選挙の投票に行こう
実施される総選挙。
ハピネスの面々も、大人の義務を果たすため投票を行うのだが……。
「選挙の投票へ行きたいか~」
「「お~!!」」
「どんなことをしても、選挙の投票をしたいか~」
「「お~!!」」
「警察は怖くないか~」
「「お~!!」」
「……何だこれは?」
「まあ、古きよき時代って奴ですね」
若い人は知らないよな~、とハルはしみじみと呟いた。
と言うわけで、本日は選挙の投票日。
二十歳以上の国民は、投票権という権利&義務を持っている。
それは悪の組織であるハピネスも例外ではない。
「それでは前から連絡していたとおり、私達は投票に行って来ますね」
千景を筆頭とする、ハピネス成人組はすっかり外出準備を整えていた。
「お昼前には戻れると思います。留守番はお任せしますよ」
「うむ。基地の守りは私達に任せ、安心して行って来るといい」
自信満々に答える紫音。
ハピネスの構成員は、殆どが成人。
未成年は、紫音、奈美、ハルの他にハピーが二名いるだけ。
人数だけ見れば、かなり不安が残るのだが、
「まあ、奈美がいるしね」
「奈美さんがいますから」
「あの女が居る以上、無用な心配だ」
約一名のバランスブレイカーのお陰で、一同はすっかり安心しきっていた。
「警察も正義の味方もぉ、選挙で忙しいしぃ、多分余計な手出しはしないと思うわぁ」
「そう言うことだ。お前達は心おきなく投票してこい」
「ありがとうございます。では、行って参ります」
成人組はぞろぞろと投票所へと向かった。
「さて、これからの予定はどうなっている?」
「俺とハピー達は、千景さんからハッピーハピーの仕事を貰ってます」
「紫音様は、宿題を終わらせるようにと千景様より指示が出ております」
「……流石に甘くないな。ところで奈美はどうした?」
朝から一度も姿を見せない奈美。
「昨日は深夜まで仕事でしたからね、まだ寝てると思いますよ」
「珍しいな」
「そうですか? あいつは朝弱いので、寝坊なんかは良くありますけど」
ハルの言葉に、紫音は違うと首を横に振り、
「お前がそれを見逃している事がだ。いつもなら直ぐに起こすだろ?」
「ああ、そう言うことですか」
ハルは苦笑する。
「今日は人がいないので、仕事中でも容赦なく邪魔をしてきますから」
あえて起こしません、と少しだけ腹黒のハルだった。
ハル達に与えられた仕事は、書類の整理だった。
幸福荘の一角、ハッピーハピー事務室でハル達は、早速作業に取りかかる。
「こっちの処理は俺がやるから、そっちの整理を頼む」
「「了解です」」
ハピー達は若いながらも、優秀な人材。
ハルは平凡ながらも、ある程度業務には慣れている。
三人は手際よく仕事を片づけていった。
「…………順調だな」
「そうですね。この分なら、予定よりも早く終わりそうです」
「時間が余ったら、お茶でも飲んでゆっくりしよう」
「あ、良いですね。それじゃあ頑張って終わら……」
ドンガラガッシャーン
「………………………………………」
「あの~、今のって……」
「台所の辺りから聞こえましたよね」
「……俺には何も聞こえない」
ガッシャーンパリーンパリーン
「………………………………………」
「紫音様はご自分の部屋で宿題中のはずですよね」
「となるとこの音は……」
「聞こえない聞こえない聞こえない」
ドッカーンボッカーン
「………………………………………」
「あの……ハルさん?」
「済まないが、少し頼めるか?」
「構いませんが、これってやっぱり……」
「ああ……奴が目覚めた」
ハルは深いため息と共に、音の発生源である台所へと向かった。
台所は、予想以上の地獄絵図と化していた。
割れた食器、調理器具が辺りに散乱し、壁のあちこちに焦げた跡が残る。
そしてその中に立つのは、
「…………取り敢えず、お前はそこから出ろ」
「あ、ハル。おはよう」
全身食材と調味料まみれの、奈美だった。
「何で厨房に入ったんだよ。ちゃんと朝食を用意してただろ?」
「うん、美味しかった。でも昨日頑張ったせいか、ちょっと足りなくて」
それで全てが分かった。
奈美を厨房に入れた時点で、結末は決まっているのだから。
「いや~、卵って電子レンジに入れると、爆発するのね。ビックリしたわ」
「もう何も言うな。ひとまず、その格好を何とかしてこい」
奈美を厨房から追い出すと、ハルは頭痛を堪えながら片づけを始めた。
「はぁ~お腹一杯。ハル、ごちそうさま」
「喜んで貰えて何よりだ」
食堂で満足げな笑みを浮かべる奈美に、ハルは厨房を片づけながら答える。
奈美の朝食作りと厨房の掃除に、予想以上に時間がかかってしまった。
「ねえハル。やっぱり私も手伝……」
「お前は厨房に入るな」
奈美にとって、厨房はどうやら非常に相性の悪い場所らしい。
ただそこにいるだけで、あり得ないことが起きるのだから。
「片づけは終わった。みんなが戻るまで、頼むから大人しくしててくれよ」
「む~、今日のハル冷たい」
「今は俺が責任者だからな。胃が痛い話だよ」
成年組が留守の間は、最年長のハルが責任者に任命されている。
