表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/103

ストライキをしよう

ハル達の元に届いた、ハピー達のストライキの報告。

何やら彼らには要望があるらしく……。


え、前もこんな事があったって?

まあそれはそれ、これはこれです。


「大変、大変、大変で〜す」

 ハピネスの地下基地。

 作戦司令室でいつものように、お茶を飲みながら情報交換をしていた面々。

 そこへ慌てた様子で駆け込んできた奈美。

「そんなに慌てて、どうしたというのだ」

「奈美、少し落ち着きなさい」

「紫音様、千景さん、それどころじゃ無いんですよ」

 千景の注意にも、しかし珍しく奈美は勢いを弱めない。

 ただ事じゃない。

 作戦司令室に緊張が走る。

「何が……あったんだ」

 ハルの問いかけに、奈美は一呼吸置いて、

「ハピー達がストライキをしてます!」

 ハッキリと言い放った。

「……あれ、この光景、どっかで見たような気が……」

既視感デジャビュってやつかしらぁ」

「いや……吾輩も覚えがあるぞ」

 う~ん、と首を傾げるハル達。

「もう、そんなこと言ってる場合じゃないですって」

「奈美の言うとおりですね。業務に支障が出る前に、対処するとしましょう」

 千景の言葉に、ハル達はストライキの現場へと向かった。


「我々は、断固として要求する〜!」

 幸福荘の中庭に、ハピー達は集合していた。

 プラカードや横断幕を持ち、拡声器で呼びかけを行っている。

「……俺、この光景前も見たぞ」

「……見たわねぇ」

「……見た気がするわ」

「……見たはずだ」

 渋い顔をするハル達に、

「まあ、ストライキなんて、珍しい事でもありませんからね」

 しれっと言い放つ。

 それはそれで嫌な物だが。

「今は彼らの話を聞くことが先決です。ねえ、柚子?」

「は、はい。私にはよく分かりませんが、お話しすることは大切ですよ」

 今まで沈黙を守っていた柚子が答える。

 柚子は、前回のストライキを経験していないので、話に入って来れなかったのだろう。

「とにかく、交渉の準備をしましょう。全てはそれからです」

 かくして、ハピネス二度目の労使交渉が始まるのだった。



 幸福荘の会議室。

 長机を挟み、幹部一同とハピー一号から五号までが向き合っていた。

「では始めるとするか」

 紫音の言葉に全員が頷き、交渉が始まる。

「それで、要望は何ですか? 賃金ですか? それとも労働条件でしょうか?」

「いえ。以前も申したとおり、それらには大変満足しております」

 千景の問いかけに、ハピー達は揃って首を横に振る。

「保険医は柚子がいるし……何だろ?」

 首を傾げるハル。

 他の幹部達も、思い当たることが無いようだ。

「今回の要望、それはもっと我々に出番が欲しいと言うことなのです!!」

 ハピー一号は、魂の叫びをぶつけた。


「……成る程。つまり最近ハピーの存在が、おざなりにされている、と」

「はい。以前はちゃんと作戦の第一線で戦っていたのに」

「最近ではその機会が無いばかりか、名前さえほとんど出てきません」

「地の文での紹介も、明らかに減っています」

「このままでは我らハピーは、存在意義を失ってしまいます」

「どうか、私達に出番を下さい」

 思いの丈をぶつけ、頭を下げるハピー達。

 何というか、大変申し訳ない気がしてきた。

「ああ……その……だな……まああれだ、色々とすまん」

 流石に弁解のしようもなく、紫音は素直に謝罪する。

 確かに最近、出番が少なかった。

 作戦も、奈美のチートぶりが目立ち、ハピー達に日の光が当たらない。

 文字通り縁の下の力持ち。スポットライトが当たることは無いのだ。


「では要望は、出番を増やして欲しいと言うことで良いですか?」

「あ、後出来れば見せ場も欲しいですね」

 ちょっと調子に乗り始めた。

「ハピネスにハピー有り、と言う名シーンがあると嬉しいです」

「何だよ、名シーンって?」

 ハルが尋ねる。

「ほら、あるじゃないですか。三国志で言う関羽の五関突破とか」

