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たまにはシリアスな事件でも(3)

シリアス話、ようやく完結です。


通り魔事件から発展した、謎の薬物事件。

正義と悪、両者の介入はどの様な結末を迎えるのでしょうか。


 作戦会議の翌日。

 地下作戦司令室に、ハルも含めた幹部達が集まっていた。

「全員集まりましたね。では、剛彦に報告をしてもらいましょう」

「了解よぉ。まず………………」

 ローズは調査の結果を皆に報告する。

 薬は通常の覚醒剤などとは違い、一般に流通していないこと。

 中毒となった人間は、全員が無職の男であること。

 そして、彼らが中毒になる前に拉致をされていること。

 次々に明らかになる事実に、ハル達は驚いた。

 単なる薬中の通り魔事件が、ここまで大きな事件とは想像していなかったからだ。

「何とまあ……随分と厄介な事になったな」

「そうねぇ。でも、まだ続きがあるのよぉ」

「拉致を実行した組織……つまり薬を作った組織の正体ですね」

 千景の言葉に、ローズは頷く。

「流石ローズさんね。いいわ、どんな悪の組織でも、私がぶっ潰してやるわ」

 いきり立つ奈美に、ローズは複雑な表情を浮かべる。

「ローズ、どうかしたのか?」

「何でもないわぁ。……それで、その組織の正体はぁ…………」

 その言葉を聞いた瞬間、ハル達は目を見開く。

「…………剛彦よ、何と言った?」

 紫音がかすれた声を出す。

 他のメンバーも同様の思いだ。

「もう一度言うわねぇ。今回の薬物は、正義の味方の仕業よぉ」

 ローズが告げた言葉に、全員の顔が驚きに固まった。


 



「では、間違いないのですね?」

「ああ、私が保証しよう。今回の件の黒幕は、正義の味方だ」

 コレクトの言葉に、美園は深いため息をついた。

「可能性としては考えておったが……残念じゃな」

「ああ。どうりで警察や正義の味方の調査結果が、芳しくない筈だよ」

「奴らはこちらの手の内を知っているからな。……頭の痛い話だ」

 美園は頭痛を堪えるように、頭に手を当てる。

「奴らの拠点、構成員のデータは入手済みだ。いつでも動けるよ」

「やれやれ。こうなると、お嬢が仕事で居なかったのは、不幸中の幸いじゃな」

 爺の言葉に、コレクトは苦笑する。

 葵がこの事実を知ったら、激怒して構成員を皆殺しにしかねない。

「……とにかく、早急にかつ内密に解決するのが望ましいな」

 美園の言葉に、二人は賛同する。

 公になっては、正義の味方への信頼そのものを揺るがしかねない。

「儂が始末しようか?」

「いやいや、爺様にそんな手間はかけさせられないよ。……私がケリを付けよう」

「……任せる。愚か者共に、相応の報いを与えてこい」

 コレクトは優雅に頷き、作戦司令室を後にする。

「ひょっとすると……これは氷山の一角かもしれんのぅ」

 爺の言葉を、美園は否定することが出来なかった。




「落ち着いたかしらぁ」

「ああ、何とかな」

 紫音の言葉通り、ハル達はようやく落ち着きを取り戻していた。

「しかし、正義の味方とは……予想外だったな」

「ハルもそう思うわよね。だって、理由が分からないもの」

 納得行かない表情の奈美。

 そんな二人に、

「あ、あの……。多分なんですが……薬が未完成だったからでは?」

 自信なさげに意見する柚子。

「薬が未完成なら、なおさら人に使ったりしないでしょ?」

「………………いや、待てよ」

 否定する奈美の横で、ハルは気づく。

「未完成の薬を人に使う。その理由で思いつくのは……」

「人体実験だろうな。そこの女も良くやるが……ぐっ!」

 言葉の途中で、蒼井は机に突っ伏した。

「蒼井さん……。今シリアスな場面ですから」

 柚子の手に見える注射器には触れないでおこう。

「だが、奴らは正義の味方なのだろう。これではまるで……」

「紫音の気持ちは分かります。ただ、正義にも色々な正義がありますから」

 千景の言葉は、何処か悲しげに聞こえた。


「奴らの拠点は突き止めてるわぁ。どうするって、聞くまでも無いわねぇ」

 ローズはハル達に視線を向け、苦笑いする。

「もちろん、ぶっ潰すまでよ」

「俺も賛成だよ。相手が正義の味方なら、悩む理由も無いし」

「これを公に出来れば、正義の組織全体に与えるダメージは測り知れません」

「私も医者として、こんな非人道的な行為は見過ごせません」

 ハル達の言葉を受け、

「私もみんなと同じ想いだ。これは我らハピネスにとって、大きな意味を持つ作戦になる」

 紫音はゆっくりと立ち上がる。

 そして、出撃の号令をかけるその瞬間、

「あ、ごめん。言い忘れれたけどぉ、この件ジャスティスも調査に動いてるのよぉ」

 ローズがてへ、っと舌を出して謝った。

「早くしないとぉ、彼らに内密に処理されちゃうわぁ」

「彼らと接触するリスクはありますが、やむを得ません。みんな、直ぐに準備を!」

「「了解!!」」

 千景の指示に、ハル達は急ぎ出撃準備をするのだった。


「…………私、本当に……ボスだよ……な?」

 一人部屋に残された紫音は、少し涙目になって呟いた。




 

 ローズが突き止めた敵の本拠地は、郊外に建つ白い建物だった。

 報告に寄れば、あれが薬の研究所との事だ。

 ハピネス一行は、レンタカーを少し離れた道の脇に止める。

「これからどうします?」

「もちろん、正面から突撃よ!」

「ふん、これだから脳筋女は困る。こういう場合はこっそり侵入するのがマナーだろ」

 何処のマナーでしょうか?

