正月くらい休みましょう
悪の組織と言えど、正月くらいは休みたいもの。
ハピネスも正月気分を満喫してます。
ハッピーハピーは忙しい。
GWやお盆、クリスマスや年末も働き通しだ。
そんな彼らにも、連休が貰えるときがある。
それが三が日の正月休暇だ。
「新年、あけましておめでとう。
去年は諸君らの活躍で、我らにとって実りのある年となった。
この休暇で英気を養い、今年も去年以上の活躍を期待しているぞ」
「「お~!」」
「では、乾杯」
「「かんぱ~い」」
晴れ着に身を包んだ紫音の挨拶に、ハピネス一同がコップを掲げて応える。
ハピネスはすっかり正月気分に浸っていた。
「それにしても、随分と雰囲気が変わるもんだな」
「そうよね。いつもの食堂なのに畳を敷くだけで、全然違う場所みたいだわ」
御神酒を傾けながら、ハルと奈美は呟く。
テーブルと椅子をどかし、一面に畳を敷き詰めた食堂は、和風の香りがした。
「みんなが和服を着てるせいもあるかな」
「……あのね、ハル。どうかなこの着物?」
「ん、良いんじゃないか。似合ってると思うぞ」
率直な感想を告げる。
赤を基調とした晴れ着は、活発な奈美に良く似合っていた。
「えへへ、そうかな。結構気に入ってるんだ」
「男と違って、女の着物は着るのも面倒そうだな」
「確かにね。でも私は実家が古い家だったから、着付けも習わされたわ」
嫌そうな顔をする奈美に、ハルは苦笑で答える。
男には分からない苦労と言う奴だろう。
そんな雑談をする二人に割り込むように、
「は、ハルさん。あけましておめでとうございます」
「柚子か。おめでとう。今年もよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ。……お注ぎ致しますね」
柚子はハルの横に座り、空のグラスに酒を注ぐ。
「ありがとう。…………ふぅ、じゃあ返杯だ」
「頂きます」
返杯を受けた柚子も見事に飲み干す。
頬に赤みが差し、和服と相まって色っぽさを感じるはずだが、
「……七五三か」
柚子にそれを求めるのは酷だった。
「ねえねえ、私にも注いでよ」
「構わないが……ジュースは何処にあったかな」
「お酒で良いわよ。子供扱いしないで」
「……正真正銘子供だろうが。お前は酒を飲むと大変だから駄目だ」
ふて腐れる奈美だが、ハルは構わずにジュースを注ぐ。
体も頭も成長中の子供には、酒は害を与える危険がある。
去年は色々あったが、今年こそは厳しくしなくてはと心を決めた。
「分かったわよ。って、何処か行くの?」
「丁度良いタイミングみたいだし、酌をしに行って来るよ」
一升瓶を片手に、ハルは席を立った。
「千景さん、あけましておめでとうございます」
「あらハル君。おめでとうございます」
「よろしければ注がせて下さい」
「ええ。お願いします」
差し出されたグラスに酒を注ぎ、返杯も受ける。
「でもハル君。先に紫音の所に行かなくて、よかったんですか?」
「紫音様はお酌の順番待ちですからね」
視線を向けると、紫音はジュースを持ったハピー達の酌を受け続けていた。
炭酸攻勢に顔が歪んで見えるが、きっと気のせいだろう。
「トップに人望があるのは良いことです。どんな形でもね」
「そうですね。……千景さん、その着物良くお似合いですよ」
「褒めるのがもう少し早ければ満点でした。でもありがとう」
紺色の着物に身を包んだ千景は、いつも以上に美人に見えた。
長い黒髪も相まって、まさに大和撫子という感じだ。
「ハル君も着れば良かったのに。着付けは私がしてあげますよ」
「勘弁して下さい。今年は心機一転、男らしさを追求するので」
それは残念、と千景は微笑んだ。
「あらぁ、ハルちゃん。あ・け・お・め♪」
「相変わらずだな。あけましておめでとう。今年もよろしく」
「こちらこそよぉ。頼りにしてるわぁ」
「注がせて貰うよ」
ローズが頷いたのを確認し、ハルは酒を注ぐ。
「はぁ~。今日のお酒は美味しいわぁ。じゃあ、返杯ねぇ」
「…………ふぅ、頂いたよ」
「相変わらず良い飲みっぷりねぇ。ママ仕込みかしらぁ」
「そうだね。……また働きに来いって年賀状が来たよ」
「みんなで行くのも良いかしらねぇ」
「…………止めておこうよ。警察沙汰になる人が、最低二人はいるから」
七五三の二人に視線を向け、ハルは苦笑いした。
「え~っと、蒼井は何処かな?」
キョロキョロと室内を見回すが、蒼井の姿は見えない。
「トイレかな」
「ん、吾輩がどうしたのだ?」
「ああ蒼井。何処にいた…………蒼井?」
声を掛けられたハルは振り向き、固まった。
そこにいたのは白衣の不健康そうな男ではなく、
紋付き袴をビシッと着込んだ、ナイスガイだった。
「何故疑問系なのだ」
「いや、だってさ。何て言うか……随分健康的じゃないか?」
ハルの疑問はもっともだ。
目の下の隈、こけた頬、青白い顔色は微塵もない。
トライアスロンが趣味です、と言い出しそうなほど健康的なのだ。
「ああ、これはだな。……あの女のせいだ」
蒼井は忌々しげに柚子に視線を向ける。
「柚子の?」
「あの女が健康管理とか言い出して、禁煙やら食事制限やら運動をさせられたのだ」
「……良いことじゃん」
「ちっとも良くないぞ。お陰で吾輩が理想とする科学者のイメージが」
シクシクと項垂れる蒼井。
少しも同情できないのは何故だろう。
