして、
「いえ。ハルさんもここに残って貰います」
ハピー一号、二号、三号、四号、五号が目の前に立ち塞がった。
その顔には決意の色。
それだけで、彼らの考えが分かった。
「足止めは、私達が行います」
「……なら俺も参加する」
「それには及びません。奴らの相手など、私達で充分です」
「帰還の可能性が低い任務です。……なら、最小限の人数で挑むべきです」
「それに……」
ハピー五号が、ちらりと視線を移し、
「ハルさん。もうすぐパパになるんですよね?」
「お前達、何でそれを…………ぐっっ!」
動揺したハルの腹に、五号が拳を撃ち込む。
「だったら生き延びなくちゃ。……私達の分までね」
薄れ行く意識の中、ハルに聞こえた声は何処までも優しかった。
「では、ハピー一号以下四名、シャッター防衛任務の栄誉を授かります」
「……分かった。だが約束しろ。どんな形でも良いから……死なないと」
紫音の言葉に、頷くハピー達。
そして、シャッターの防衛ラインへと向かう。
「……ハピネスの命運、貴方達に預けます」
背後からかけられる千景の言葉に、ハピー達は振り向かず、ただ右手を挙げて答えた。
「やれやれ、また馬鹿みたいな数が揃ってるぜ」
「数だけだ。そんな烏合の衆に、我らの信念はうち破れない」
「そう言うことだ。さて、派手に暴れるとするぜ」
彼らの戦いぶりは、まさに修羅のごとしだった。
閉まり始めたシャッターに、焦る正義の味方を、次々にうち倒す。
そして、
「…………任務完了だな」
重い音を立て、シャッターは完全に閉じた。
「さてどうする? 投降でもするか?」
「冗談。最後の最後まで、ハピネスの誇りを持って、戦い抜くさ」
「俺たちがいなくても、あの方達ならいずれ組織の再興は出来る」
「なら俺たちの最後の仕事は、少しでも敵を減らす事だ」
もう、男達に言葉は必要なかった。
「「さあ、行くぞっ!!」」
そうして、ハピー達は敵陣へと特攻するのだった。
~fin~
「と、言う感じです」
語り終えたハピー達は、満足げな表情を浮かべる。
なるほど、確かに見せ場だ。
かなりのインパクトがあり、名シーンになるだろう。
問題があるとすれば、
「……色々言いたいことはあるが、これ、バッドエンドだよな」
紫音が渋い顔で突っ込む。
いくら見せ場でも、結末が報われない。
「ま、まああくまで想像の話と言うことで……」
「ほぅ、つまり貴方達はこんな事を考えていたと?」
ハピーのフォローは逆効果だった。
「お前達は、吾輩の開閉時間一秒未満の特殊シャッターに、不満があるのか?」
「いえ、滅相もない。ただ、話を盛り上げるために……その……」
プライドを傷つけられ怒る蒼井に、ハピー達が必死に弁解する。
「……私も聞きたいことがあるわ」
「な、何でしょうか?」
「私の負傷については、まあ良いわ。相手がジャスティスレベルなら、あり得るから」
意外に冷静な奈美。
「でも、一つ聞き逃せない台詞があったわよね?」
「……私も、同じ事を聞きたかったです」
奈美に柚子も便乗する。
「ハルがパパになるって……」
「は、はい。確かにありましたが」
「じゃあ」
一息つき、
「「ママは誰なのっ!!!」」
二人同時に叫んだ。
気まずい沈黙が辺りを包む。
「突っ込むところはそこかっ!」
「「大事な事よ(です)!!」
二人の迫力に、ハルは思わずたじろぐ。
「それで、誰なの?」
「誰なんですか?」
「えっと……それは……ですね……」
二人に詰め寄られ、しどろもどろのハピー。
流石に可哀想か。
「もうその辺にしろよ。良いじゃないか、誰だって」
所詮は作り話、とハルは言ったつもりだが、二人は違う意味で受け取ったようだ。
くるっと、ハルの方に向き直り、
「へぇ~、ハルは誰でも良いんだ」
「これは一度、じっくりお話しなくちゃ駄目ですね」
「お、おい。何だよ。二人して……」
奈美と柚子は、ハルの両手をがっしり掴んだ。
「ちょっと大事な話があるので、失礼します」
「後はお任せします」
「おい、離してくれ。止めろ、引きずるな~」
喚くハルを無視して引きずりながら、三人は会議室を出ていった。
後には、何とも微妙な空気が残る。
「…………出番の件は検討させて頂きます」
「は、はい。ありがとうございます」
何事もなかったかのように、千景は話を進める。
「うむ。では今回の交渉は、これにて終了とする」
「全員通常業務に戻ってください」
「「はい」」
かくして、第二回労使交渉は幕を閉じた。
ハピー達の出番が増えたかどうかは、これからのお話で。
と言うわけで、ハピー達の妄想全開話でした。
実際にはこんな、無駄に格好いい話はあり得ないので、まあ妄想の中だけでもと言うことで。
中二病? いえ、男は何時までも心は少年のままなのです。
ハルの相手は誰かは、ご想像にお任せします。
作者的にはどちらでもOKなんですが……。
今後ハピー達の出番が増えるかは…………頑張ります。
次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。