「いえ、ここは奈美の案を採用します。時間がありませんし、何より……」

「敵の応援が来る心配が無いものぉ。警察に通報なんてぇ、自首同然だしねぇ」

「蒼井さん……もう少し寝ていますか?」

 柚子が注射器を取り出すと、蒼井はブルブルと体を震わせて後ろに下がった。

「車に数名のハピーを残し、全員で制圧を行います」

「了解ですよ。片っ端から蹴散らしてやるわ」

 奈美が拳を握りしめて答える。

 こういう場面では、何と頼りになるのだろう。

「ハルさん……戦っちゃ駄目ですからね」

「ん、ああ分かってるよ。今回は後ろで大人しくしてるよ」

 ハルが頷くと、柚子は安心したように笑顔になる。

「千景ちゃん。マスクの準備は終わったわよぉ」

 お馴染みになった、銀行強盗マスクを装着したローズが告げる。

 柚子は狐、蒼井はお多福のお面を装着した。

「準備は整いましたね。……では、強襲を行います」

 貴婦人マスクを付けた千景の指示で、作戦は始まった。



 作戦は、極めて順調に進んだ。

「どりゃぁぁぁぁぁ!!」

 護衛や防衛システムを、奈美が力任せにねじ伏せる。

「管理システムはこれねぇ。ぽちっとな♪」

 施設の設備をローズが制圧する。

「一班から三班は研究者の確保を。四・五班は奈美の後に。六班は周囲の警戒を」

「「イエス・マム!」」

 千景の的確な指示で、ハピー達が研究所を次々に制圧する。

 ハピネス総出の強襲に、研究所側は為す術が無かった。

 後詰めのハル達が研究所に入った頃には、すっかり戦いは終わっていた。

「……何というか、俺たちは出番無しだな」

「衛生部隊の仕事が無いのは、良いことですよ」

 そんな二人の元に、伝令役のハピーが走り寄る。

「お二人とも。敵のリーダーを捕らえました。奥の部屋にお越し下さい」

「もう? 奈美の奴、随分飛ばしたんだな」

「ハルさんが傷ついた元凶ですからね。……気持ちは分かります」

 二人はハピーに案内して貰い、研究所の一番奥にある部屋に入る。


 部屋には、既にハピネスの面々が揃っていた。

 そして中央の床には、縄で縛られた白衣の男が座っていた。

「貴様ら……こんな事をして、ただで済むと思っているのか?」

 敵意をむき出しにして、睨み付ける男。

「ただで済まないのは貴方達ですよ。こんな実験をしてるのですから」

「ふん、これだから低俗な奴は困る。これは正義のための実験なのだぞ」

 状況を理解していないのか、男は強気に語り続ける。

「この薬が完成すれば、無敵の正義の兵士が誕生する。何を恥じる必要がある?」

「あんたね……。その為に何人の人間を犠牲にしてるのよ!」

 悪びれぬ男に、奈美が怒声を浴びせる。

「崇高な目的に犠牲は付き物だ。それに、犠牲になったのは社会のお荷物だからな」

「だから拉致する人間を選んでいたのねぇ」

「そうだ。社会的に価値のない人間がどうなろうが、問題なかろう?」

 男の目は、危ない光を放っていた。

「酷い……。あなた達は、正義の味方では無いのですか?」

「正義の味方だとも。だから私の行いは、全て正義なのだよ」

「狂ってる……」

 ハルは思わず呟いた。

「外道め……。科学者ほど人の命を尊ばなければならないはずだ」

「そうよ! どんな事があっても、人を犠牲にする何て許されないわ」

「犠牲? 冗談言うな。価値のないゴミ共に、私が価値を与えた。寧ろ感謝すべきだろ」

 男は狂ったような笑みを浮かべる。

「私こそが正義なのだ。この崇高な実験を…………」

「もう結構だ。黙りたまえ」

 ゴキッ

 不意に聞こえた声と共に、男の首から鈍い音が響く。

 白衣の男は狂った笑みを浮かべたまま、床に崩れ落ちた。


 白衣の男の背後には、いつの間にか一人の男性が立っていた。

「…………久しぶりだよ。こんな下衆を見たのは」

 穏やかな口調だが、怒りが滲み出ていた。

 英国紳士風の出で立ち。

 灰色の髪の毛と、豊かな口ひげ。

 白い手袋をした手には、黒のステッキが握られていた。

 突如として現れた正体不明の男に、ハル達の緊張が高まる。

「君達にも不愉快な思いをさせてすまなかったね。……謝罪させて欲しい」

 シルクハットを取り、頭を下げる男。

「なるほど……。貴方はジャスティスのメンバーですね」

「いかにも。改めて名乗ろう」

 男はスッと背筋を伸ばし、

「私はジャスティスのMr.コレクトだ。以後お見知りおきを」

 優雅に一礼した。


「しかし、流石は新進気鋭のハピネス。見事な手並みだったよ」

「あらぁ、お世辞が上手なのねぇ」

「本心だよ。正義の味方は数あれど、ここまで戦える組織は数少ないからね」