「まあ、健康なのは良いことだよ。悪い事なんて無いだろ」
「冗談じゃない。健康なら色々試せますね、とか言ってあの女は……」
「私が、どうしたんですか?」
蒼井の言葉は、背後からの声に遮られた。
「駄目ですよ蒼井さん。ハルさんに変なことを言っちゃ……ね」
柚子の微笑みに、蒼井はコクコクと頷くしかなかった。
「後は……紫音様が空いたか」
お酌が一段落したハルは、ようやく解放された紫音の元へと向かう。
「紫音様、あけましておめでとうございます」
「う、うむ。おめでとう……」
何かを堪えているのか、苦しそうに紫音は返事をする。
「……どれだけ飲んだんですか?」
「私の体重よりも……多かったと思うぞ」
「それは、ご苦労様です」
ハルは紫音の見えない努力を、素直にねぎらった。
「それで……お前も注ぎに来たのか?」
「そのつもりでしたが……」
限界を超え、帯も緩めている紫音に注ぐのは気が引けた。
「気にするな。酌は皆の気持ちだ。どれほどでも受け入れられるぞ」
「では失礼します」
ハルはジュースを注ぎ、紫音は何とかそれを飲み干す。
さあ返杯だとなった時、異変は起きた。
「…………………」
「紫音様?」
体を小刻みに震わせる紫音。その顔色は青白く変わっていた。
「ひょっとして気分が悪くなったんじゃ。……柚子を呼びますか?」
「ち、違うのだ。その……もよおしてしまった」
恥ずかしそうに告げる紫音。
大量の水分を摂取したのだから、当然の生理現象だろう。
「俺に気にせず、トイレに行って下さい」
「いや……そのだな。お腹がタプタプで、動けないのだ」
それは一大事。
「じゃ、じゃあ。千景さんを呼びますから……」
「駄目だ、間に合わない……。もう……」
千景を呼ぶ時間はない。
ハルに残された選択肢は、ただ一つ。
「紫音様。失礼しますよ」
なるべく刺激しないように紫音を抱き上げ、急ぎトイレへと向かう。
「ハルよ……すまぬ」
「いいですから。もう少しだけ我慢して下さいね」
上下運動をしないよう、すり足で廊下を歩く。
極限の緊張感の中、ようやくトイレに辿り着いた。
「紫音様、着きましたよ」
「ハル……感謝する」
紫音をトイレに押し込み、最大の危機は何とか回避された。
宴が始まり、数時間が過ぎた。
酒が程良く回り、上機嫌のハピネス一同。
ハルも例に漏れず、楽しい一時を過ごしていた。
「いや~、たまにはこういうのも良いですね」
「楽しいことがあるからこそ、人は頑張れますから」
「今回は平和に終わりそうですし、今年は良いスタートが切れそうですよ」
「ふふ、それはどうでしょう」
千景は悪戯っ子の様な笑みを浮かべると、上座へと移動する。
「皆さん、この辺りで正月らしくゲームをしませんか?」
千景の突然の発言に、一同は何事かと視線を向ける。
「幾つか、正月ならではの遊びを用意しました。……優勝者にはお年玉を差し上げましょう」
「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」
雄叫びをあげるハピー達。
嬉しいはずのサプライズだが、ハルは嫌な予感しかしなかった。
「ではまず、百人一首大会と参りましょう」
こうして、幸福荘は戦場と化した。
百人一首大会。優勝者は、紫音だった。
「……まさか上の句を読む前に、全部取られるとは思いませんでしたよ」
「いや、何となくこの札かな~と」
勝負にすらならなかった。
羽根突き大会。優勝者は、奈美だ。
「ありのまま、今起こったことを話すぜ。
奈美が羽子板を振りかぶったと思ったら、羽子が顔に突き刺さっていた。
俺自身、何を言っているのか分からない。アレは……もはや人間の業じゃない」
「ちょっとやり過ぎちゃったかな」
音速を超えた羽子の攻撃に、最初に対戦したハル以外は全員棄権した。
独楽回し大会。優勝者は、居なかった。
「た、竜巻が。竜巻が迫って……うわぁぁぁ」
「「ハルさんが巻き込まれたぞ!!」」
「う~ん、力加減が難しいわね」
中庭に突如発生した天災?によって、大会は中止となった。
凧揚げ大会。優勝者は……一応蒼井だった。
「吾輩が開発した、この超巨大凧なら優勝は……ぬぉぉぉ、飛ばされるぅぅぅ」
「「ドクターが凧に引っ張られて、飛んでいったぞ!!」」
「流石ドクターだ。あそこまで身を張るとは」
「優勝は彼で決まりですね」
「大会の締めに相応しい、良いパフォーマンスよねぇ」
「……ちょっとは心配しようよ」
「良いんじゃないの? 蒼井だし」
「冷えてきましたし、中に戻りましょうか」
空を舞う蒼井を尻目に、一同は食堂へと戻っていく。
そんないつもの光景に苦笑いを浮かべながら、ハルは思う。
願わくば、来年も同じように馬鹿騒ぎが出来ますように、と。
ハルの願いが叶うかは、未だ分からない。
あけましておめでとうございます。
PCの無い環境で年末年始を過ごしたため、投稿が大分遅れてしまいました。
もう少しタイムリーにやりたいネタでした。
お休みムードは今回で一段落と言うことで、ハピネスには、
そろそろ本腰を入れて、悪行に励んで頂きたいと思っております。
一部シリアスな話も入れますが、基本は理不尽なコメディーです。
横道に逸れまくりますが、呆れながら読んで頂ければと思います。
次からは、以前のような更新ペースに戻せると思います。
次回もまた、お付き合い頂ければ幸いです。