短い時間とはいえ、かなりのプレッシャーがかかっていた。
「俺は仕事に戻るから、くれぐれも頼んだぞ」
奈美は不満そうな顔をしながらも、一応頷いた。
「ハルさん、お疲れさまです」
「本当に疲れたよ」
「仕事の方は、我々で進めておきましたので」
ああ、何と素晴らしい仲間だろう。
優秀なハピー達は、ハルの分もしっかりとカバーしてくれていた。
「よ~し、みんなが戻ってくるまで後少し、一気に片づけるぞ」
「「お~!」」
気合い十分で、ハル達は作業を再開した。
一方の成人組は、と言うと。
「あ、お嬢ちゃん。投票は二十才になってからだよ」
「わ、私はもう大人です!」
「うん、分かったからね。ひょっとしてご両親とはぐれちゃったかな?」
「大人なんですってば。投票通知と免許証です」
「…………え、年上!? し、失礼しました」
実は毎回恒例のやり取りに、流石にうんざりする柚子。
「それでは、お名前をお願いします」
「え……名前ですか?」
「はい。本人確認のため、お手数ですがお願いします」
「…………ハピー十五号」
「え? 何ですか?」
「いえ……や、山田太郎です」
「山田太郎さんですね。それでは奥の投票スペースへどうぞ」
「う、うう。辱められてしまった」
黒タイツの時に本名はきついっす、と涙ぐむハピー達。
「だから、何度言えば分かるのだ。吾輩は、蒼井賢と言っているだろう!」
「ですから、そのお名前はリストに無いんですよ」
「巫山戯るな! 一緒に来た連中は名前があるのに、どうして吾輩だけ……」
「あの、ドクター。確認しますが、引っ越しの時住所変更しましたか?」
「む……………………あっ」
「はぁ……。とにかく、投票は無理ですから外で待っていて下さい」
何時も通りの蒼井だった。
そんなこんなで、決して順調ではなかったが、何とか無事に投票は終わった。
その夜。
ハピネス一同は、食堂で夕食を食べながら選挙速報を見ていた。
「ふむ、どうやら大勢は決したようだな」
「そのようですね。この圧倒的得票差は、今からでは挽回できないでしょう」
「このまま行くと、政権交代ですかね」
「恐らくねぇ。国民も今の政治に不満が溜まってたって事でしょ」
「これを機に、少しでも政治に関心が高まると良いのですが」
「無理だろうな。どうせ一時のことだ」
画面に現れる得票結果に、ハル達は意見を交わす。
状況は野党に圧倒的有利で、政権交代は確実だろう。
政権交代という歴史的瞬間を前に、ハピネス一同も関心を持って見守る。
そんな中、
「あ、そう言えばそろそろあのドラマが始まる時間だわ」
一人全く興味のない奈美が、不意に呟く。
「ちょっと部屋に戻って見てくるわね」
流石にここでは見れないと察したのだろう。自分の部屋へと戻っていく。
空気を読んだのは、大した成長だ。
だが、一つ肝心なことを忘れている。
「……奈美、気づいてないのかな」
「多分気づいてませんね」
「今日は全部のチャンネル、選挙特番よねぇ」
「ええ。そもそもこのチャンネル、奈美さんが見てるドラマのチャンネルです」
無言の一同。
そして、
ドタドタドタドタドタバタン
「ちょっと、どういうことなのよぉぉぉ!!」
食堂に駆け戻って来た奈美は、魂の叫びをあげる。
「どういうって、今日は全部のチャンネルが選挙の特番だぞ」
「ドラマはお休みですね。また来週やりますから」
「冗談じゃないわ。今日の「ショートバケーション」、凄い良いところなのに」
そう言われてもどうしようもない。
地方選ならいざ知らず、総選挙なら特番も当然と言えるだろう。
しかも今回は政権交代が有力な選挙。国民の関心も高い。
が、奈美は納得がいかない。
「…………ちょっと出かけてくるわ」
「どこに?」
「テレビ局。今から行って、ドラマを放送するように言ってくるの」
奈美以外が言えば、軽い冗談だ。
だが、相手は奈美だ。
間違いなく……本気。
「……全員戦闘配置、全力で奈美を取り押さえなさい!」
「「了解っ!!」」
「邪魔しないで~~~~!!」
こうして総選挙の夜、ハピネスは別の意味で燃え上がった。
選挙の結果は、圧倒的大差で野党が勝利。
歴史的な政権交代が実現した。
これがハピネスにとって、非常に大きな意味を持つ事となる。
ただそれは、まだ少し先の話。
今回話がぶつ切りになり、読みにくいかと思います。
構成を失敗してしまったためで、申し訳ありません。
元々文章力がない筆者ですので、今後一層努力致します。
くどいようですが、このお話はフィクションです。
今後「あれ、これって現実の話じゃね?」みたいな事が多々あると思いますが、
フィクションですので、よろしくお願いします。
さて、物語中でも政権交代が実現しました。
これはハピネスにとっては、大きな追い風となります。
その辺りの話は、もう少し後と言うことで。
次はハルと奈美がメインの話の予定です。
奈美の弱点(料理以外)が明らかになります。
よろしければ次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。