 コレクトの言葉に嫌みの色は無く、純粋に賞賛しているようだった。

「世間話をしにきた訳では無いでしょう。……貴方の目的は?」

「君がリーダーの様だね。その顔を見る限り、予測が付いているのだろ?」

「…………この組織の粛正と、事件を闇に葬る事」

 ご名答、とコレクトは拍手をする。

「事が公になることは、我々にとって非常に都合が悪いのでね」

「そんな……犠牲になった方が沢山いるんですよ」

「君の言うことはもっともだ。それについては言い訳できない」

 柚子の言葉に、コレクトは申し訳なさそうに答える。

「だが、社会全体の正義のため、私は今回の件を闇に葬る。これは譲れないよ」

 コレクトの言葉には、一切の迷いは無い。

 もはや問答は意味を成さないだろう。

「上等よ。なら私達は悪の組織として、あんたをぶっ倒すわ!」

 奈美が拳を握りしめ、戦闘態勢に入った。

 場の緊張感が、一気に高まる。

 だが当のコレクトは余裕の笑みのまま、懐から何かのスイッチを取り出す。

「ふふ、流石に多勢に無勢。素敵なお誘いだが、ここは遠慮させて頂くよ」

「…………っ、いけない。みんな、直ぐにここから脱出しなさい」

 珍しく焦った様子で、千景が退却指示を出す。

 その数秒後、研究所のあちこちから爆発音が響き渡った。

「ななな、何よこれ?」

「爆弾ねぇ。……みんな急いで外に出てぇ。建物が崩れるわよぉ!!」

「「に、逃げろ~!!」」

 ローズの叫びに、ハル達は大急ぎで出口を目指す。

「奈美は研究所内の全ハピーに退却指示を。剛彦はハル君と柚子を担いで行って」

「了解です」

「了解よぉ」

 千景は手際よく指示を出すと、コレクトに向き直る。

「……今回は負けを認めましょう。ただ、次はこうは行きませんよ」

「無論だ。次こそ正義と悪として、全力で戦いたいものだよ」

 千景はコレクトに軽く頷き、出口へと駆けだした。


 研究所は、最後に千景が脱出した直ぐ後に、崩壊した。

 事件を明るみに出来る、多くのデータと共に……。



 その夜、幸福荘では珍しく祝勝会は開かれなかった。

 いや、紫音とお留守番のハピー達が準備はしていたのだが、

「申し訳ありませんが、今回の作戦は失敗です。祝勝会は自粛しましょう」

 という千景の一声でお流れとなった。

「私は……いらない子か?」

「紫音様、お気を確かに!!」

 真剣に凹んだ紫音のフォローに、ハピー達は四苦八苦するのだった。


 ハル達が自室で休んでいる時、千景は一人作戦司令室にいた。

「……まったく、どうかしてましたね。こんな失態をするとは」

 思い出すのは今日の作戦。

 いくらジャスティスの影がちらついたとは言え、冷静さに欠くものだった。

「そうでも無いんじゃない。最低限の目標は達成したしぃ」

「……剛彦ですか」

 司令室の入り口から声を掛けるローズに、千景は視線を向けずに答える。

「結果だけ見ればぁ、正義の組織を一つ潰せたわぁ。上出来よぉ」

「…………勝てる戦いを落とした。指揮官である私の責任です」

「反省は大切よぉ。でも、切り替えなさい」

 ローズは自分の席へと座る。

「負傷者は無し。正義の組織は壊滅。今はそれで十分の筈よぉ」

「そう……ですね。私としたことが、人並みに落ち込んでいた様です」

 千景は少し吹っ切れたように笑う。

「ハピネスはもっと強く、大きくなります。リベンジはその時にしましょう」

「ええ。私も協力するわよぉ。もちろん、みんなもね」

 ローズのウインクに、微笑みながら頷く。

「では早速ですが、次の作戦の情報収集をお願いしましょうか」

「そう来なくっちゃ」

 何時も通りの調子で会話をする二人。


 ハピネスは次なる悪事に向け、静かに動き始めた。






まず、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

慣れぬシリアス100%の話、つまらなかったと思います。

以後こういった話は、極力控えます。


今回の話では、正義の危うさを表したかったのですが、

どうにも上手くいきませんでした。

まるでハピネスが正義の味方みたいになっちゃいましたし……。


とにもかくにも、重苦しい話はコレで終わりです。

気持ちを切り替え、次からは何時も通りの調子で行きたいと思います。


次は今回酷い扱いを受けた、紫音がメインの予定です。

次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。



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