 何ともマニアックな例えだ。

「一度で良いから、そう言うスポットライトを浴びてみたいんです」

 熱心に訴えかけるハピー達。

 気持ちは分かる。分かるのだが……。

「でも、見せ場ってそうそうあるモンじゃないわよね?」

「そうねぇ。そういうのはぁ、やっぱり何か持ってる人に回ってくるものだしねぇ」

 現実は厳しかった。

「ですよね……。はぁ~、折角台本まで作ったのですが……」

「台本?」

「ええ。こういう展開になったら良いな~っていう、まあ願望ですね」

「ほう、面白いじゃないか。試しに聞かせてくれ」

 興味を引かれたのか、紫音が結構乗り気だ。

「ですが貴重なお時間を……」

「まあ実現できるかは別問題として、聞くだけ聞いてみましょう」

「ありがとうございます。では……」

 千景のGOサインを受け、ハピー達は台本を読み始めた。



 ~ハピー達の台本~


 突如始まった、正義の味方の強襲。

 圧倒的な物量で、幸福荘へと侵攻を開始する正義の味方。

 ハピネスは最大の危機を迎えていた。


「くそ、数が多すぎるぜ」

「奴らもなりふり構ってなれなくなったんだろうな」

「おい、こっちの援護を頼む。敵の増援が来た」

「了解だ。何としてもくい止めるぞ!」

 ハピー達は最前線で、迫り来る正義の味方と戦闘を繰り広げる。

 出入り口は封鎖したが、敵はお構いなしと壁をぶち破り屋内に侵入してきた。

 必死に応戦するが、彼我戦力差は圧倒的。

 屋外で始まった防衛戦は、地下基地入り口まで追いつめられていた。

「ここはもう持ちません。全員、地下基地まで防衛戦を下げなさい」

 千景の指示で、応戦しながら地下基地へと後退していく。


 だが。

「駄目です。防衛シャッターが閉まるまで、後一分掛かります」

「そんなっ! それでは敵の侵入を許してしまいます」

 幸福荘と地下基地を繋ぐ通路にそびえるシャッター。

 大砲の直撃すら耐えられる優れものだが、閉まるのに時間が掛かる欠点があった。

「やむを得ません。扉の前で足止めをして、時間を稼ぎましょう」

 千景の言葉に、一同は沈黙する。

 押し寄せる正義の味方は、この場所を既に察知している。

 戦力を集中して、一気に突破を図るだろう。

 それをくい止め、しかもシャッターが閉まるギリギリに飛び込むのは、至難の業。

 足止めした人間が、地下基地に帰れる可能性は、殆ど無いのだ。

「……仕方ないわね。ここは私が行くわ」

「馬鹿言うな。そんな大怪我した状態じゃ無理だ」

 立候補した奈美を、ハルが止める。

 奈美は大勢の一流ヒーローとの戦闘で、かなりの重傷をおっていた。

 柚子が懸命に応急処置をするが、とても戦える身体では無い。

「じゃあ誰がやるのよ!」

「……俺が行く」

 激高する奈美に、ハルが静かに告げる。

「最弱の俺でも、一分くらいなら何とか耐えてみせるさ」

 ハルは今も激しい攻防が繰り広げられる、シャッターの前へと進もうとして、

「いえ。ハルさんもここに残って貰います」

 ハピー一号、二号、三号、四号、五号が目の前に立ち塞がった。

 その顔には決意の色。

 それだけで、彼らの考えが分かった。

「足止めは、私達が行います」

「……なら俺も参加する」

「それには及びません。奴らの相手など、私達で充分です」

「帰還の可能性が低い任務です。……なら、最小限の人数で挑むべきです」

「それに……」

 ハピー五号が、ちらりと視線を移し、

「ハルさん。もうすぐパパになるんですよね?」

「お前達、何でそれを…………ぐっっ!」

 動揺したハルの腹に、五号が拳を撃ち込む。

「だったら生き延びなくちゃ。……私達の分までね」

 薄れ行く意識の中、ハルに聞こえた声は何処までも優しかった。


「では、ハピー一号以下四名、シャッター防衛任務の栄誉を授かります」

「……分かった。だが約束しろ。どんな形でも良いから……死なないと」

 紫音の言葉に、頷くハピー達。

 そして、シャッターの防衛ラインへと向かう。

「……ハピネスの命運、貴方達に預けます」

