表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/103

新たな仲間が加わります(2)

前回の続きです。


千景より新ハピー達に与えられた仕事とは……。


 時刻は、真っ昼間。

 人通りの多い商店街を、全身黒タイツの集団が歩いていく。

 先頭には、

「は~い、はぐれないように着いてきてね~」

 戦闘服姿の奈美が、ツアーガイドのように旗を持っていた。

 露出過多の女と黒タイツの集団が歩いていれば、当然騒がれる筈だが、

『ヒーローショー出演の為の特訓中です。見守っていて下さい』

 と言うプラカードを持ったハルが最後尾に着くことで、事なきを得ていた。

 頑張ってね、と言う励ましの声に、笑顔で手を振る一行。

 一行は地域の皆様の、暖かい視線を受け、歩き続けていた。



 事の始まりは、千景の発言だった。


「皆さんにお願いしたい仕事は、正義の組織を一つ壊滅して欲しいのです」

 千景から伝えられた仕事は、ハル達の予想の斜め上を行くものだった。

「おい千景。いきなり何を言い出すのだ」

「驚くのも当然ですが、やむを得ない事情がありまして」

 千景の視線を受けたローズは、軽く頷くと、

「実はねぇ、今日うちにスパイが入り込んだのよぉ」

 世間話の様に、一大事を告げた。

「す、スパイだと」

「それって、大変な事じゃないですか」

 驚く紫苑と奈美。

 ハルも驚いたのだが、それ以上に落ち着きすぎている二人が気になった。

「そのわりに、二人とも冷静ですよね」

「スパイの身柄は、既に確保してますから」

「身元も分かってるわぁ。中の下位のレベルのぉ、正義の組織のメンバーよぉ」

 なら安心だ。

 何も問題無いはずだ。

「では、やむを得ない事情というのは何でしょうか?」

「スパイが捕まる直前、この場所を自分の基地に教えたようなのです」

「早く対処しないとぉ、ここに攻め込んで来ちゃうのよぉ」

 困ったわねぇ、とローズは笑う。

 ハル達は暫し沈黙し、

「「……えぇぇぇぇぇぇ!!」」

 絶叫した。

「ちょ、ちょっと待ってよ。それって、ジャスティスとか来ちゃうんじゃ?」

「不味いぞ。吾輩の怪人達も、まだ実戦は早すぎる……」

「ど、どうしましょう」

 激しく動揺するハル達に、

「なので、今回その正義の組織を壊滅させる事にしました」

 冷静に千景は告げた。

「だが千景よ。基地がばれた以上、その組織を壊滅させたところで……」

「それはご心配なく。その組織から、他の組織に連絡が行くことは考えられません」

 一同の何故、と言う視線を受け、

「ランクFの悪の組織の基地を見つけた。手柄は独り占めしたいですよね」

「世間的には私達は弱小よぉ。応援を呼ぶ必要なんて無い、と思っているはずだわぁ」

 千景とローズの冷静な意見。

 この二人が言うならそうなのだろう。

 絶対の信頼を向けるハル達とは違い、新ハピー達はまだ不安そうだ。

「ただ、もたもたしているとこの組織が攻めてきます」

「向こうが準備をしてる間にぃ、こっちから攻め込んで倒しちゃいましょう」

 ちょっと買い物に、と言う気軽さだった。

「それで千景よ。具体的にはどうするのだ?」

「新人の皆さん全員で、敵の基地に直接乗り込んで貰います」

「えっ、それはあまりに危険では……」

 心配する柚子の発言に、新ハピー達は期待するが、

「戦闘指揮に奈美を同行させます。ハル君にも補佐をお願いします」

「なら安心です」

 あっさり反旗を翻した柚子に、ガックリと肩を落とした。

 その様子を見て、ハルはふと疑問を感じた。

「……なあローズ。彼らは奈美の事を知らないのか?」

「ええ。あの子達には、実戦の緊張感を味わって欲しいからねぇ」

 ローズの言葉でハルは納得がいった。

 確かに奈美の力を知っていれば、それをあてにしてしまうだろう。

「訓練では体験できない、命がけの緊張感がぁ、成長には欠かせないのよぉ」

「ローズがどんな訓練をしてたのか、大体想像出来たよ」

 ハルは苦笑しながら言った。


 こんなやり取りがあり、現在に至る。



 ハル達に渡されたのは、敵基地の場所が書かれた手書きのメモのみ。

 意外と近場だったため、一行は徒歩にて移動することになった。


「あ、あのハル様?」

「様はいらないよ。俺の方が年下だろうし」

「ではハルさんとお呼びします」

 新ハピーの言葉にハルは頷き、先を促した。

「本当に、私達だけで正義の組織を壊滅なんて、出来るんでしょうか?」

 もっともな疑問だ。

 ハルも奈美が居なければ、今すぐにでも逃げ出すところだ。

「まあ、普通はそう思うよな。でも、大丈夫だと思うよ」

「どうしてですか?」

「千景さんが命令したからだよ。あの人は無理な命令は絶対にしない」

 驚く新ハピーに、ハルは更に続ける。

「出来ると言ったことは、必ず出来る。俺たちの努力とやり方次第でな」

 自信を持って答えるハル。

 これまで共に戦ってきた信頼があるからこそ、言える言葉だった。

 新ハピー達は暫し沈黙し、

「あの方は、私達の力を信じて大切な任務を任せてくれたんですね」

「それだけ見込まれてるってことですよね」

「おっしゃ~。何かやる気出てきたぞ」

「その期待に応えるためにも、この任務、絶対成功させるぞ」

「「おぉぉ~!!」」

 やる気に満ちた雄叫びをあげた。

「……まあ、たまに無茶なことを言い出すけどね」

 ハルは誰にも聞こえないよう呟いた。



 やがて一行が辿り着いたのは、とある小さな定食屋だった。

 大衆食堂のイメージがピッタリな、年季の入った建物。

 食事処と書かれた古ぼけたのれんが、風になびいている。

 どこからどうみても、平凡な定食屋にしか見えない。

「おい奈美、本当にここか? まさかご飯を食べに寄った何て事は」

「違うわよ。……お腹は空いてるけど」

 ぐ~、と腹の音が鳴るのはご愛敬。

「ほらこのメモ。安田食堂って書いてあるし、住所もあってるわ」

 ハルは奈美に渡されたメモを確認する。

 そこに書かれた住所は、確かにこの定食屋を指していた。

「……もっと格好いい、近未来的な基地を期待してたんだけど」

「良いじゃない。私はこっちの方が好きよ」

 奈美にとってはそうだろうが……。

「何にせよ、ここで話してても始まらないわ。中に入りましょう」

「分かったよ。……みんな、これから敵の基地に侵入する。気を引き締めて行こう」

「「はいっ!」」

 奈美を先頭に、営業中の札が掛かった引き戸を開け、中へと入っていった。



「いらっしゃいませ!」

 中に入ったハル達を、男の威勢の良い声が迎える。

 警戒していた奇襲は無かったが、まだまだ油断できない。

 ハルは店の中へ進みながら、店内の様子を把握する。

 入り口正面にL字のカウンター席。これは十席ほど。

 左手にはテーブル席が六つ、その奥に座敷席。

 店内は外から見た以上に広く、ハル達全員が入ってもまだ余裕があるほどだった。

「お客様は団体様ですか? でしたら座敷席がよろしいかと」

 カウンター越しに声を掛けるのは、四十代位の白い調理服を着た男。

 他には割烹着を着た、見た目三十代の女性が一人。

 ここまではまだ、何処にでもある一般的な定食屋だ。

「えっと……」

 どう探りを入れるか、ハルが思考していると、

「私達は客じゃないわ。あんた達をぶっ潰しに来た、ハピネスよ」

 奈美があっさりと宣誓布告してしまった。

「な、奈美よ。もう少し大人の駆け引きとか、そう言う奴を……」

「別に良いじゃない。話は簡潔に、分かりやすくよ」

「それは分かるが。もしこの人達が無関係だったら……」

 どうしてもその可能性が捨てきれないハル。

 だが、

「何ぃ、ハピネスだと。こっちが仕掛ける前に来るとは」

 絵に描いたような自白をする男。

 駄目だよ……、二時間ドラマでももう少し粘るよ。

「スパイなんて卑怯な真似をしてくれた落とし前、付けさせて貰うわよ」

「ち、仕方ないね。……お前達、出入りだよ」

 優しそうな割烹着の女性が、一気に極道の妻に変貌した。

 明らかに悪役の方が向いているだろう。

 女の呼びかけに答えるように、店の奥から調理服の男達が現れる。

 手には包丁やらを携え、物騒なことこの上ない。

「女将さん、まだ襲撃準備は終わってませんが……」

「向こうさんから来ちまったよ。構わないから、ここで始末おし」

「「合点だ!」」

 十名ほどの男達が、カウンターを飛び越え、ハル達に襲いかかる。

「さあみんな、作戦は特にないわ。目の前の敵を叩き潰しちゃいなさい」

「「は、はいっ!」」

 いきなりの実戦に戸惑うハピー達だが、敵は待ってくれない。

 戦いの火ぶたは、切って落とされた。


まさかの正義の組織襲撃任務。

実は正面から正義の味方と戦うのは、初めてだったりします。

新人に任せて良いのかよ、と言う突っ込みはなしの方向で。


今回は敵の本拠地に着いたところで終わってしまいました。

次はいよいよ戦闘開始です。

ただ、奈美が居ると一行で戦闘が終わってしまいそうですね(苦笑い)。


新メンバー加入の話は、次回で終わります。

いつもより少し早めの更新になります。

次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