 背後からかけられる千景の言葉に、ハピー達は振り向かず、ただ右手を挙げて答えた。


「やれやれ、また馬鹿みたいな数が揃ってるぜ」

「数だけだ。そんな烏合の衆に、我らの信念はうち破れない」

「そう言うことだ。さて、派手に暴れるとするぜ」

 彼らの戦いぶりは、まさに修羅のごとしだった。

 閉まり始めたシャッターに、焦る正義の味方を、次々にうち倒す。

 そして、

「…………任務完了だな」

 重い音を立て、シャッターは完全に閉じた。

「さてどうする? 投降でもするか?」

「冗談。最後の最後まで、ハピネスの誇りを持って、戦い抜くさ」

「俺たちがいなくても、あの方達ならいずれ組織の再興は出来る」

「なら俺たちの最後の仕事は、少しでも敵を減らす事だ」

 もう、男達に言葉は必要なかった。

「「さあ、行くぞっ!!」」

 そうして、ハピー達は敵陣へと特攻するのだった。


 ~fin~


「と、言う感じです」

 語り終えたハピー達は、満足げな表情を浮かべる。

 なるほど、確かに見せ場だ。

 かなりのインパクトがあり、名シーンになるだろう。

 問題があるとすれば、

「……色々言いたいことはあるが、これ、バッドエンドだよな」

 紫音が渋い顔で突っ込む。

 いくら見せ場でも、結末が報われない。

「ま、まああくまで想像の話と言うことで……」

「ほぅ、つまり貴方達はこんな事を考えていたと?」

 ハピーのフォローは逆効果だった。

「お前達は、吾輩の開閉時間一秒未満の特殊シャッターに、不満があるのか?」

「いえ、滅相もない。ただ、話を盛り上げるために……その……」

 プライドを傷つけられ怒る蒼井に、ハピー達が必死に弁解する。

「……私も聞きたいことがあるわ」

「な、何でしょうか?」

「私の負傷については、まあ良いわ。相手がジャスティスレベルなら、あり得るから」

 意外に冷静な奈美。

「でも、一つ聞き逃せない台詞があったわよね?」

「……私も、同じ事を聞きたかったです」

 奈美に柚子も便乗する。

「ハルがパパになるって……」

「は、はい。確かにありましたが」

「じゃあ」

 一息つき、

「「ママは誰なのっ!!!」」

 二人同時に叫んだ。

 気まずい沈黙が辺りを包む。

「突っ込むところはそこかっ!」

「「大事な事よ(です)!!」

 二人の迫力に、ハルは思わずたじろぐ。

「それで、誰なの?」

「誰なんですか?」

「えっと……それは……ですね……」

 二人に詰め寄られ、しどろもどろのハピー。

 流石に可哀想か。

「もうその辺にしろよ。良いじゃないか、誰だって」

 所詮は作り話、とハルは言ったつもりだが、二人は違う意味で受け取ったようだ。

 くるっと、ハルの方に向き直り、

「へぇ~、ハルは誰でも良いんだ」

「これは一度、じっくりお話しなくちゃ駄目ですね」

「お、おい。何だよ。二人して……」

 奈美と柚子は、ハルの両手をがっしり掴んだ。

「ちょっと大事な話があるので、失礼します」

「後はお任せします」

「おい、離してくれ。止めろ、引きずるな~」

 喚くハルを無視して引きずりながら、三人は会議室を出ていった。


 後には、何とも微妙な空気が残る。

「…………出番の件は検討させて頂きます」

「は、はい。ありがとうございます」

 何事もなかったかのように、千景は話を進める。

「うむ。では今回の交渉は、これにて終了とする」

「全員通常業務に戻ってください」

「「はい」」

 かくして、第二回労使交渉は幕を閉じた。


 ハピー達の出番が増えたかどうかは、これからのお話で。

 


と言うわけで、ハピー達の妄想全開話でした。


実際にはこんな、無駄に格好いい話はあり得ないので、まあ妄想の中だけでもと言うことで。

中二病? いえ、男は何時までも心は少年のままなのです。


ハルの相手は誰かは、ご想像にお任せします。

作者的にはどちらでもOKなんですが……。


今後ハピー達の出番が増えるかは…………頑張ります。



次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